Serena*Mのあたまのなかみ。
呪術廻戦/さしす(夏五)
硝子から見た五と夏の話
五の新しい香水は1人で2つの香りが合わさったようなやつです。
って考えてたのに特に説明するターンがなかった。
あと硝子と悟と出掛けた傑は2人をナンパから守らなきゃ(保護者)いけないので結構忙しいって話。
五条の秋田土産は金萬です。出来立てis美味しい!
※CP絡みの内容ではありませんが、生産者が夏五
アレルギーのある方はご注意ください
硝子から見た五と夏の話
五の新しい香水は1人で2つの香りが合わさったようなやつです。
って考えてたのに特に説明するターンがなかった。
あと硝子と悟と出掛けた傑は2人をナンパから守らなきゃ(保護者)いけないので結構忙しいって話。
五条の秋田土産は金萬です。出来立てis美味しい!
※CP絡みの内容ではありませんが、生産者が夏五
アレルギーのある方はご注意ください
「…っふー…」
ガラス張りの喫煙スペースで家入は紫煙を吐き出す。
久し振りに買い物に出掛けたは良いが、余りの人の多さにうんざりして欲しい物もそこそこに、こうして小休憩を取っているのだった。都会に口煩い“大人”なんて居ない。線の細い家入は明らかに成人には見えなかったものの、誰も彼女と目を合わせようとせず、ただ淡々と自分と紫煙と向き合うだけだった。
それでも偶に“例外”は存在する。
小さなガラス張りの箱に現れた可憐な花に纏う虻は湧くものだ。
「ねぇ、彼女。煙草かっけーじゃん?ひとり?」
銀色に髪の毛を脱色した青年が彼女の隣に割り込む。同時に、喫煙スペースの扉が開いた。
「私もちょっと休憩させて~」
現れた長身に隣の男が夏油を見上げる。
「硝子、知り合い?」
下げられた視線に「知らん」家入はにべもなく言うと夏油が彼女の隣に陣取った。
「…んだよ、彼氏持ちかよ」
舌打ちした虻に夏油は目を細めると「一本」言うように手を差し出す。
「カートンで返せよ」
愛用の煙草の箱とライターを渡すと、夏油も慣れたように紫煙に火を点けた。
「…五条は」
「ん、さっきスタバに行ったから5分は大丈夫かな。
ココに居るって伝えたから来ると思うよ」
「……束の間の休息か」
ちょっと目を離すとクレープやらワッフルやら、甘い物を片手に現れる五条に家入は苦笑する。
「っても硝子の買い物も大概だと思うけど?」
脚の間に挟んだ海外ブランドの高級なショップバッグをがさごそと動かして夏油は呟く。
「たまにはこうして鬱憤を晴らしたっていいだろ」
面倒そうな顔を作って目の前の灰皿に手を伸ばすと、ガラス壁の向こうに見知った銀髪を見つけて家入は隣の夏油に目で合図した。
「…ほら、帰って来たぞ」
「“待て”は教えてあるよ」
「ははっ、犬かよ」
そんなクラスメイトの会話をつゆ知らず、五条は買ってきたばかりのフラペチーノのカップ(五条の体格故に普通サイズに見えるがあれはグランデだろう。しかもホイップも大盛りで蓋からはみ出ている)を見せると愛おしそうにストローに吸い付く。ただ其処に佇んでいるだけなのに、道行く人の視線が彼に集中するのが喫煙スペースからでもよく分かった。
「…ん、夏油。香水変えた?」
煙草の臭いの充満する其処で、ふわりと甘い別の匂いを嗅ぎ取って家入は尋ねる。
――記憶にある夏油の香水は、もう少しスパイシーな香りであった筈だ。ジンジャーとかピンクペッパーとか。あまり甘い匂いが得意ではない家入だから、悪くないな、褒めたのでよく覚えている。
「? いつものと変わらないけど」
