Morning greeting

バットマン/ジェイディク

「おはよう」と言わせたいだけの話。
久しぶりに文字を書いた（3ヵ月くらい振り？？？）ら、大変に文字が書けなくなっていました。劣化が早い。
そしてこんだけ書いてないって、相当モチベーション落ちてるんだなぁと客観的に思うなど。

「んん…」

狭いシングルベッドの上、寝返りを打とうとしたディックが夢現の頭のままずるりとフローリングの床に落ちる。高い段差ではなかったから尻もちを着いただけなのだが、どすんと音がしてもマットレスの上のジェイソンに動きはなかったから、どうやら彼はまだ深い眠りの底に居たようだった。
ひんやりした木の感触を臀部に感じながら、ディックはマットレスに顎を乗せて恋人を観察する。
いつも難しい顔をした眉間の皴は今ばかりは解かれていて、年相応の“青年”らしい顔つきだ。太く凛々しい眉も下がり気味で、こうしてみると優男にも見える。淡く色付いた唇はふっくらとしていて、化粧品のモデルも出来ちゃうんじゃない？なんて微笑する。
ベッドサイドに置いたテーブルの時計は朝の7時前で、二度寝するには衝撃的な起き方だったので、ディックは頭を振ると「先に起きてるね」言うようにジェイソンの頭をそっと撫でて寝室を後にした。

＊

ディックがトーストを焼いていると、欠伸を隠そうともせず大口を開けたジェイソンが顔を覗かせる。
彼が起きてからまだ5分も経って居なかったから「おはよう」言った後に「うるさかった？」そう続けた。

「…いや」

朝の低血圧で不機嫌なジェイソンはいつものこと。
小さな子供が母にするように後ろから抱き着くが、ここは体格の良いジェイソンだ。後ろから圧し掛かられて、すっぽりとディックは恋人に抱き締められてしまった。

「どうしたの？」

過剰気味の愛情表現はディックも嬉しいから、さして気にも留めず水を汲んでシンクに置く。

「昨日の続き？」

情熱的に愛を囁いた昨晩を思い出してディックがおどけると、置かれた水を飲み干してジェイソンは不機嫌に呟いた。

「…何処かに消えたかと、思って」

――正直、一晩を楽しんだ相手に悟られずに夜を後にした経験はディックにもある。
後腐れなく終わりたい気持ちもあったし、“朝”を迎えたくない気持ちもあった。
あまり派手に遊ばないジェイソンだって、何らかの経験はあるのだろう。互いの肉体の経験は知っていても、そうした内面の話はあまり得意ではなかった。

「大丈夫、僕は此処にいるよ」

安心させるように抱き着かれたまま頭を撫でると、違うとでも言いたげにジェイソンは頭を振った。

「…ジェイ？」

ぽんとトースターから跳ね上がる、こんがりと焼けたトーストを尻目にディックは身体を回転させる。
向き合った恋人はやっぱりいつもの難しい顔で、眉間に皴が刻まれていた。
お得意の上目遣いで首を傾げると、思春期の少年のように口を尖らせたジェイソンがそっぽを向く。

「…たまにはベッドの中で『おはよう』くらい言わせろよ」

――そうだった。
怖い顔に似合わないくらい、恋人はロマンティックなのだ。
嬉しくなって、0距離のままディックはジェイソンに抱き着いた。

「ずっと一緒に朝を迎えるから、必ず僕に最初の『おはよう』って言って」

＊おしまい＊