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Serena*Mのあたまのなかみ。
僕のヒーローアカデミア/心尾

核になるのは『酔っぱらって甘えたな姿を見せたくないので個性(洗脳)を使って阻止する心操くん』です。
飲み会シーンのガヤ台詞、誰かな!?と考えてみてくださいね☆うふふふっ


「ごちそうさまでした」

少し質素な晩ご飯、ケミカルな味のカップ焼きそばの容器に心操が両手を合わせたところで(時々このチープな味が食べたくなるのだ)、隣に置いたスマートフォンがブルブルと震える。
画面に映し出されたのは同棲する恋人の名前で、今日は『クラスの皆で飲み会なんだ!』そう張り切って出掛けた筈だ。
随分前からカレンダーに大きく予定は書き込んでいたし、久し振りに皆と会えると今日は1日上機嫌だった。迎えに来て、云うには時計の針はまだ早い。

心操はコップに残った麦茶を飲み干すと画面に指を滑らせる。

「もしもし?」

夕餉の片付けもしたかったからスピーカー通話をオンにする。
テーブルにスマートフォンを置いたまま、猿夫——言う前に熱い声が響いた。

『あっ、心操か!?』

がやがやとした背後のざわめき、聞き覚えのある「芋焼酎貰えるかしら?」「オレンジジュースもひとつ!」記憶よりも円熟味の増したヒーローたちの声…

「あ、うん。そうだけど」

心操は言って声の主を辿る。

今日は雄英1年A組が久しぶりに集まっての飲み会だった。高校を卒業して、各々が忙しい身でありながらもこうして集まるA組のメンバーは仲が良いのだと思う。グループチャットはいつでも活発な情報交換の場だったし、「見てよ、この通知の数」なんて1晩で3桁になった未読の通知を尾白が見せてくることもあった。
確か、今日の会の中心は芦戸で、男子に声を掛けたのは切島だった筈だ——

「烈怒頼雄斗!」

思わず声を大きくした心操に電話口の切島が破顔したのが分かる。

『当ったり~!!!!
 …ってそうじゃなくて!』

心操の返事を待たずに切島は続ける。

『悪い、心操。勝手に尾白の携帯弄ったのは先に謝る』

――心操と尾白の仲は雄英の頃から始まっていた。
付き合いたての頃こそ控えめな逢瀬だったものの、そこは寮生活もある学校だ。口には出さなかったものの、尾白と心操は特別な関係であることはA組の誰もが知る事実だった。

「いや、大丈夫だよ。尾白のことだろ?」

麦茶のボトルを冷蔵庫に仕舞いながら心操は察する。

『オレたちも悪いんだけどさ…ちょっと、尾白に飲ませすぎちゃって…』

背後に聞こえる「アイス頼んだ人~」「いちごミルクこっちにちょうだいー!」弾んだ声に心操は短く返す。

「……寝ちゃった?」

――尾白はアルコールが得意な方ではない。
軽い飲み口のカクテルでさえ1杯で顔が赤くなるし、2杯も飲ませたらコテンと寝てしまうのがいつもの姿だ。
今朝だって「あんまりハイペースで飲むなよ」「分かってるって。俺も大人だし、失敗するような飲み方なんてしないって」なんて笑ったのだ。
酒が“嫌い”であれば誰も無理に飲ませようとしないだろう。ただ、“得意ではない”のであって“嫌い”ではないのが難しいところだった。

焼きそばの容器をキッチンのゴミ箱に突っ込み、使ったコップはシンクに置き、切島からの返事を待たずに心操は手早く身支度を整える。

『ん。まだぎりぎり起きてるけど寝そう。
 ってか葉隠たちが寝かしつけようとしてる』

切島の声に心操は小さく溜息を吐くと、撥水素材の軽やかなジャンパーを羽織った。

「えっと……〇□駅だっけ?」

ジーンズのポケットに財布があるのを確認して、鍵を掴んで玄関の扉を開ける。

『駅裏のアーケード沿いの×△って店』
「今から迎えに行くよ。
 これから二次会とか行くんだろ? 悪いけど、オレが着くまで少し待っててよ」

鍵をかけてトントンとスニーカーを鳴らした心操に『ほんと悪ィ!』切島はもう1度謝った。

「ヘーキヘーキ。
尾白が酒に弱いのは本人が1番分かってるだろうし。……今日も凄く楽しみにしてたからさ、少し気が緩んだんだよ」

彼が今日の日を楽しみにしていたのは事実だ。それだけは伝えておきたくて心操の言葉も強くなる。それから、

「20分くらいで行けると思う」

そう言って通話を切った。
エレベーターを待つ時間も惜しいと非常階段を駆け下り、大通りに駆け出す。金曜日の夜、普段よりも道は空いていてタクシーの社名表示灯が目に飛び込んだ。早速に手を差し出して空車のタクシーを停める。

