Serena*Mのあたまのなかみ。
グッドオーメンズ/アジラフェルとクロウリー
キスマークを見られたくないから悪魔に胸元を開けさせて欲しくない天使の話。
タイトルはマタイによる福音書6章25節より。
キスマークを見られたくないから悪魔に胸元を開けさせて欲しくない天使の話。
タイトルはマタイによる福音書6章25節より。
ロンドンにしては冷え込みの早い初秋の午後、いつものベンチにちょこんと座るアジラフェルにチョコバーの付いたバニラアイスを差し出してクロウリーはどっかりとその隣で長い足を投げ出す。
「あぁ、狭いよね」
優しい天使は言って、少しだけふくよかなその身を肘起きに寄せる。
「…別に。気にしねぇよ」
悪魔は答えて、細いピンクのアイスバーに齧り付く。それは彼が唯一口にするストロベリー味で、いつもアジラフェルと楽しむ氷菓だった。
冷たいデザートを楽しむには肌寒い気温ではあったが、こうしてベンチに座ってアイスを食べるのはアジラフェルは好きだったし、クロウリーも嫌な顔はするものの拒否はしなかったから「食べようよ」アジラフェルは誘ったのだ。
どんよりと低い雲の合間からじわりと照り付ける太陽に手に持ったアイスが液化する。またいつの日かと同じように落とすのかと思って、クロウリーは小さく指を鳴らした。
「…べ、別に落とさないよ?」
先回りされた奇跡に少しだけアジラフェルは唇を尖らせる。けれど、アイスクリームに一切罪は無かったから「ありがとう」そう続けて溶けるのを止めたバニラアイスを頬張った。
クロウリーも口数が多い方ではなかったし、今更語り合うことも思いつかなくてただぼんやりとアジラフェルは目の前のアイスクリームを減らすことだけに集中する。
半分くらいまでコーンを食べた頃には、もうすっかりクロウリーは自分のアイスバーを片付けてしまっていて、寄る睡魔に抗えないようで大欠伸をしているところだった。
「…まだ9月なのに寒いね」
「……だな。ったく、この最近の異常気象はなんだってんだ」
寒気を恨むように曇天を睨みつけたクロウリーにアジラフェルも頷く。けれど、軽装の悪魔に比べてしっかりとワイシャツの第1ボタンまで閉めた天使は設えた上質な生地の所為もあって寒さには強く見えた。
「君はもう少し温かい格好をしたら?」
第3ボタンまで開けられたワイシャツをさらりと着こなす洒落た悪魔に天使は提案する。
覗き込んだ拍子に昨晩残した赤い独占欲の印が見えて思わずアジラフェルは視線を逸らした。
「……温かい? おれにそんなクソダサイ格好をしろと?」
サングラスの奥で彼はどんなしかめっ面で笑っているのだろう。人を馬鹿にしたような嗤いにむっとアジラフェルは返した。
「ちょっと、ちょっと。私はこの服装がお気に入りなんだ。訂正して貰おうか」
悪い悪魔め!
そう続けたところでクロウリーはアジラフェルの肩を抱き寄せた。
「…顔が赤いぜ、天使サマ? 昨日のことを思い出したか??」
見せつけるように胸元のタイを持ち上げた悪魔に「もう!!!」天使は残ったコーンを乱暴に胃に押し込めると子供のように頬を膨らませる。
「そそ、そうやって人を小ばかにして!」
それが性分なんだと説明されても、いつも恋人の軽口にアジラフェルは怒るのだ。
「あ~、じゃぁ訂正しよう。
そのクラシックな装いも悪くない。ただおれに言わせれば“ダサい”けどな」
付け足された悪態にアジラフェルも声を荒げる。
「そうじゃなくて!
ただ、私は君とその…メイク…ラブ、の……」
情愛とか隣人愛とか、“愛”に敏いはずの天使は“欲”になると急に弱気になる。
しおらしく視線を逸らせた恋人にクロウリーはニヤリと口元を歪ませた。
「…キスマークだろ? これはおれの仕業じゃねぇ、アンタんだよ。天使サマ」
「だ、だからっ! その…」
今度は分が悪そうに手を組んでそっぽを向いたアジラフェルに、心底面白そうにクロウリーは笑う。
「天使サマ、アンタが言いたいのは“コレ”を誰にも見せたくないってことだな?」
「べ、別に私は…っ、そんな――」
「ふぅん? ならおれがこの格好をしてたって構わないだろう?」
「だから、それは…っ」
――6000年の付き合いだ。
友人から恋人になったのは最近とは言え、お堅い天使の思考を読むなんて呼吸をするのと同じくらい簡単なことだった。
目を白黒させて言葉を詰まらせた恋人に満足したのか、ひとしきりクロウリーは笑うと立ち上がる。
「クロウリー?」
首を傾げたアジラフェルにクロウリーは片手を差し出した。
「急に寒くなってきたしな。ちょうど秋物の服が欲しいと思ってたところなんだ。
笑った詫びだ。良い服を見立ててくれよ、My Angel.」
彼の言葉にぱっと天使の顔に笑顔が広がる。
「喜んで、My Dear.」
恋人の手を取ったアジラフェルの足取りは軽やかだ。
「あんまりにも時代錯誤な格好は止してくれよ」
「大丈夫、流石に21世紀に19世紀みたいなモーニングコートは選ばないよ」
「…それが心配だって言ってんだ。
あぁ、もう! 店はおれが選ぶからな」
「えぇ、君の? やだよ、あんな黒っぽい服ばかり並ぶ店は――」
6000年ずっと変わらない低俗な言い合いは21世紀になっても、恋人になっても変わりはなくて。
――でも。
一緒に住まうコテージのクローゼットに、“悪魔”らしくない黒いウールのハイネックのセーターが仕舞われたとか、なかったとか――
*おしまい*
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