駒鳥たちの午後

DCコミック/ウェイン一家

アポなしでやって来ようとするクラークをロビン兄弟が撃退しようとする、ただそれだけの話。
※設定フリーダムなので何でも許せる方向け。

暖かな日曜日の昼下がり。
午前中は教会の奉仕活動に出かけていたウェイン一家でしたが、午後はのんびりと暖炉の燃えるブルースの仕事部屋で思い思いに好きなことをして過ごしていました。
居室を占拠されてしまったブルースだけはちょっとだけ困り顔でしたが、なかなか子供たちと一緒に過ごせる時間は取れなかったので文句も言わずに幾つかのモニターに映し出されたゴッサムシティの映像のチェックをしつつ、スーツの手直しを行っています。

大きな一人掛けの椅子を独り占めした末っ子のダミアンは大きなスクリーンを目の前に陣取って嬉しそうにお気に入りのスポンジ・ボブの名作シーン集をずっと見ています。
隣のふかふかのソファを我が物顔で使っているのは次男のジェイソンで、焼きたてのアルフレッドのクッキーを無心に頬張りつつ、銃の手入れに余念が無いようでした。
出窓に一番近い小さなライティングテーブルに座っているのは長男のディックで、彼は最近定期購読しているデイリープラネット社の雑誌をぱらぱらと捲っています。
そして床に寝転がりながら大きめのタブレットを操作しているのが三男のティムで、時折ジェイソンから手渡されるクッキーと齧りつつ、お気に入りのアプリゲームに興じているようでした。
と、彼が顔を上げます。

「父さん、今日はクラークとの予定はあった？」

ティムはタブレットをその指で滑らせながら続けます。
『父さん』と呼ばれたブルースはモニターから目を離して、ひょいっとティムに視線を合わせました。

「いいや。今日はお前たちと過ごそうと思っていたから、特に約束はしていないよ」

ブルースは言い、またモニターへと視線を戻します。
今度は他の兄弟からの視線がティムへ注がれました。
彼は小声で続けます。

「…奴が、来る」

するとどうでしょう。
さっきまでだらしなく寛いでいたジェイソンが素早く銃を組み直して腰のホルダーへと仕舞います。
ティムはタブレットを掴むと大急ぎで別の部屋へと走っていきました。
ディックは窓の外を警戒すると隠しボタンを操作して特殊なブラインドを作動させます。
ダミアンも大好きなスポンジ・ボブはそのままに非常用の梯子から天井裏へと身を潜めました。
皆、何処からか取り出したのかインカムを取り付けています。

突然の子供たちの動きでしたが、父であるブルースは慣れているのか特に驚きもせず、そのままスーツの手直しを続けていました。

「…あまり乱暴には出迎えるなよ」

彼は言葉だけの注意を入れます。

「…無理だと思うな」

少しだけ苦笑してディックは言うと、ジェイソンと目配せをして頷いた後、その部屋を後にしました。
廊下に出ると、向こうから換えの紅茶を持ってくるアルフレッドとすれ違います。

「ごめんね、アルフレッド。紅茶の換えはもう少し先になりそうかな」

「おや、お客人ですか」

「…招かねざる、ね」

訂正して、彼にしては人の悪い笑いを浮かべたのでアルフレッドは「あまり派手に遊ばないでくださいね」と言って踵を返しました。

インカムからは兄弟からの声が届きます。

『R、配置についたぞ』

『こちらRF配置にポイントβ到着』

『了解。NWは？』

『こちらNW、屋上のポイントαに向かう』

廊下の突き当たり、大きな窓の横にある避難用の梯子を身軽に昇って彼は屋上へと向かいます。途中、隠してある狙撃銃のパーツを集めながら何も遮るもののない其処に、彼は身を屈めました。

『NW、配置に着いたよ』

『了解』

ディックの言葉を待って、ティムからの指示が飛びます。

『目標、南南西より時速100キロで飛行中。
　窓にトラップは発動済みだ。それから玄関と勝手口にも既に警戒はさせてある。
　父さんはまだスーツの手直し中だ。出来れば休みだし穏便に行きたい』

『了解。なんとか空で打ち落とせないか頑張ってみるよ』

ディックは銃を南南西に向け、スコープを覗きます。

『了解、最後に父さんを守るのはこの俺だ！』

そう吼えたのは天井裏に潜んだダミアンです。

『安心しろ、この部屋にはアイツを近づけさせねぇ…』

低い声で廊下の先を睨みつけているのはジェイソンでした。

『…来るよ、そろそろ』

独特の空気の振動を感じ取ったディックが静かに言い放ちます。

『NWの援護をした後、RFの元へ行くよ』

そうティムの声が聞こえて、一旦通信は途切れました。

ディックはスコープの向こうから、飛んでくる“父と特別な関係にある人”を捕らえます。

「…今日は家族で過ごさせてよ」

彼は標準を合わせて引き金を引きました。


ウェイン家兄弟とクラークの喧嘩の火蓋が切って落とされます。
果たして、無事にクラークはブルースに会うことができるのでしょうか。

アルフレッドだけはのんびりと

「さて、お客人のティーカップを用意しないとですね」

そう言って豪奢な来客用のティーカップを磨いておりました。



＊おしまい＊

ディックの描写が多いのは私の推しだから。