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Serena*Mのあたまのなかみ。
ただ平和なウェイン家の夏休み。
駒鳥妄想楽しい…









まだ朝の5時前だというのに、すっかり熱気の孕んだ風の吹くゴッサムの街は盛夏を迎えようとしているところでした。
ゴッサムの都心から離れた、所謂避暑地に建てられたウェインの別邸で過ごす兄弟は珍しく早起きで、人数の割に大きすぎるダイニングルームの大理石の床に張り付いています。

「修行が足りませんぞ、ぼっちゃま方」

涼しい顔をしてぴっちりとタイを締めたアルフレッドが冷たい水で絞ったタオルを手渡します。

彼らがこの部屋に集まって涼を求めているのには理由がありました。
昨日の遅く、運悪く落ちた雷に、別邸の古い電機設備の基盤が故障してしまったのです。故に空調が作動せず、避暑地とは言え暑い夏を彼らは体験する羽目になってしまったのでした。
勿論、彼らだって指をくわえて見ていただけではありません。
別邸とはいえウェイン家の所有でしたからある程度の道具は揃っていました。三男のティムが基盤を直そうと頑張りましたが、随分と古い設備だったので直せるパーツも手元に無く、なくなく故障したままとなってしまったのでした。
幸い、非常用の電源設備は生きてましたから必要なパーツ類は父であるブルースに連絡をして届く予定です。

「君はいつだって涼しい顔をしているね、アルフレッド」

ぺったりと大理石の上に尻餅をついた長男のディックが、夏に相応しい爽やかな笑顔を振りまきます。

「…色々とございましたから」

執事のアルフレッドはいつもミステリアスに返します。

「なぁ、ちゃんと直せるのかよ」

寝転んでタブレットを操作するティムに、末っ子のダミアンが圧し掛かります。

「…暑いよ、ダミアン。向こうに行って」

彼にしては不機嫌な声に、ダミアンもべぇっと舌を出しました。
ただ、暑いのは彼も一緒だったので素直に従って向かいに座り込みます。

「つーかよ、『暑い』って言う方が暑くなる気がする…」

部屋の隅で大の字に伸びた次男のジェイソンはそのままゴロゴロと涼を求めて転がりました。

「お食事はどうされますか」

まだ朝ご飯に早い時間でしたが、すっかり起きてしまった兄弟らにアルフレッドは問いかけます。

「今朝は採れたて野菜のサンドイッチとレモネードの予定ですが」

「あぁ、僕が手伝うよ」

ディックは片手を挙げると立ち上がりました。
別邸であるこの地に避暑に来ているのは兄弟とアルフレッドの5人だけ。
なので掃除に洗濯、食事の支度と言った生活に必要なことは全て自分たちで分担しているのでした。
…と言っても殆ど手伝うのはディックとティムで、気が向いたときだけ庭の芝刈りをするのがジェイソン、そして皆の仕事の邪魔をするのがダミアンなのでした。

「レモンなら絞るぞ」

珍しくジェイソンも手伝うようです。

「じゃぁ、僕らはテーブルを拭こうか」

ティムが言うとダミアンも黙って頷きました。






簡単な朝食を済ませて、一番涼しい場所を探して兄弟が裏庭で水撒きをしていると、どうやらティムから連絡を受けたブルースがやってきたようでした。
今は富豪のウェインとしての彼だったので、最新型のスポーツカーのロータリーエンジン音を響かせての登場です。

「おはよう、昨日は大変だったようだな」

イタリア製のハイブランドのオックスフォードシューズをかち合わせたブルースに、兄弟は口々に挨拶します。

「…おう」

「おはよう、父さん」

「ねぇこの家のシステムも早く最新にアップデートしようよ!」

「父さん、おはよう」

彼らの声を一通り聴くとブルースは言います。

「さて、急な話だがこの家の修理をしている間にちょっと出かけようと思う」

修理自体は難しいことではなかったし、すぐに業者が出入りして直してくれるだろう。アルフレッド、留守を頼む。
ブルースは続けます。

家族旅行の提案に面倒そうに顔を顰めたのはジェイソンで、逆にダミアンは「どこ?何処へ行くの??」そう父にせがんでいました。
ディックとティムも「みんなでお出掛けか、ちょっと嬉しいね」なんて笑いあっています。

兄弟、一人一人の顔をじっと見回して、満足そうにブルースは言いました。

「行き先はカンザスだよ」

『カンザス』――その言葉の指す意味を知った彼らの顔が固まったのは言うまでもありません。







自家用ジェットでカンザスのとある民間の飛行場に降り立った彼らは、ゴッサムや避暑地の空気とも違う、独特のカンザスの空気を感じていました。

「…で、何処に行くの」

もうすっかり不機嫌になってしまったダミアンがブルースを見上げます。

「…うーん。
 クラークが適当に面白い事を提案してくれると思うよ」

その言葉にますますダミアンは不機嫌に舌打ちするのでした。

飛行場を出ると、そこには満面の笑みを浮かべたクラークが大きく両手を振って彼らの到着を歓迎してくれていました。
少しだけ年期の入った大型のバンがこれからの彼らの乗り物です。
手際良くトランクを放り込むと上機嫌に彼は車を走らせました。
高い建物の何も無い、真っ直ぐ伸びた道の両側は一面の小麦畑で、黄金色のカーペットのようでした。

