プロヒーローが風呂を借りる話

僕のヒーローアカデミア/セロ上+心尾

※平和アース/プロヒ設定
メインはセロ上。
弊村の瀬呂くんと電気＆心操くんと尾白くんはグループ交際的な仲良しさんです。

瀬呂くんと電気が一緒に暮らす切っ掛けの話。

通勤時間を直撃した土砂降りの大雨に「わりぃ～！」瀬呂が尾白と心操の住むマンションのドアを開ける。
下着までぐっしょりと濡れたクラスメイトに「あと5分くらいで風呂沸くから入ってけ！」尾白に背中を押され、

「新品のだからこれ使ってね」

湯船に浸かる瀬呂に心操が着替えの用意を置く。

「災難だったね」

まだ続ける心操に「いや、ほんと悪ぃ」緑色の入浴剤の入った湯船で瀬呂が背中を丸めた。

雄英を卒業して、其々がプロヒーローやサイドキックとして活動をしていたが、クラスメイトたちの結束は未だ強固で、瀬呂と上鳴はこうして尾白と心操と家付き合いをしていた。家付き合い、なんて体のいい言い訳で唯利便性の良い場所に住んでいる尾白と心操の家に上鳴がよくやって来て、そして瀬呂が迎えに来るのがいつものパターンだった。
一緒に暮らす尾白と心操と違って、恋人同士の瀬呂と上鳴は別のアパートに住んでいる。ヒーロー1年目は瀬呂の事務所は寮に入るのが決まりだったし、上鳴は遅刻が心配だからと所属する事務所と同じ町に部屋を借りたからだ。
ヒーロー業3年目になった現在、瀬呂は寮を出ていたものの、慣れた町だからと同じ区に部屋を借りて今に至る。

「いや～良い湯だった！
　やっぱ風呂は日本人の心だね」

心操の用意した部屋着を着た瀬呂が勝手知ったる我が家とばかりにリビングに戻ると、心操がキッチンに立ち夕餉の支度をしていた。

「おかえり、瀬呂。洗濯回すけど、今日着てたの全部洗っちゃっていいか？」

食器を並べていた尾白が顔を上げる。「わり！」瀬呂が片手を上げると「ついでに乾燥もしちゃうからさ」なんて彼は白い歯を見せる。

「いいよ、尾白、洗濯やってきて。もうすぐこっちも出来るし」

心操の言葉に「おう！」尾白は言ってリビングから姿を消す。

「風呂上りはビール？　それとも炭酸？」

尋ねた心操に

「至れり尽くせりじゃねぇ？」

瀬呂は笑うと「ビール」笑顔で頷いた。それから、手伝う、言ってカウンターに並べられた小皿をテーブルに運ぶ。

「今日2人とも休み？」
「尾白は休みだったけど、俺は夜勤で昼帰ったとこ。
　最近のこの変な天気、本当に参っちまうな」

付けっぱなしのテレビからも今日のゲリラ豪雨の速報が流れていて、どうやら今土砂降りになっているのは隣の市らしい。

「上鳴は仕事？」

隣の市は上鳴の所属するヒーロー事務所がある。天候に左右される個性ではないが、こういった雷が多発する季節は避雷針として重宝されるらしかった（本人は全然良くない！とむくれるが）。

「日勤だからそのうちこっち来ると思うけど…」
「ぁ？来んの？」
「帰りがけに尾白ん家行くって言ったから多分来ると思う」

はは、取り繕うように笑った瀬呂に心操が「もう1人分食器並べて」カウンターに箸を置いたから「や～さしっ」なんておどける。
ちょうど戻った尾白がテーブルに並べられた4人分の食器に「あ、上鳴も来るの？」なんて余り動じなかったので、其れが更に瀬呂の笑いを誘ったのだった。

＊

瀬呂と尾白、それに心操が夕ご飯を始めて暫くした頃、やっぱりずぶ濡れの上鳴が「ただいま～！」元気にドアホンを鳴らす。
つい先程、相方にしたように「風呂入りなよ」「これ着替えね」なんて風呂場に送って、彼がリビングに現れた頃にはすっかり夕食も終わっていたから「孤食だぁ～！！！！」なんて上鳴が騒いだ。

