ダイアモンドの街角

NARUTO/カカイル

帰り道で美味しい匂いがして「美味しそうだなぁ」って思いながら帰宅したら自分（恋人）の家だったって最高じゃない？って思い付いたので、軽率にカカシ先生にウキウキして貰いました。

今日のイルカ家のメニュー
・里芋とイカの煮物（頂き物/昨日の残り）
・スタミナ炒め（特製にんにく醤油）
・新米

カカシ先生が火影になったら、新しい米の銘柄に“木ノ葉の誉”って名付けられる気がする。

ある日の夕方、受付に報告書を出したカカシは「さむーいね」身震いをしてかじかんだ指先を温めるように合わせると口元の吐息で温める。
急に空気が冷えて、日の出も遅くなって。もう冬は其処まで近付いているようだった。

「うー…さむっ」

カカシは独り呟くと木ノ葉の商店街へ足を向ける。
ちょうど、夕餉の時間に近い其処は随分と賑わっていて肉屋の店主が「今日はコロッケが安いよ～」往来に声を掛け、八百屋の軒先では店仕舞いが近いのだろう「サービスするよ！」威勢の良い声が響いていた。

――今日のご飯は何かなぁ。

任務明けだと言うのに自分の家とは逆方向――恋人のイルカの家へとカカシは急ぐ。
商店街から離れると急に静かになった路地に、家々から流れるのであろう、美味しそうな匂いが辺りを漂っていた。

「ん」

その中に飛び切りの美味しそうな匂いを見付けてカカシは足を止める。香りを確かめるように顔を空に向けると、気になる匂いを探った。醤油の焦げた匂いにほんのりと混ざるニンニクの香り――

一流の忍である彼はこうした匂いの強い食材を索敵の邪魔になる、とあまり摂取しなかった。
恋人や教え子が豚骨の香りの強いラーメンを頬張るのを羨ましいと思いつつ、あっさりした醤油味を啜ったものだ。

――家っていーね。

“敵”なんて気にしない。好きなものを好きに食べる……そんな里の平和な姿にカカシは安堵し、微かに混ざる子供の声に目を細める。
それから、早く帰ろうとばかりに恋人の家へ歩調を早めるのだった。

＊

「ただーいま！」

まるで自分の家に帰るように自分の家に来る恋人を迎えるのは何度目の事だろうか。
玄関のドアを開けて「おかえりなさい」イルカは苦笑する。

「今日のご飯なーに？」

タクティカルベストを慣れた手付きでハンガーに掛けたカカシに、イルカは台所から顔を覗かせる。

「里芋とイカの煮物とスタミナ炒めです」
「スタミナ炒め？」

座布団を整えてちゃっかりと座ったカカシへイルカは「手伝ってください」そう続ける。
恋人を手伝おうと、狭い台所に並んだカカシはフライパンの中の炒め物の香りにはっと目を見開いた。

「あ、カカシさんってニンニク駄目でしたっけ？」
「ううん、明日はお休みだからへーき」

甘えるようにイルカを後ろから抱き締めたカカシにイルカは「邪魔です」相変わらず対応は冷たい。

「…さっきね、帰り道で凄く良い匂いがする、ってちょっと立ち止まったんです。
　醤油とニンニクの……そしたら、それがイルカ先生の作ってるものだったから嬉しくて」

首元にぐりぐりと頭を押し付けた上忍にイルカは少し自慢げに返した。

「これ、母ちゃんの自慢料理だったんです。父ちゃんも大好きで。
　ニンニクを使うからか任務の無い日にしか作れなくて……なんか俺も特別な日だなって分かって…」

2つ並べた皿に炒めた野菜を分けるイルカに、カカシは顔を上げた。

「……え、それって今日が特別な――」

尋ねるように言いかけた言葉は、よく通る中忍の声に掻き消される。

「…さ、出来ました！　ご飯も炊けてますからメシにしましょう！！」

恋人の声に圧されるように「…っ、はい！」カカシも背筋を伸ばして料理を運ぶ。

夕食を終え、当たり前とばかりにイルカの家の浴槽を占領する。
熱めの湯に口元まで身を沈めたカカシは

――“今日は特別な日”だって！

なんて恋人からの言葉を反芻して、ばちゃばちゃと子供のように水面を叩いて喜びを噛みしめるのだった。

対するイルカと言えば、ロマンティックな恋人の思想をつゆ知らず、「お湯減らさないでくれよな～」なんて下着を畳みながら思っていたのだとか――

＊おしまい＊