ビックサイズの真っ白なTシャツに顔を近付けると夏油は首を振った。
「なら、いい」
自分で話題を振った割に家入もさして話を広げようともせず、咥えた煙草を吸い込む。
――どんな世界にも蝿は湧く。
美しいものに人は惹かれるものだ。
早速、五条に声を掛けた女性に「おもしれ~」家入は意地悪く笑って傍らの同級生を見遣ると、「…もう」夏油は溜め息を吐いて煙草を灰皿に押し付けた。
「ごめんね、硝子。待ってるからゆっくり吸ってていいよ」
家入の荷物をがさがさと抱え直して夏油は喫煙スペースのドアを開ける。
ナンパされる五条に近付いて談笑すると、彼女たちは顔を赤くしたまま足早に背中を向けて去って行った。そのまま夏油は五条からストローを差し出され、夏油はフラペチーノに口を付ける。五条ほど甘い物に耐性の無い彼のなんとも言えない微妙な顔に五条は破顔するとぺたりと夏油に抱き着いた。それから2人でそのまま耳元で何かを囁き合って肩を震わせている。
――何やってるんだか。
家入は呆れながらも灰皿に煙草を押し付けて、火を消す。それから、煙草に着いた鮮やかな口紅に「落ちないの欲しいな」ぶつくさ言って同級生の輪に戻った。
「オラ、クズども~次はリップ買いにシャネル行くぞ~!」
「また渋谷に戻るの~? 俺疲れたぁー」
「…ダーリンに似合う色選んで欲しいな♡」
「もう仕方ないなぁしょーこちゃんってばぁ♡」
繰り広げられる茶番に夏油は慣れた様子で顔色一つ変えない。そして、携帯電話を弄ると
「新宿にも店舗あるからそっちに行こう。
ほら、大久保にも寄って悟の気になってたクレープ食べたらいいでしょ」
なんて2人を促した。
「ね、しょーこ。大久保ならかっらーいキムチあるんじゃない」
「お、いいな。マッコリも買って帰ろう」
「じゃぁ今夜はキムチ鍋にでもする?」
「真夏に鍋とか狂ってんな。賛成」
「面白そうな食材も買ってさぁ、闇鍋にしようよ!」
「え、それはやだなぁ。絶対、悟変なの買うでしょ」
「五条だけ別の鍋で食べさせようぜ」
「えっそれやだー!いじめはんたーーい!!」
けらけらと笑いながら雑踏に溶けた3人に、その日の空は何処までも青く、高かった。
*
「あれ、しょーこ朝帰り?」
寮の玄関で靴を突っかけた五条がげっそりした顔の家入と遭遇する。
「夜中…呼び出されて……ずっと……」
――反転術式を使える術師は貴重だ。自身に使える術師は存在したが、“他者”に的確に使える者を家入以外に五条は知らなかった。
今にも崩れ落ちそうな家入を抱き留めて五条は尋ねる。
「…平気? 部屋まで運ぼうか?」
「……でもお前、これから任務…だろ。こんな早い時間に……」
日は昇った時間とは言え、教室に行くにはまだ早すぎる時刻だ。
普段ならやっと起きて、昨日10分早く寝なかった自分を呪う時間。
「いっつも遅刻してるもん、僕。今日は珍しく時間通りに行こうかな~って気が向いただけ」
「…なら、頼んでいいか…アイツら…人遣いが荒すぎる…」
ぐったりと全身の力を抜いた家入を五条は横抱きすると家入も諒解したように彼の首に手を回す。
以前ならむせ返るほどの甘い匂いのした五条の制服からはほんのりと柑橘系の香りが漂って「ん」思わず家入は嗅覚に意識を集中させた。
「…あのクソ甘い匂いは止めたのか」
「僕も大人になったしね~」
――“僕”そう言い始めた五条に家入は妙な寂しさを覚える。
たった3人の同級生で広すぎた教室は、2人に減ってもっと広くなった。
