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Serena*Mのあたまのなかみ。
NARUTO/カカイル

まだナルトたちが下忍で(割と)木ノ葉が平和だった頃の。
イルカ先生はアカデミーの先生だし、止め・はね・払いのしっかりした字を書くと思うし、
カカシ先生はゆるっと筆圧弱めだなぁと思った妄想です。

こう見えて、まだこの2人は付き合っていないのである――☆

読み終えてタイトルを見ると意味が分かるヤツにしたくて、こんなタイトルになってます。

壁掛け時計が10の文字を過ぎた頃、夜の帳もすっかり降りた空を尻目にイルカが書類の束を抱えてあっちの棚やこっちの棚に動き回っている。
本来であれば必ず2人が座っている受付だったが今は遅い時間だ、この時間の受付担当は1人になる。今宵の担当はイルカなのだろうか。席に座ること無く、彼は忙しそうに駆け回っていた。

「あれ、報告書の受付ってまだ大丈夫です?」

コン、と壁を叩いた音にイルカは反応する。忍の端くれであるイルカが気配に気づかない筈がない。声の主は彼よりも熟練した忍なのは確かだった。
ひょいと覗かれたドアに、見知った銀髪が煌めいてイルカは書類を扱う手を止める。

「あっ大丈夫ですよ! 確認します!」

慌ててくるりと椅子を回転させて座ったイルカに、カカシは音もなく近付くと報告書を差し出した。

「すいません、今日のと…あと昨日のと2つです」

目を細めて頭を掻いた里1番の忍者にイルカは首を振ると「大丈夫です」書類を受け取る。
既定の書類に書き足されたカカシの文字。少し筆圧が弱めで縦に長くて。見やすい字か、と言われれば閉口してしまうが丁寧に綴られた綺麗な文字だった。
任務の日付、内容、必要な条項を指差しで確認しながら「うん」イルカは顔を上げる。

「はい、ありがとうござます!
 確かに受け取りました」

机に置かれた『うみの』確認の判を押してイルカはまじまじと報告書を見つめる。

「…あ、何処か訂正箇所とかありました…?」

不安げに首を傾げた上忍に「いやいやいやいや!」慌ててイルカは首を振った。

「カカシさんの字、丁寧で綺麗だなって思って」

卓上のレターケースに報告書を仕舞いながらイルカは笑顔を向ける。

「……そうです?」

報告を終えた忍は少しだけ開放的になる。
一仕事終えたのだから当たり前だ。
明るい時間帯なら「次の人どうぞ」なんて手を差し出すが、今日はこんな遅い時間で誰も居ない。雑談に花を咲かせても問題はなかった。

「今日みたいに遅い時間で疲れただろうなぁ、大変だっただろうな…って任務の時でも見やすくて良い字です」
「はは、改めて言われると照れちゃうな」

カカシは居心地悪そうに口布を引き上げて続ける。

「…こうして受付で確認して頂くので、手間にならないように丁寧に書くようにはしてるんですけどね」

イルカの脳裏にさっき確認した書類の文字が浮かぶ。少しだけ癖のある里で1番有名な上忍の文字。1番に見られるのに、少しだけ優越感があった。

「イルカさん、今日は何時までなんです?」

微笑みを浮かべたままのイルカにカカシは尋ねる。
出会った時こそ子供たちの教育方針の違いで喧嘩腰になったものだが、今はこうして飲みに行くまでの仲になった。よく夫婦の間で“子は鎹”なんて言うが、大人の男2人だって子供が繋ぐ縁もあるのだ。

「あ、もう実は上がってる時間なんですけど…
 次の時間の奴…さっき書類の不備があるって言って出ちゃったんですよね…」

はぁ、溜め息を吐いたイルカにカカシは苦笑する。

「残業ってヤツですか」
「最近は受付の人数も減っちゃって、なかなか処理した報告書を仕分ける時間も無くて…手持無沙汰ついでにこうして片付けてる次第です」
「働きすぎじゃないですか?」

笑ったカカシにイルカは肩を竦める。

「あ、こんなオレの愚痴に付き合わせちまってスイマセン。
 カカシさんは明日非番でしたよね? ゆっくり休んでください」

机に置かれた上忍の予定一覧を捲りながらイルカが続けると「ね、先生」カカシが迫る。

「良かったら食事でもどうです?」

おちょこを傾げる仕草をした彼に「!!」イルカの目が輝く。

「あーー! いいですね」

カカシさんからのお誘いなんて断れる忍いませんよ、続けたイルカにカカシの体温が少しだけ上がる。

「俺、ちょっと上の方に報告したい事あったんで済ませてから戻って来ます。
 その間に先生も仕事終わらせてくださいね」

目尻を下げた上忍に「もちろんです!」イルカも満面の笑みを浮かべて頷いたのだった。



――場所は変わって、イルカのアパート。

結局23時近くになって戻ってきたカカシに、「もう店も閉まる時間ですよね」とイルカが自宅に招いたのだ。
寂しい男の独り暮らしなんで凝った料理とかは出せないですけど、そう前置きしたイルカに

