エンジョイ★アイスクリーム

バットマン/ジェイディク

2018.07.08-TU11で配布したペーパーより

「ね、アイス食べよう」

『デートしよう』と連れられた美術館の帰り道、大きく伸びをしたジェイソンをディックが引っ張る。

街は夕刻になったものの、夏に近い今の季節は太陽がまだ強く照りつけジリジリとアスファルトを焦がしていた。
ジェイソンはアイスが好きで、特にバニラ・いちご・チョコの三段に重なったアイスには目が無かったから歩き疲れたのも手伝って二つ返事で頷く。

ピンクと紫で彩られたポップな店内には涼を求めた若者達で混雑していて、「ご注文までお待ちくださぁい！」オレンジのキャップを被った店員がメニュー表と試食のフレーバーを手渡してくれた。
綺麗なクリアブルーと乳白色の混ざった色の其れにディックが「これは何味？」尋ねると、店員は「当店で一番人気のミラクルシャワーです」元気な声が返ってくる。
スプーンを咥えてジェイソンがメニューを指差すと今月のフレーバーの欄にアイスの説明が載っていた。
『クリームソーダをイメージしたフレーバーにパチパチのポップロックキャンディを乗せた夏の味★』

「うん、美味しい」

ディックがスプーンをペロリと舐め上げる。

「ジェイはどれにする？」

メニュー表を覗き込んで恋人に擦り寄ると、ジェイソンは三段重ねのアイスの写真を指差した。

「……コーンで」

彼の声はいつだって低く、短い。視線だけで『外で待ってる』咥えたスプーンを揺らすと

「ジェイの好きそうなの、選ぶね」

フレーバーの説明にも似た弾ける笑顔で、ディックはウインクした。

「え――っと、上から……、
　ナッツアンドコーヒーとチョコレートトリプルファッジ、
　キャラメルリボンスペシャル」

店の外で待っていたジェイソンにディックが盛られたアイスを手渡す。
見るからに甘そうなフレーバーだけで構成された其れだったが、ジェイソンの表情が無防備に輝いて見えたから、恋人の選択に不満はないようだった。

「お前は、何にしたんだ？」

薄いブラウンの中に砕いたナッツが混ざったフレーバーに齧りつきながらジェイソンがディックを見る。彼はカップに入った小さなアイスを掲げた。

「んー、僕はベリーキャンディとハニーレモン、それにミラクルシャワー」

濃いブラウンジェイソンのアイスと対になるように、ディックのアイスは色鮮やかだ。

「ジェイのアイスの口直しにいいかなぁって」

「残す気満々かよ」

ジェイソンが皮肉ると、気にした風も無くディックは笑う。

「だって、ジェイ、食べてくれるでしょ？」

――その、悪戯っ子の表情は自分にしか向けられない特別な笑顔なのを知っているから。

だから、アイスの誘いは断れないのだ。
そんなデートの帰り道。

＊おしまい＊