「まだ残ってるけど……しょーこ、要る?」
強く煙草の臭いの染みついた家入の部屋に入って彼女をベッドに寝かせながら五条は尋ねる。
「あー…」
これが、“普通の状態”の家入ならば絶対に首を縦に振らなかっただろう。1級品を使う五条の香水と言えども、家入だって相応の収入はあったし、使いかけなんて御免被る。――けれど彼女は激務に疲れていて、ちょっとだけ心も疲弊していたのだ。
「要る」
ぽろりと零れた言葉に「ん」五条は頷いて布団を引っ張り上げる。ついでに床に転がった携帯電話も枕の横に置くと
「夜蛾センには僕から言っておくからさ。ゆっくり休みなよ」
そう言って部屋を後にした。
ほんのりと部屋に残るムスクの匂いは初めて嗅ぐ香りだけど何処か懐かしさを覚える。けれどそれは家入にとって初めて触れる香りで異質だった。
入口のドアが閉められた音を確認すると、それなりに体力の自信があるティーンエイジャーな彼女でも真夜中からの過労働には耐えられず、瞼を閉じるとそのまま深い眠りに落ちて行ったのだった。
*
『本日 自習』
黒板めいっぱいに書かれた文字に夏油と家入は顔を見合わせて「「サボる?」」声を重ねる。
昨日から五条は1人単独任務に赴いていて、秋田の山の方に居ると昨日メールが入っていた。
教室の窓を開け、堂々と煙草を貪る家入に夏油も珍しく紫煙を燻らせる。
「珍しいじゃん、夏油」
いつも家入から貰い煙草をしている夏油がポケットから煙草の箱を取り出したから彼女は少し驚いた。
「あんま好きじゃないんだと思ってた」
「悟が居るとうるさいからね、ちょっと控えてるくらいだよ。
私だって少しくらい悪い事したって問題無いだろう?」
「悪い事ねぇ」
くっくっく、人の悪い笑い方をした家入に構わず、夏油は気持ちよさそうに煙を吐く。
「…ん、今日の夏油なんか良い匂いする」
「それは私が良い男だからじゃないかい?」
「誰かさんの受け売りか?」
またカラカラと笑い出した家入に夏油も表情を柔らかくさせた。
「別に昨日と何も変わんないんだけどな」
「整髪剤とか、シャンプーとか」
「うーん」
「…でも良い香りだ。甘過ぎず辛過ぎず。いいな、これ」
香りを確かめるように首元に顔を近付けた家入に「そんなに気に入ったの?」夏油が目を細める。
「今度硝子にも買ってくるよ。
香水でもルームフレグランスとかに使えるらしいし」
彼の言葉に「金は払うよ」家入は言ったが「別にいいよ」夏油は返して煙草の火を消す。それから
「私は日本史の勉強しようと思うんだけど、硝子はどうする?」
「あー…私は日本史苦手だから解説して貰おうかな。過去の人間が起こした戦争なんていちいち覚えてられん」
「はは、硝子らしいな。じゃぁ硝子は私に化学を教えてよ。数字って見てると眩暈がするんだよね」
「…いいぞ、乗った。これで試験対策はバッチリだな。五条を泣かせてやろうぜ」
「最っ高」
顔を見合わせて人の悪い笑みを浮かべた2人は、机をくっ付けると珍しく真面目に教科書を開いたのだった。
*
「ただー…いま」
少しだけ立て付けの悪い扉を開けて家入は居室のドアを開ける。
彼女の暮らす部屋のベッドルームには、男性物の香水瓶が2つ置いてあって、ナイトパフュームにしては個性的な銘柄だった。
1つは五条の、とても甘い香りの。
もう1つは夏油の、爽やかで刺激的な香りの。
2つを重ねた甘く扇情的な香りは家入の嗅ぎ慣れた、認めたくはないが安堵する香りだった。
今日も疲れた。
このまま眠ってしまおう。