助手席のブルースが言うより早く、クラークが話します。

「今日はね、ミズーリ川で川遊びをしようと思うよ。
 ダミアン、君は川遊びなんてしたことないだろう?」

川と言うとゴッサムを取り囲む暗い色の川しか浮かばないダミアンだったので、変な顔をして首を傾げました。

「ミズーリ川、…ミズーリ川…っと」

隣のティムがタブレットでその川の景色をダミアンに見せます。

後ろから覗き込んだジェイソンが「ほぉ」と小さく感嘆の声を漏らしました。
腕を組んだまま窓を見ているディックは、子供の頃の川遊びの記憶を手繰っているようでした。

「きっと気に入ると思うよ。僕も大好きだったんだ」

ルームミラー越にニッコリと微笑んだクラークを見て、兄弟は視線を外しました。なんだか、妙にこそばゆい感覚がしたからです。

そうして30分ほど車を走らせると、目的地であるミズーリ川の河川敷に着いたようでした。
ちょうどお昼も少し過ぎたところで今が一番気温が高く、冷たい水がとても魅力的に見えます。

手際良くクラークはピクニックシートを広げると「ほらほら、手伝って!」と突っ立ったままのダミアンにも仕事を言いつけます。
あっという間にパラソルとピクニックテーブルが組み立てられ、クラークが持参したランチが並べられます。

「途中のお店で買って来たホットドックだけど、美味しいよ」

まだ温かい其れを頬張るとこれから遊ぶぞ!と活力が湧いてくるようでした。
とびっきり酸っぱいクランベリーのソーダもばちばちと全身を刺激するようです。

冷凍のパン生地を使って作られたのであろうホットドックでしたが、家族と共に雄大な景色の中で食べる其れはお店で食べるよりもずっとずっと美味しく感じられるのが不思議でした。

ディックが後片付けをしていると、ダミアンとジェイソン、そしてクラークが何かを言い争いしながら川辺まで駆け出して行きます。
3人ともしっかりと海水浴用の下着に取り替えてましたから、アルフレッドには全てお見通しのようでした。

「父さんは行かないんですか」

彼は後ろのパラソルで経済新聞に目を通すブルースに話しかけます。

「…いや、私はいいよ…」

スーツを脱ぐとまだ痛々しい痣がありましたから、ブルースはそう言ってお茶を濁しました。
と、其処へティムが父の膝にちょこんと顔を乗せます。

「父さん、魚釣りなんでどうですか」

あまり主張のしない三男のティムだったので、彼の主張にディックは驚きました。
そして、それにYESと頷いた父にも驚いたのでした。
研究室で難しい溶接作業をする父が、木の棒を持って魚釣りの真似事なんて!
背後のアルフレッドに振り向くと、

「意外とぼっちゃまは魚釣りも得意なんですよ」

そうウインクされました。
――休み、と言うのは誰しも少しだけ開放的になるようです。

「ディックぼっちゃまも何かアクティビティに参加されては如何ですか」

のんびりと川べりで紐を垂らす父と弟を見、そして川面でばしゃばしゃとはしゃぐ父の恋人と喧嘩っ早い弟たちを見て、ディックは苦笑しました。

「そうだね、僕はあの子達が喧嘩しないように見てくるよ」

彼はしっかりした長男であり、父の代わりの大黒柱でもありました。
正確に投げられた海水用下着に着替えて、彼もまた川に向かって駆け出します。

投げ捨てられた洋服を畳んで、アルフレッドは呟きました。

「…さて、魚用に火でも熾しますか」








すっかり陽もオレンジ色になり傾きかけた頃、へとへとになったクラークとウェイン一家はクラークの家へを帰ってきました。

「あらまぁ皆して!さっさとシャワーを浴びて来なさいっ」

泥まみれのボロボロになった兄弟にマーサは大笑いして、年甲斐も無く一緒にはしゃいだ息子も笑い飛ばしたのでした。

「男の子ってどれくらい食べるのかすっかり忘れちゃって」

キッチンからはシチューの良い匂いとオーブンから何かの肉料理の匂いが漂ってきます。

「えぇえぇ、きっとこの家の食材を食べ尽くしてしまいますよ」

悪戯っぽく返したアルフレッドに「困ったわねぇ」とマーサはまた笑います。

「Ms.ケント、何かお手伝い…」

泥だらけのクラークとジェイソンとダミアン、そしてティムを1階と2階のシャワールームに放り込んだディックがキッチンに戻ってきます。

「マーサと呼んでちょうだい。大きい息子くん」

彼女はそう微笑みます。
実の母にも似た優しい微笑みに、ディックの心もほっこりと温かくなりました。

「では、マーサ。何か手伝いを…」

「男の子はね、ご飯を『美味しかった!』って食べてくれればそれで充分なのよ。
 だから狭いけど寛いでちょうだい。貴方も弟たちの面倒を見て疲れたでしょう?」

息子から恋人の家の事情は聞いているのか、マーサはそう告げると温かいココアを差し出します。
そして「みんなには内緒よ」続けて甘いジャムの乗ったクッキーを口に放り込んでくれました。