「〇□駅の東口お願いします」

ドアが開くのと同時に告げた目的地に、運転手は「畏まりました」頷いて夜の街へと車を発進させたのだった。



有名人が多いヒーロー科の社会人が集まる居酒屋は、個人経営のこじんまりしたお店だった。店の明かりは灯いているものの、店先に置かれる看板は皆無で、どうやら貸し切りにしての飲み会らしい。暖簾を潜って店主に頭を下げると「兄さんも雄英のヒーローなのかい?」なんて気さくに微笑まれる。壁一面に貼られたヒーローのサイン色紙に心操が目を丸くすると、以前、芦戸の所属する事務所のヒーローに助けて貰ってからすっかりヒーローのファンになってしまったと店主は笑った。其れが縁になって芦戸が店主に融通を利かせて貰って今日の会が成立したようだった。

「おっ、心操!こっちこっち!」

カウンターで店主と談笑する心操に、小上がりに居た上鳴が手を振る。

「あっ心操くん! この前テレビに映ってたね~見たよぉ」
「合コンする時ぁ俺も呼べよな~!!」

なんて上機嫌な1-Aの隙間を縫うように進み、奥のテーブルへ着くと、其処にはテーブルに突っ伏した尾白の姿があった。
テーブルには彼が飲んだであろうカクテルのグラスが置かれている。まだ半分くらい残った薄い茶色の液体から察するに、其れはウーロン茶のカクテルで、最初の一杯によく指名されるスタンダードな酒だった。

「ホラ、尾白。心操が迎えに来たぞ」

隣に座った上鳴が尾白の肩を叩くと「んぁ?」尾白が赤い顔を上げる。

「あ、ひとしだぁ♡」

酒に潤んだ瞳で見上げて、下の名前を呼んだ恋人に心操の眉が寄る。

「俺の彼氏かっこいいでしょ♡♡」

傍らの砂藤に自慢するように心操を指差した尾白は、今まで見せた事のないような顔で蕩けている。思いもよらない酒の呑まれっぷりに、思わず心操は『おじろ』そう個性を声に乗せた。

「うん――?」

反応した尾白の首が下がったのに、テーブルを囲んだクラスメイトは彼が個性を使った事を諒解する。無表情に虚空を見つめた尾白に、向かいに座っていた障子がぎょっと表情を歪めた。

「お金、これで足りる?」

尻ポケットの財布から高額紙幣を取り出した心操に障子が首を振る。

「多い」

上鳴も続けて首を振った。

「幹事は芦戸だからそっちに払ってよ」
「ん、オレ尾白背負わなきゃなんないしさ、悪いけど代わりに払っててよ。
 …個性使ったのは内緒にしてね」

含み笑いを浮かべた心操に「りょーかい」テーブルの3人は頷く。それから、彼が尾白を背負うのを手伝った。落ちそうな尻尾は肩に掛けると、筋肉質なその重さに心操も驚く。

「これ、尾白の」

砂藤が差し出したボディバックは見慣れた恋人のもので、お揃いの猿のキーホルダーが揺れている(日光に旅行した時の思い出だ)。「悪い、首に下げてくんない?」頭を下げた心操に障子がボディバックを首に下げてやると、「悪かったな~」まだ謝る切島たちに見送られて店を後にする。がっしりした武闘家を背負っていると、自然とゆっくりとした歩調になった。

久し振りに歩いた繁華街の煌めくネオンは鮮やかで、これが毎日守っている街の平和なんだとぼんやりと思う。
このままタクシーに乗って帰るのも悪くなかったが、恋人の体温も気持ちが良いし、彼の酔い覚ましも兼ねて少し歩こうと心操は決意した。

街灯の多い繁華街から、街路樹の多い通りに変わったあたり、ずり落ちそうな恋人を背負い直したところで「…1人であるける…」耳元に声が届く。

「…起きた?」

尾白の言葉に、心操は立ち止まったまま首を捻る。
ちょっと黙って貰うのに個性を使っただけで、強い力は掛けていなかったから、洗脳は自力で解ける程度だった。今、背負い直した振動で解けてしまったのかもしれないし、もしかしたらもっと前から戻っていたのかもしれない(ただダイミングを逃していただけ!)。