メイクも落とさず倒れ込んだ家入は香水瓶に手を伸ばすとそれぞれのスプレー部分を力任せに押し込んだ。
逆光に、霧状になった香水が虚空に混じる。
――なぁ、五条に夏油。
お前らはいつだって最低のクズどもだったけど、その香りは好きだったよ。
手元のリモコンを弄って間接照明を消した室内に、拡散した香気が次第に薄まって消えていき、替わりに家主の寝息が暗闇に溶けた。
*了*
ガラス張りの喫煙スペースで家入は紫煙を吐き出す。
久し振りに買い物に出掛けたは良いが、余りの人の多さにうんざりして欲しい物もそこそこに、こうして小休憩を取っているのだった。都会に口煩い“大人”なんて居ない。線の細い家入は明らかに成人には見えなかったものの、誰も彼女と目を合わせようとせず、ただ淡々と自分と紫煙と向き合うだけだった。
それでも偶に“例外”は存在する。
小さなガラス張りの箱に現れた可憐な花に纏う虻は湧くものだ。
「ねぇ、彼女。煙草かっけーじゃん?ひとり?」
銀色に髪の毛を脱色した青年が彼女の隣に割り込む。同時に、喫煙スペースの扉が開いた。
「私もちょっと休憩させて~」
現れた長身に隣の男が夏油を見上げる。
「硝子、知り合い?」
下げられた視線に「知らん」家入はにべもなく言うと夏油が彼女の隣に陣取った。
「…んだよ、彼氏持ちかよ」
舌打ちした虻に夏油は目を細めると「一本」言うように手を差し出す。
「カートンで返せよ」
愛用の煙草の箱とライターを渡すと、夏油も慣れたように紫煙に火を点けた。
「…五条は」
「ん、さっきスタバに行ったから5分は大丈夫かな。
ココに居るって伝えたから来ると思うよ」
「……束の間の休息か」
ちょっと目を離すとクレープやらワッフルやら、甘い物を片手に現れる五条に家入は苦笑する。
「っても硝子の買い物も大概だと思うけど?」
脚の間に挟んだ海外ブランドの高級なショップバッグをがさごそと動かして夏油は呟く。
「たまにはこうして鬱憤を晴らしたっていいだろ」
面倒そうな顔を作って目の前の灰皿に手を伸ばすと、ガラス壁の向こうに見知った銀髪を見つけて家入は隣の夏油に目で合図した。
「…ほら、帰って来たぞ」
「“待て”は教えてあるよ」
「ははっ、犬かよ」
そんなクラスメイトの会話をつゆ知らず、五条は買ってきたばかりのフラペチーノのカップ(五条の体格故に普通サイズに見えるがあれはグランデだろう。しかもホイップも大盛りで蓋からはみ出ている)を見せると愛おしそうにストローに吸い付く。ただ其処に佇んでいるだけなのに、道行く人の視線が彼に集中するのが喫煙スペースからでもよく分かった。
「…ん、夏油。香水変えた?」
煙草の臭いの充満する其処で、ふわりと甘い別の匂いを嗅ぎ取って家入は尋ねる。
――記憶にある夏油の香水は、もう少しスパイシーな香りであった筈だ。ジンジャーとかピンクペッパーとか。あまり甘い匂いが得意ではない家入だから、悪くないな、褒めたのでよく覚えている。
「? いつものと変わらないけど」
ビックサイズの真っ白なTシャツに顔を近付けると夏油は首を振った。
「なら、いい」
自分で話題を振った割に家入もさして話を広げようともせず、咥えた煙草を吸い込む。
――どんな世界にも蝿は湧く。
美しいものに人は惹かれるものだ。
早速、五条に声を掛けた女性に「おもしれ~」家入は意地悪く笑って傍らの同級生を見遣ると、「…もう」夏油は溜め息を吐いて煙草を灰皿に押し付けた。
「ごめんね、硝子。待ってるからゆっくり吸ってていいよ」
