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Serena*Mのあたまのなかみ。
TENET/主ニル

この話の前日譚のような。
似た情景でしか話が浮かばないのは私の脳のキャパシティが小さいからです。

元は
『過去から来たニールが無防備で若い主人公さんに思わず手を出したくなるんだけど「未来の僕を好きになってね」って寸での所で思い留まる話が欲しいですサンタマリア…
将来、主人公さんが過去のニール君を重ねるように、ニール君だって主人公さんに未来の彼を重ねるじゃないですか…』
って呟いたやつ。キャプションで話が全部分かる!!!!!




オスロへ向かう船は静かだった。
勿論、ここは船上だ。コンテナのぶつかり合う金属音もするし、軋む音だってする。船が波を戻す音は遠く、力強いエンジン音の方が大きく聞こえた。
けれど、ニールの耳には痛いくらいの静寂しかない空間だった。

ガソリンの爆発炎上に巻き込まれ、低体温症になった男は昏々と眠り続けたまま。
傍らのキャットも不安定な状態が続いていた。

大きく船が波に揺れた時、夢現だったキャットはどうやら目を覚ましたようだった。

「…ここは…」

掠れた声の彼女に、向かいのテーブルで何かを書きつけていたニールが気付く。
彼は、寝起きのキャットを気遣うようにランタンの光量を落とすと椅子を引き寄せて隣へ腰かけた。

「コンテナの中…って言ったらびっくりしちゃうかな」

安心させるようにはにかんだ笑みを浮かべてニールは言い、そっとキャットの額に手を充てる。

「…」

怯えるように顔を強張らせた彼女に「ごめんね」ニールは頭を振る。

「やっぱり少し熱っぽいかな」

そう続けて、小さなテーブルに置いたアンプルを手に取る。

「傷口は痛む?
 鎮痛剤は打ってるけど、痛かったら言って」
「…大丈夫。
 ただ、少し…」
「すこし?」
「喉が渇いちゃったかも」

正直なキャットの申し出に、ニールは優しく微笑む。

「ちょっと待ってて。
 スポーツドリンクもあるから」

彼は立ち上がって、コンテナの一角に積まれた段ボールから青いラベルの貼られたペットボトルを取り出す。

「ごめんね、ストローなんて気の利いたものがなくって。
 零しちゃっても大丈夫だから、ゆっくり飲んで」

飲み口を捻ってニールはペットボトルをキャットの口元に寄せる。
キャットがゆっくりと顔を持ち上げると、飲むのを手伝うようにボトルを傾けた。
ほんの、2、3口飲み下したところでキャットが静かに瞳を伏せる。

「無理はしないで」

ニールは言って、飲み口に蓋をする。
彼女の口を濡らした水分を硬いペーパータオルで吸い取るとまた優しく微笑んだ。

「これで少しは眠れそう?」
「…私、ずっと眠っていたの…?」

――打たれてから、何も記憶が無くて。
申し訳なさそうに続けたキャットにニールは返す。

「鎮痛剤を打っていたから、貴女の意思じゃないよ。
 今だって酷い怪我なのに変わりはないんだし…」

続けたニールにキャットはゆっくりとした声で尋ねる。

「此処には貴方だけ…?」

質問に、ニールは瞳を伏せて首を振った。

「もう1人、眠れる姫が」

茶目っ気たっぷりに笑った彼に、つられて薄くキャットも笑みを浮かべる。

「あら、2人もオーロラ姫を抱えた王子様は大変ね。
 …それなら、私も眠った方がフィリップ王子のためになるかしら」
「そんなことはないよ、プリンセス。
 でも、今は眠った方が貴女の為にはいいかな」

ニールは言って、注射器を持つとアンプルから薬を吸い出した。

「ちょっとだけ眠くなるよ」

キャットの腕を擦って、手慣れたように針を刺す。

「…次に起きた時はもう1人の眠り姫も起きてるといいわね、王子様」
「おやすみ、キャット」

ゆっくりと意識を混濁させたキャットの腕をそっと毛布の中へ仕舞って、深い眠りに落ちたのを確認すると、ニールは“もう1人の眠り姫”の様子を見ようと椅子を移動させた。
ついでにランタンも引き寄せて、男の顔が見えるようにそっと掲げる。

――薄明かりに、男の横顔が浮かび上がった。
閉じられた瞼は硬く、上向きの睫毛が行儀よく並んでいる。
手入れされてない髭はいつもよりふわりと膨らんでいて、普段は剃られて形が整った美しいラインが少しだけ乱れていた。

彼の横顔はニールの記憶している“男”よりほんの少し若い。

内側から溢れるような張りのある肌に、形の良い上唇。彼の人の情を現したような厚みのある下唇は年を重ねた男と寸部の違いも内容に思えた。

眠り姫(男)はまだ知らない。
この先どうやって王子(ニール)と出会い、この作戦を思いついたのか。
どんな思いでニールを受け入れてくれたのか、共に過ごしてくれたのか。
――そう、今目の前に佇むニールの唇の柔らかさも。

「…王子のキスで、目覚めてよ」

ふっくらとした唇を撫でてニールは呟く。
まだ若い、ニールの知らないその肌の弾力。歪んだ誘惑に思わず己のを重ねようとして――そしてニールは我に返った。

「未来で出会う、僕を好きになって」

少しだけ寂しそうに呟いて、間接キスのように自分の唇に指で触れる。
――僕だって、“貴方”の知らないニールなのにね。

ランタンの光が男を包むアルミ材に反射して、珍しく人の悪い顔をしたニールの金糸の髪を透かしていた――

*おしまい*

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