尾白の声が少し不機嫌で、あぁ、心操は苦笑する。下ろせと暴れないだけマシだろう、恋人の個性の下で握った手をぎゅっと掴んでもう1度心操は恋人を負ぶい直す。

「猿夫、酔っぱらってたからさ」

ゆっくりと家へと続く通りを歩く心操の隣を、びゅんびゅんとタクシーが走って行く。行く時は心操もこうしてタクシーに乗ったから、金曜日の夜は稼ぎ時のようだった。

「ちょっと飲んで……寝てただけだろ…?」

恋人の言葉に尾白は唇を尖らせ、ぽすぽすと肩に置かれた尻尾で心操の胸を叩く。
少し舌足らずに聞こえる声は幼く、まだアルコールが抜け切れていない証拠だった。

「べつに…1人でも帰れたし」
「そうだね」
「二次会はカラオケだって」
「じゃぁ今度俺と行こうよ。
 猿夫の好きなバラードでもいいし、去年の忘年会で練習した曲でもいいよ」
「……」

黙ってしまった恋人に「ごめん、行きたかったよな」心操は謝罪する。

「う~…」

暫く心操の首元にぐいぐいと額を押し付けていた尾白だったが、赤信号で止まった時にまたポツリと呟いた。

「ひとしがあやまる必要ないだろぉ…。酔っぱらって潰れたのは俺だし……。
 …切島たちにも悪い事しちゃったな…」

言って、「いい加減降ろせよ、歩ける」そう続ける。
けれど心操も

「お迎え行ったのはオレなんだから、最後まで面倒見させてよ」

なんて体勢を崩さない。
信号が青になって、夜風が尾白の頬を撫でる。夜になっても生温い空気なのは、もうそこまで夏が来ているのを知らせていた。

「…ごめん、猿夫」

街灯が少なくなって、家の近所の住宅街の小道に入ったところで心操はまた謝る。

「いや、だから謝ることじゃないって――」

恋人の謝罪を尾白は訂正しようとしたが、続けた心操の言葉に動きが固まった。

「…個性、使った」

――迎えに来た恋人を自慢するように甘えたのを、尾白自身は覚えていないらしい。

「…え?
 俺、店で寝て…それで迎えに……」
「間違いじゃないよ、それで」

一軒家の立ち並ぶ路地を歩きながら、心操は続ける。筋肉質な格闘家を支える両手は痺れて感覚が無くなってきたが、此処まで来るともう意地に近かった。

「オレが迎えに行ったらさ、『俺の彼氏かっこいいでしょ♡』なんて猿夫が言うから――」

心操の発言に背後の尾白はまだ事の重大さに気付いていないようだった。

「…は……? へ……???」
「そんな可愛い猿夫さぁ、オレだって誰にも見せたくないじゃん…?」

そう言って振り向くと、目をまん丸にした恋人と視線がぶつかった。ニヤリと口の端を上げた恋人の表情に、朧げだった記憶が鮮明に蘇る。

『あ、ひとしだぁ♡
俺の彼氏かっこいいでしょ♡♡』

――其れは、尾白の本心だ。
だけど、本心を曝け出すには、些か不適切な場所だった。

「っあ、あ、あ……ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

耳元から突き抜けた絶叫に、キーンと心操の耳が遠くなる。
それから、「ここ、住宅街っ!」弾けるように言って、恋人を背負ったまま逃げるように駆け出したのだった。



「ただいまぁ」

もうすっかり酔いの覚めた尾白をソファに下ろして、首に引っかけたボディバックを「はい」項垂れる恋人に渡す。

「お風呂入れる? それとも少し水とか飲む? 酔い覚めてるんならコーヒーとか淹れるけど…??」

痺れた両手に血を通わせるようにパタパタと手を振りながら、気遣う心操の優しさも辛い。

「うぅ…携帯見たくない……」

ボディバックから取り出したスマートフォンに表示された通知の数を見て尾白はまた肩を落とす。そんな恋人を心操は笑うと

「ま、恋人がオレだから格好良いのは事実だし?
それにさ、あんな可愛い猿夫、誰にも見せたくなかったからね。洗脳して黙らせたのはファインプレーって言ってよ」

なんて慰めた。

「でも……最悪だ…」

特大の溜息を吐いた恋人に心操は目を細めると隣に座って肩を抱き寄せる。それから、「ま、諦めな」なんて結局は突き落とす。別に酒の席だし、誰も気にしてないかもよ、なんて続けた。

「それより……さ。
かっこいい彼氏♡に感謝のご褒美はないの?」

欲の色を滲ませながら、嫉妬を隠して心操は迫る。
壁掛けの共用カレンダーに並んだ2つの【×】は2人とも休みの証拠だった。

「…ばか」

ゆっくりとソファに沈められて尾白は瞼を閉じる。

――その先のご褒美は2人だけ秘め事。

もう少し酒と上手に付き合おうと、珍しく獣になった恋人に啼かされながら尾白は誓うのだった――

*おしまい*

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