Serena*Mのあたまのなかみ。
無限に広がるパラレルワールドの、ひとつってコトで。
(多分)ビッチなペコと人タラシのスマイル。あと常識人アクマ。
(多分)ビッチなペコと人タラシのスマイル。あと常識人アクマ。
『人さまから奪ったモノはね、必ずいつか奪われるんだよ』
それは母がよく口にする言葉で、今日も彼女の灰皿には真っ赤なルージュの付いた吸殻が、まだ長いままで放置されていたから、きっと半年前に付き合った男を誰かに奪われたのだろう。
でも、彼女は恋多き女であり、きっと来週には誰かから新しい男を奪ってくる。
其れを知っているから、僕は何も云わずに頷いた。
――誰も物でもなければ、誰にも奪われないで済むの?そんな、素朴な疑問すら口に出せないまま。
母がそんな調子だったから、僕は恋愛事にもあまり興味が湧かず、そう云った話題と疎遠な生活を送っていた。
どんな時にも冷静で、そんな風に誰かの挙動に一喜一憂できる素直さが羨ましいと思いながら、自分の心に鍵を掛けた。
きっと誰も好きにならない。誰からも好かれない。何かを奪ったり、奪い返したり。面倒だったから。
けれど。
やっぱり僕はあの母の子供なんだと、見かける幼馴染を見て痛感した。
誰かの彼氏だってもいい、僕だけを向いて欲しい。
愚かな願いに、容易く僕の身体は動き、そして幼馴染にこう告げた。
「…好きなんだ、ペコ。
僕と付き合って」
驚くほどあっさりと、彼はそれまでの女性関係(時々、男性も)に終止符を打ち、僕らは蜜月を過ごした。
同じストローで飲むカルピス、帰り道のコンビニ、一緒に作った夕食。
そして、自然に君を抱くその営み。
均衡が崩れ始めたのは、3ヶ月ほど経ってからだった。
木枯らしが吹くその日、
「今日はおでんにしようか」
云った僕に彼は要らないと首を振る。
「今日は用事あるから帰んね」
それは初めて事で、でも学校も部活も一緒だったから僕はあまり気にせずに久しぶりの一人の夜を過ごした。
それから、彼が家に来ることが少しずつ減ってゆき、そしてメールの返事も遅くなった。
何だか急に胸騒ぎがした夜、同じ幼馴染のアクマに電話をすると其処は外らしく、繁華街なのだろうか、がやがやと雑音が多かったけれど、よく聞いた声を見つけた。
『なンだアクマー?ムー子ちゃんかぁ~?』
――どうして、ペコが?用事があるってアクマと会うことだったの?
「…あ、ごめん。間違えた」
相手の返答を聞かずに通話終了のボタンを押すと、広がるのは暗い妄想ばかりで。
それから何度かアクマからの着信が入ったけれど、それを全て無視して、気付いた時には既に朝だった。
寝不足で真っ青の、最悪な僕の顔を見て母が尋ねる。
「…何かあったのかい?」
僕は首を振って、恋の達人に尋き返した。
「母さん、奪った恋がまた奪われそうになったらどうする?」
「…そりゃぁ、また奪い返せば良いさね」
遠くを見遣りながら、彼女。
灰皿の煙草の数が減っていたから、きっと今の恋は上手くいっているんだと諒解した。
奪い返せ、か。
師匠はなかなか厳しい事を云う。
部活を終えて校門を出ると、其処にはアクマの姿があって、
「ちょっと、顔貸せ」
そう顎で向こうを指された。
「オイラは~?
オイラも一緒でいい?」
笑顔で彼に縋るペコを見て、彼が誰に奪われたのを悟る。
「テメェは帰れ。
俺はスマイルに用があんだ」
まわとりつく彼を引き剥がし、しっしっと犬を追い払うように手を振ったアクマに、ペコは思いっきりアカンベを作ると、それでも大人しく家路に続く道を歩いて行った。彼が小さくなるまでお世辞に手を振っていたアクマが此方に向き直る。
「此処じゃぁ、なんだしファミレスにでも行くか」
反対側の坂を下ったところに、少し前からファミレスが出来たのを知っていたから、僕は大人しくそれに従った。
「…お前ら、付き合ってたんじゃねェのか」
250gのステーキを豪快に放りながら云うアクマに、僕は付き合ってるよ、と短く返す。
トマトのパスタがYシャツにハネないように、丁寧にフォークに巻きつけてから口に運んだ。
「アイツ、俺に抱いてくれろって言ってきたぞ」
喉の奥がきゅっと閉まって、パスタが其れ以上食道を進まなくなる。
慌ててアイスコーヒーで流し込んで咳き込むと、彼は身体を伸ばして背中を叩いてくれた。
「…大丈夫か」
――大丈夫じゃない。
何処の世界に、恋人の浮気を告白されて喜ぶ阿呆が居る?
「それで、抱いたの?
…よかったでしょう、彼」
「バカか、オメーは。
断ったよ」
アクマは大盛りのご飯をかき込んで続ける。
「俺にゃムー子が待ってるしよ。
テメーらの痴話喧嘩に巻き込まれるのは真っ平なんだ」
ソテーした人参を避けたのを見ると、彼も子供の頃から変わっていない。
「…さっさと仲直りしな。
アイツに纏わりつかれんの、ほんとにウゼーしよ」
豪快にジンジャエールを飲み干して、彼は伝票を掴む。
「そんだけだ、じゃぁな」
ファミレスに残された僕は、ひとり。
喧騒に巻かれながらアクマの言葉を反芻していた。
――奪わないの?あんなに魅力的な彼を?
怒りの観点が少し、間違っている気がしなくもないけど、
それでも僕は彼がまた戻ってくるような気がして、携帯電話を取り出した。
久しぶり過ぎて、何を喋ったら良いのか分からない。
でも、君に伝えたいことは沢山あるんだ。
『もしもし?』
「もしもし、ペコ?
僕とさ、デートしようよ」
人の気持ちを閉じ込めておくことは、誰にだって不可能だ。
平家物語でも云っていただろう?
【盛者必衰の理をあらわす】
君の、風船のようなその気持ちを僕に留めてもらうには如何したら良い?
誰にも奪われないように、ずっと閉じ込めておこうか。
それとも、二人っきりの世界に逃げ込んでみようか。
其れを考えても答えは出なくて、僕は君に囁く。
「愛してる」
この言葉で、君を繋ぎとめられるのなら
この杭で、君が満足するのなら
「ペコ、ずっと一緒だよ――」
*FIN*
でも、このペコはいつか誰かに奪われると思うなー。
幸せになれないスマイルルート。若しくは黒スマイル。
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