「でも俺だって寂しい独り暮らしなのは一緒よ」

なんて言って道すがらのコンビニで酒を買い、途中の一楽(閉店作業中!)でチャーシューとメンマなんかを分けて貰って今に至る。

小さなテーブルには切っただけのトマトに浅漬けの茄子、一楽のチャーシューとメンマ、それに昨日作った残りだと言う昆布の煮物が並んでいた。

「そんなちゃんと支度しなくていーよ。早く先生も飲も」

台所に立つイルカに言ってカカシはビールのプルタブを引く。

「や、もうすぐ枝豆茹で上がるんで…!」

小さな1口コンロの前に立って振り向いたイルカに、カカシも遠慮なく「じゃ、かんぱーい」そう言って喉を潤した。
カカシがぼんやりとトマトと茄子をつついているとまだ湯気の立つ枝豆の鍋を持ってイルカが部屋に現れる。

部屋のドアノブに掛けられた枝豆はご近所さんからの差し入れらしく、まだ新鮮で緑の香りがしたから直ぐに調理(調理? 茹でただけだ)したのだった。

「夏はこのまま食べられる食材が多くていいですよね~」

カカシの向かい側に腰を下ろし、ビールのプルタブを引いたイルカにカカシが缶を掲げる。

「「かんぱい」」

「~~~~~~っ!!!」

ぐびぐびと喉を鳴らすイルカを尻目に、カカシは2本目のビールに手を伸ばす。

『飲み比べしましょう!』

イルカに提案され何種類かのビールを買ってみたが、今開けたビールよりもさっき飲み干したビールの方が好みの味だった。真っ青な缶に“夏の積み立てホップ使用”書かれた銘柄を記憶する。

茹でたての枝豆は塩加減が少し薄めだったが、ほくほくとした香りがして美味しい。旬ってこーゆーことだよなぁ、あまり食に拘らないカカシだったがイルカの作る料理(料理? だから茹でた/略)は美味いと思った。
ひとつ、またひとつと枝豆に手を伸ばしながらカカシは口を開く。

「さっきの話なんですけど」
「?」
「報告書の話です。
 アレって、やっぱり人それぞれなんです?」

おずおずと尋ねたカカシに、チャーシューを頬張りながらイルカが返答する。

「ん~そうですねぇ…
 やっぱり下忍になりたての場合は上忍のチェックも入るのできちんと書いてありますね」

確かに、カカシの担当する第7班の報告書はサクラが中心となって作成している筈だ。いつもサクラから「確認してくださいっ」言われるのを「うん、うん」聞き流しているのをカカシは反省する。

「やっぱりナルトたちみたいな男子は字が汚いですけど」

――一応、アカデミーでも指導してるんですけどねぇ。困ったように笑うイルカに、カカシはビールを煽る。
確かに、前にアスマが余りにチョウジの字が汚くてドリルを叩き付けたと言っていたのを思い出した。

「あとは、カカシさんたちのような上忍の皆さん丁寧ですね」

トマトにぱらぱらと塩を振ってイルカは言う。

「やっぱり…数をこなしてるからですか?」

カカシの問いに「うーん」イルカは頭を捻る。

「…まぁ、それもあるかと思うんですけど……
どんなに込み入った報告事項でも読みやすい字で簡潔にまとめられてて…
こちらとしては有難い限りです」

綺麗に口角の上がった笑顔を向けられてカカシは少したじろぐ。

「…こ、こっちとしてもさくっと出して任務終了にしたいですからね。一応気を遣います」

好物の茄子を使った浅漬けに箸を伸ばしてカカシは呟く。
初めて招かれた時は胡瓜だった浅漬けが、茄子が好きだと話したら茄子に変わるようになった。決して押し付けじゃない、さり気ない気遣いに好きだな、カカシは思う。