「あ、ありふぁふぉう…」

いつも“長男”のディックでしたから、子供みたいに扱われて少しだけ嬉しくなってしまいます。
足取りも軽く、リビングのソファに腰掛けると父がぼんやりとニュース番組を見ているところでした。

「とうさ…」

話しかけようとして、彼は言葉を止めます。
眉間の深い皺は変わりませんでしたが、ブルースは瞼を閉じて薄い眠りについているようでした。

――あぁ、父にとってはこの場所は安心できる所なのか。

家族である自分でさえ父が眠る姿を見た事が無かったので、初めて見る父の無防備な姿にディックは感動しました。
と、次の瞬間には彼は目を覚まします。

「…ん?ディックか」

少し頭を振って意識を覚醒しようとさせたのか、ブルースはもぞもぞと座り直します。

「此処は、安心できますね」

マーサに貰ったココアを差し出すと、甘いものはあまり摂取しないブルースでしたが一口其れを飲みました。

「…あぁ、ほっとするよ」

キッチンからの美味しい香り、爽やかな夏の空気。虫の声。
ゴッサムとはまた違う、夜の帳。

「そろそろ、ジェイソンたちが上がってくる頃でしょう。どうぞ、先に」

父からカップを受け取ったディックはゆっくりとココアを飲み干します。

「…久しぶりに、一緒に入ろうか」

ブルースは提案します。

「僕、もういい大人の年齢ですよ?」

「…それなら、たまには大人の話もしようじゃないか」

優しく頭を撫でられて、またディックははにかんだのでした。







ダイニングテーブルに所狭しと並べられたのはじっくり煮込んだ牛肉のシチューと、マーサ特製のミートローフ、そしてキャセロールに盛られた人参のグラッセでした。

「俺、マーサのミートローフが一番好きだ!」

そう言ってダミアンが頬張れば

「人参もちゃんと食べないとまた作ってあげないわよ」

マーサがダミアンの口の端に着いたソースを拭います。

「ねぇ、マーサ。今度僕にも作り方を教えて欲しいな」

ティムが笑うとマーサも

「そうね、今は男も料理上手な方がモテるものね」

と、彼の頭をぐりぐりと撫でます。

「おかわり!!!」

差し出したジェイソンのシチューのお皿に

「やっぱり男の子ってよく食べるのねぇ!」

彼女は嬉しそうにまた山盛りのシチューをよそいました。

「…みんな、マーサが大好きだね」

ディックが呟くと

「少しだけ嫉妬してしまいますな」

ウイスキーを片手にアルフレッドが返します。

「大好きだよ、アルフレッド」

ディックがハグすると「お優しいおぼっちゃま!」アルフレッドはおどけて笑いました。

「本当に、この家の食材が無くなってしまいそうだな」

ダイニングだけでは座りきれなかったので、クラークとブルースの二人はリビングのソファでリアリティー・ショーを見ながらの食事をしていました。
背後から聞こえる騒がしい声に、なんだかクラークまで楽しい気分になってしまいます。

「本当だな、申し訳ない…」

父としてのブルースが少しだけ肩を落としたので、クラークはそっと額にキスをしました。

「ううん、気にしないで。
 あの子達があんなに嬉しそうでさ、こっちも嬉しくなっちゃうよ」

いつも喧嘩ばっかりだったからね、そう続けると苦笑してブルースも頷きました。

「それにしても、こんな上等のウイスキーなんて開けて良かったのかい?」

彼は小さなテーブルに置かれたウイスキーの瓶を指差します。

「家にあったって私くらいしか飲まないんだ。こうして楽しい時間に飲んだほうがウイスキーも本望だろう」

「まぁ、僕の家にあったら母さんがフランベ用にすぐ使っちゃいそうだけど」

苦笑したクラークに「それもまた良いだろう」とブルースは微笑みました。

「…ね、またみんなで来てよ。
 今度はキャンプとか行こう。きっと楽しいよ」

魚釣りのリベンジもしたいことだし。
負けず嫌いのブルースはそっと心の内に答えます。

普段のウェイン邸であれば兄弟らが邪魔しそうな二人の密着具合でしたが、今日はマーサの魔法もあって誰にも邪魔されずにゆっくりとブルースはクラークの肩に頭を預けることが出来ましたし、クラークもぎゅっとブルースの肩を抱くことが出来たのでした。

二人の後ろでは、兄弟とマーサが相変わらず騒がしく食事をしています。

「おかわり!」

「あっトッドてめぇさっきも食っただろ!!」

「ダミアン!汚い言葉は使わないで!」

「…ご、ごめんなさい…」

「あはは、ダミアンが素直だ。マーサは凄いな…」

「そうよティム、母ってね、強いの。
 そして貴方も人参残さないでね」

「は、はい!」




開け放った窓から、乾燥したカンザスの暑い空気が抜けていきます。
夏の思い出がまた一つ、夜空の星に溶けていきました。


*おしまい*

相変わらずディックが出張ってるのは私の推(略

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