家入の荷物をがさがさと抱え直して夏油は喫煙スペースのドアを開ける。
ナンパされる五条に近付いて談笑すると、彼女たちは顔を赤くしたまま足早に背中を向けて去って行った。そのまま夏油は五条からストローを差し出され、夏油はフラペチーノに口を付ける。五条ほど甘い物に耐性の無い彼のなんとも言えない微妙な顔に五条は破顔するとぺたりと夏油に抱き着いた。それから2人でそのまま耳元で何かを囁き合って肩を震わせている。
――何やってるんだか。
家入は呆れながらも灰皿に煙草を押し付けて、火を消す。それから、煙草に着いた鮮やかな口紅に「落ちないの欲しいな」ぶつくさ言って同級生の輪に戻った。
「オラ、クズども~次はリップ買いにシャネル行くぞ~!」
「また渋谷に戻るの~? 俺疲れたぁー」
「…ダーリンに似合う色選んで欲しいな♡」
「もう仕方ないなぁしょーこちゃんってばぁ♡」
繰り広げられる茶番に夏油は慣れた様子で顔色一つ変えない。そして、携帯電話を弄ると
「新宿にも店舗あるからそっちに行こう。
ほら、大久保にも寄って悟の気になってたクレープ食べたらいいでしょ」
なんて2人を促した。
「ね、しょーこ。大久保ならかっらーいキムチあるんじゃない」
「お、いいな。マッコリも買って帰ろう」
「じゃぁ今夜はキムチ鍋にでもする?」
「真夏に鍋とか狂ってんな。賛成」
「面白そうな食材も買ってさぁ、闇鍋にしようよ!」
「え、それはやだなぁ。絶対、悟変なの買うでしょ」
「五条だけ別の鍋で食べさせようぜ」
「えっそれやだー!いじめはんたーーい!!」
けらけらと笑いながら雑踏に溶けた3人に、その日の空は何処までも青く、高かった。
*
「あれ、しょーこ朝帰り?」
寮の玄関で靴を突っかけた五条がげっそりした顔の家入と遭遇する。
「夜中…呼び出されて……ずっと……」
――反転術式を使える術師は貴重だ。自身に使える術師は存在したが、“他者”に的確に使える者を家入以外に五条は知らなかった。
今にも崩れ落ちそうな家入を抱き留めて五条は尋ねる。
「…平気? 部屋まで運ぼうか?」
「……でもお前、これから任務…だろ。こんな早い時間に……」
日は昇った時間とは言え、教室に行くにはまだ早すぎる時刻だ。
普段ならやっと起きて、昨日10分早く寝なかった自分を呪う時間。
「いっつも遅刻してるもん、僕。今日は珍しく時間通りに行こうかな~って気が向いただけ」
「…なら、頼んでいいか…アイツら…人遣いが荒すぎる…」
ぐったりと全身の力を抜いた家入を五条は横抱きすると家入も諒解したように彼の首に手を回す。
以前ならむせ返るほどの甘い匂いのした五条の制服からはほんのりと柑橘系の香りが漂って「ん」思わず家入は嗅覚に意識を集中させた。
「…あのクソ甘い匂いは止めたのか」
「僕も大人になったしね~」
――“僕”そう言い始めた五条に家入は妙な寂しさを覚える。
たった3人の同級生で広すぎた教室は、2人に減ってもっと広くなった。
「まだ残ってるけど……しょーこ、要る?」
強く煙草の臭いの染みついた家入の部屋に入って彼女をベッドに寝かせながら五条は尋ねる。
「あー…」
これが、“普通の状態”の家入ならば絶対に首を縦に振らなかっただろう。1級品を使う五条の香水と言えども、家入だって相応の収入はあったし、使いかけなんて御免被る。――けれど彼女は激務に疲れていて、ちょっとだけ心も疲弊していたのだ。
「要る」
ぽろりと零れた言葉に「ん」五条は頷いて布団を引っ張り上げる。ついでに床に転がった携帯電話も枕の横に置くと
