do not alone

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド/クリリク

二度寝してる時に見た夢の文字化。
前にもあったけど、脳内からの直接の出力なので話としては好みなんですよね。自分で考えてはいるけど意識は無いので、ただ純粋に楽しめる。脳、もっと頑張って私に夢を見せてくれ…

独り寝には広過ぎる主寝室に、やっぱり独り寝では大きなキングサイズのベッドでシーツを被って寝ていたリックが窓を開ける音に意識を覚醒させる。
薄目を開けると既に太陽は高く昇っていて、今日も暑くなりそうな（と、言うか実際は暑いのだろう）予感がした。眠たげな眼を擦ってもぞもぞと身を起こすが、寝室を背にバルコニーに立つ相棒は気が付かない。遠く栄える街並みを望みながら煙草を燻らす後姿は整っていて、同じ俳優だと言っても差支えが無さそうだった。

「…くぁ…」

猫のように大きく伸びをすると、研ぎ澄まされた本能を持つクリフが此方を振り向く。
一瞬だけ覗かせる鋭い視線は戦争を生き延びた本能の眼差しで、未だ衰いが見えない。出会った頃こそその視線に心底震えあがったものだが、付き合いが長くなるにつれて慣れ……ることもなく、やっぱり今日も身震いしたのだった。
床に投げ捨てられたバスローブを拾い、点々と落ちた洋服を避けながらリックもバルコニーに顔を出す。

「…おはよう、ボス」

「……おはよう」

煙草を咥えながら片手を上げたクリフの上半身は鍛え上げられていて、見事に割れた腹筋がリックの目に刺さる。自分もこうして完璧な肉体を手に入れたいと思うものの、フローズンマルゲリータは止められなかったし、演技で悩んでばかりだからジムに通う時間なんて捻出出来なかった。

「1人煙草か」

揶揄ったリックに、スタントダブルは大真面目な顔を作る。

「1人じゃないぜ、ボス」

随分と短くなった煙草を蒸かしてクリフは続ける。

「…なんだ？　またラリってるのか？」

――LSD漬けの煙草で一度面倒な目に合ってから、リックはクリフの持つ薬の類には敏感になった。
クリフだって節度ある大人だ。無茶な使い方はしなかったし、楽しい思いだってリックにもあったから、ただ注視するだけで彼の行動を制限する気はないのだが。

「…いや」

クリフは手すりに煙草を押し付けると、そのまま吸殻を階下に投げ遣る。いつもリックが「ちゃんと灰皿を使え」注意するものの、「掃除をするのはオレだから」クリフは改めようとしなかった。

「これはジェイクと一緒に吸ってるんだ」

クリフは続けると、ヨレヨレのレッド・アップルの箱を見せる。

「……そんなクッソまずいやつ」

心底嫌そうなして朝から汚い言葉を発したリックを、クリフは強く引き寄せた。
まだ煙臭い唇でリックのを塞ぐと、もっとリックは鬱陶しそうな表情を作る。

「やっぱマズイだろ、これ」

「慣れるとそんな悪くないぜ」

「あーあーあーー！絶対に俺は慣れたくないね。
　またカートンで届いたから、早く持ってってくれ」

犬を追い払うように手を振ったリックに、I try.クリフが小さく呟く。

――キスに関しては不問なんだな。
気分屋の雇い主に、クリフは心の内に吐露する。

別に、クリフだってこの煙草を心底気に入っているわけではない。
ただ、リック・ダルトンがCMをしていること、リック・ダルトンがくれること、リック・ダルトンが――

不機嫌を絵にかいたような、肩を揺らすリックの後ろ姿に

「朝飯作るよ、ボス」

クリフは言って、愛しい人の背中を追いかけたのだった。

＊END＊