「ほらほら、俺らはデザート食べて付き合ってやっから」

上鳴の持参したアイスを並べてニヤニヤとする瀬呂に上鳴はむくれながらも「いただきます」手を合わせる。

「心操のご飯おいし～！」

豚肉を卵でとじた主菜に、青菜と揚げの煮物を口に運びながら上鳴は目尻を下げる。
自炊も面倒だといつもファストフードやコンビニで済ませてしまう上鳴にとって、こうして尾白と心操の家で食べる家庭料理は貴重だった（瀬呂は妙な味のアジアンテイストの料理を作る。嫌いではないのだが、なんかやっぱり和食は食べたい）。

「今日は雨で大変だったでしょ」

コーヒーを片手に隣に座った心操に「うん」素直に上鳴は頷く。
キッチンでは尾白が後片付けをしていて、「上鳴～コーヒーでいい？」なんて尋ねて来る。

「ちょうど帰りがけだったから緊急要請だろ」

少し値の張る小さなカップアイスを食べながら瀬呂が言うと

「そーそー」

上鳴も頷く。
片付けを終えた尾白と心操もアイスを食べて上鳴を囲み、久し振りにのんびりとした時間だった。

「ほら、バッチリ乾いてる」

時計の針が9時を回った頃、乾燥機から上鳴の服を取り出した尾白が彼に洋服を渡す。

「いやーすっかり世話になっちまって」
「いつものことだろ」
「また遊びに来るからな～！」
「うん、今度はちゃんと予告してね…」

「気を付けて帰れよ～」と、すっかり雨の上がった空に2人を見送って尾白と心操は玄関の鍵をかける。

「んー、じゃぁオレらも風呂にしますか」
「そうだな。ちょっと追い炊きしてくる」
「アリガト」

ちゅっ。
控えめに口付けて風呂場に行った恋人に、「好きだなぁ」じんわりと嬉しくなって心操は顔を押さえた。

＊

「はーーーなんか風呂入ってから外出るのって変な感じ」
「しかも近所のコンビニでもないしね」

尾白と心操の住むマンションから先のターミナル駅に続く道を歩きながら瀬呂と上鳴はそっと手を繋ぐ。
時間は夜だし、人通りもまばらだったし、何より恋人同士の2人の家に行ったのだ。なんとなく人恋しくなるのも仕方がない。

「…やっぱでっかい風呂っていいよなぁ」

――上鳴の所属する事務所は繁華街の近くにある。
その近くに居を構える上鳴の部屋はワンルームタイプで、ユニットバスの部屋だった。瀬呂の部屋はトイレと風呂は別だったものの、真四角の小さな風呂で成人男性が1人で入るにも少々狭い。

ファミリー向けのマンションの広い風呂はゆっくり足も伸ばせるし、追い炊きだって可能だ。そして何より、2人で入ることも出来る。
広い洗い場の鏡を眺めながら“いいな”思ってしまったのだ。

「俺ん家の風呂も狭いしね」

肯定した恋人に「時々銭湯には行くけどさぁ」なんて上鳴も唇を尖らせる。

「ん～…じゃぁ」

考え込むように瀬呂がぴたりと歩みを止め、上鳴に顔を向ける。

「？」

首を傾げた上鳴に、瀬呂は綺麗に並んだ歯を見せた。

「……俺たちも一緒に暮らすか」

多分、家賃も少し安くなるだろうし。あ、でも通勤に少し時間掛かるかなー？でも俺が起こせば遅刻しないっしょ。
続けた恋人の言葉にみるみるうちに上鳴の目に涙が溜まる。

「せろぉ～！」

抱き着いた上鳴の背中を、ぽんぽんと瀬呂は擦った。

「一緒に暮らそう、電気」

耳元に届いたその声はとても穏やかで。

「はんた～～～～～～～！！！！！！！」

スッキリと澄んだ夜空に上鳴の声が響き渡ったのだった。

＊おしまい＊