「夜蛾センには僕から言っておくからさ。ゆっくり休みなよ」
そう言って部屋を後にした。
ほんのりと部屋に残るムスクの匂いは初めて嗅ぐ香りだけど何処か懐かしさを覚える。けれどそれは家入にとって初めて触れる香りで異質だった。
入口のドアが閉められた音を確認すると、それなりに体力の自信があるティーンエイジャーな彼女でも真夜中からの過労働には耐えられず、瞼を閉じるとそのまま深い眠りに落ちて行ったのだった。
*
『本日 自習』
黒板めいっぱいに書かれた文字に夏油と家入は顔を見合わせて「「サボる?」」声を重ねる。
昨日から五条は1人単独任務に赴いていて、秋田の山の方に居ると昨日メールが入っていた。
教室の窓を開け、堂々と煙草を貪る家入に夏油も珍しく紫煙を燻らせる。
「珍しいじゃん、夏油」
いつも家入から貰い煙草をしている夏油がポケットから煙草の箱を取り出したから彼女は少し驚いた。
「あんま好きじゃないんだと思ってた」
「悟が居るとうるさいからね、ちょっと控えてるくらいだよ。
私だって少しくらい悪い事したって問題無いだろう?」
「悪い事ねぇ」
くっくっく、人の悪い笑い方をした家入に構わず、夏油は気持ちよさそうに煙を吐く。
「…ん、今日の夏油なんか良い匂いする」
「それは私が良い男だからじゃないかい?」
「誰かさんの受け売りか?」
またカラカラと笑い出した家入に夏油も表情を柔らかくさせた。
「別に昨日と何も変わんないんだけどな」
「整髪剤とか、シャンプーとか」
「うーん」
「…でも良い香りだ。甘過ぎず辛過ぎず。いいな、これ」
香りを確かめるように首元に顔を近付けた家入に「そんなに気に入ったの?」夏油が目を細める。
「今度硝子にも買ってくるよ。
香水でもルームフレグランスとかに使えるらしいし」
彼の言葉に「金は払うよ」家入は言ったが「別にいいよ」夏油は返して煙草の火を消す。それから
「私は日本史の勉強しようと思うんだけど、硝子はどうする?」
「あー…私は日本史苦手だから解説して貰おうかな。過去の人間が起こした戦争なんていちいち覚えてられん」
「はは、硝子らしいな。じゃぁ硝子は私に化学を教えてよ。数字って見てると眩暈がするんだよね」
「…いいぞ、乗った。これで試験対策はバッチリだな。五条を泣かせてやろうぜ」
「最っ高」
顔を見合わせて人の悪い笑みを浮かべた2人は、机をくっ付けると珍しく真面目に教科書を開いたのだった。
*
「ただー…いま」
少しだけ立て付けの悪い扉を開けて家入は居室のドアを開ける。
彼女の暮らす部屋のベッドルームには、男性物の香水瓶が2つ置いてあって、ナイトパフュームにしては個性的な銘柄だった。
1つは五条の、とても甘い香りの。
もう1つは夏油の、爽やかで刺激的な香りの。
2つを重ねた甘く扇情的な香りは家入の嗅ぎ慣れた、認めたくはないが安堵する香りだった。
今日も疲れた。
このまま眠ってしまおう。
メイクも落とさず倒れ込んだ家入は香水瓶に手を伸ばすとそれぞれのスプレー部分を力任せに押し込んだ。
逆光に、霧状になった香水が虚空に混じる。
――なぁ、五条に夏油。
お前らはいつだって最低のクズどもだったけど、その香りは好きだったよ。
手元のリモコンを弄って間接照明を消した室内に、拡散した香気が次第に薄まって消えていき、替わりに家主の寝息が暗闇に溶けた。
*了*
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