そんな彼の想いも知らず、アルコールに少し顔を赤くしたイルカは続ける。

「……困るのは中忍ですよ、特に上がりたての。
上忍のチェックもないからか急に雑になって…」

口を尖らせたイルカに、カカシは目を細めた。

「面倒なオカンが居なくなったようなモンですからね」
「そう、それ! その気持ちも分かるんですけどね、オレもそうでしたし」

イルカの言葉に、思わずカカシが食いつく。

「えっ!?」

いつもは半開きの目を丸くしたカカシに「そんな驚くとこです!?」逆にイルカは笑って続けた。

「そうですよ。
オレも昔、報告書なんて分かればいーだろ!なんて『迷子の犬探し。3時間後に犬を見つけた!』ってだけ書いて提出したこともあります」
「えっ、それで受理されたんですか?」
「なるべくね、口煩くない担当の人に出すんです。ベテランとか新人か。
それが良かったの分かりませんけど…何も言われなくって……それからいかに簡素に書くか、みたいになっちゃって…」

話の予想がついたカカシが頬杖をついてオチを強請る。

「ははは……でもそのうち…?」
「はい、コッテリと絞られましてね。アカデミー卒業して中忍になったのに、当時世話になった先生に説教されましたよ! いや~アレは怖かったな…
 それから、ちゃんと書くようになりました」

今よりも幼い中忍を想像して、カカシは口元を緩める。

「だから、なるべく受理する時に不備がないか、きちんと報告が書かれているか確認しておきたいんですよね。
今日みたいに追いかけるのも手間ですし、次の任務に行ってしまう場合もあるしで…」

確かに、イルカの報告書の受け取りは丁寧だ。
他の担当ならさっと目を通して「お疲れ様です!」判を押すのにイルカは1つ1つ項目を確認していく。平日の夕方、彼が受付業務に入っていると「時間掛かるしあとで出そ~」そう言って踵を返した忍を見たのは1度や2度ではなかった。

イルカの言葉にカカシは頷く。

「肝に銘じておきます」

彼の言葉に「や、カカシさんに言ったワケじゃないですよ!?」イルカが目の前で手を振る。それから、

「いつも丁寧な報告書をありがとうございます。少しでもナルトたちが見習ってくれればなぁ…」

溜め息を吐いたので「今度から俺もちゃんと目を通しますね」なんて担当上忍らしくコクリと首を動かしたのだが

「…ってあの子たちの報告書、ちゃんと見てないんですか!?」

なんて睨まれてしまった。

「ほ、ほら、サクラがその辺きちんと書いてくれてるし……」
「…!
 ったく、アナタ担当上忍でしょう!? ちゃんと先生としての責任持ってくださいよぉ…」

今度は肩を竦ませて百面相を披露する中忍にカカシは話題を変える。

「ま、まぁ…仕事の話はそれくらいにして飲みましょうよ先生!
 ほらほら、カンパーイ!!」

ビール缶を掲げたカカシにイルカの顔にぱっと笑顔が広がる。

「ですね、つい語ってしまってすいません!」

――酔っ払いの良いところ、それは無理矢理に話題を変えても気にしないことだ。

そう思ってカカシは話を切ったのに、結局はこの後、カカシが任務に赴いた地の歴史とアカデミーの歴史の授業の話になって、お互いあーだこーだと熱い議論を交わすのだった。

テレビの前の時計の短針が1の文字を過ぎた頃。
買い込んだお酒をすっかり空にして、テーブルの上のつまみが無くなってから腹を抱えて「お互い仕事一筋だなぁ」と笑い転げる。

『うるせぇぞ!』

抗議するようにドン叩かれた壁に2人は顔を見合わせて吹き出す。

――まさか相手もコピー忍者カカシが此処で笑い転げているなんて想像していないだろう。
彼は今、その凄腕の忍者をビビらせたのだ!

ひとしきり笑って、流れた涙を拭ったイルカにカカシは生真面目な顔をして囁く。

「…俺の家、結構広いんで怒られませんよ?」
「ん?」
「いや、だからね。俺の家って広いから一緒に暮らそ…」

真剣に見つめられた眼差しにイルカが目を瞬く。
一瞬が永遠にも感じたが、それでもイルカは繕うように笑顔を浮かべた。

「んもーーカカシさんってば!
 今度はカカシさんの家で飲もうってコトですよね!?
 びっくりさせるんだからぁ~」
「あ、あ、そうそう!
 今度は俺ん家で飲みましょ!!」

酔いに呑まれたフリをして「トイレ~」手洗いに行ったイルカがドアを閉めた途端、膝から崩れ落ちる。

――ま、ちょ、え…?
カカシさん、今“一緒に暮らそう”って言った――?

同時刻、1人残された居間でカカシも顔を覆っていた。

――ちょっと待って、俺、今イルカ先生に“一緒に暮らそう”って…!?

カカシとイルカがまだ付き合う前の話。
酔いに任せてスタートラインに立った、最初の夜だった――

*おしまい*

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