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Serena*Mのあたまのなかみ。
“爪”についての小話。



1)スターウォーズ/アナオビ

あるジャンク屋店員の独白


いつも日曜日の午後に買い物に来る小さな男の子は、今やすっかり私の身長を追い越して立派な青年へと成長していた。

「頼んでたソケットレンチ、入ってる?」

外に置いてある雑多ながらくたを大股で跨いで、彼は店の奥の作業部屋の私を覗きに来る。

「入ってるよ。
 あんな化石みたいなメーカーの、よく言ってくるね。苦労したんだから」

私は棚に置いたレンチを彼に投げつける。
丁寧になめし革で包まれた其れをキャッチして、彼は嬉しそうに頷いた。

「いつも悪いね。
 貴女以外に頼める人が居なくて」

――この辺りじゃ私みたいながらくたを売るジャンク屋なんてザラに居て、どうして彼がこの店に来始めたのかも、今でもこうして通ってくれているのかもすっかり忘却の彼方へと消えていた。

「今日は時間、あるの?
 お茶でも淹れるよ」

私はカウンターに置いた自動ティーサーバーの電源を入れる。
拾った時はよく分からない装置だとパーツ分解しようとしていたものを、彼が何処からかこの機械の設計図を見つけ出して、直すのも手伝ってくれたのだった。

「うん、大丈夫。
 マスターも呼んでくるから、待ってて」

彼はティーサーバーの横に綺麗な金色のコインを重ねて置く。
いつもはオイルまみれで真っ黒だった爪先が綺麗に切り揃えられてピカピカになっていたのに私は違和感を覚えた。

店の外に駆け出した彼の背中を見遣る。

――彼が幼少の頃から連れている“師”と言う人物(いい忘れて居たが彼はジェダイだ。パダワンと言ってまだ正式なジェダイではないのだけど)に尊敬以上の念を抱いていること、それは女の私は敏感に感じ取っていた。

「…こんにちは。いつもこの子が無理を言って悪いね」

彼に引っ張られるようにして店内に現れた彼の師に私は茶菓子を出す。
いつも浮かべている柔和の表情がいつも以上に優しく、“この子”と云った時の視線が妙に熱を含んでいたから、
私は全てを諒解した。

「いいのよ。こちらこそ大金を落としてくれる良いお客さんだもの」

淹れたての紅茶を師と彼の前に置いて、私はカウンターに凭れかかってお茶に口付ける。
まだちょっと熱めだったけれど、別に火傷しそうな温度じゃなかったからそのまま胃へと流し込んだ。

目の前では2人がそんな紅茶に四苦八苦している。

「…っ!」

「あっほらマスター!猫舌なんだから気をつけないと!」

「だ、誰が猫舌だ…」

「熱いの苦手でしょう?もう…」

小声でしているつもりなんだろうけど、私一人きりのこの店ではその声だけが響いて。
普段はクールに振舞う彼が“恋人”に対して見せる過保護な態度にちょっとだけ笑ってしまった。

「ごめんなさい、今度はもう少しぬるめに淹れるわね」

笑った私に、師は首を振る。

「いやいや、そんな…」

「そうですよ、マスター。好意は素直に受け取りましょう」

「…ふふふっ、仲良しだね」

思わず漏れた言葉に、2人の視線が私に向かう。

――私にこの店を譲ってくれた師匠は、まだ彼が来て直ぐの頃にこの世を去ってしまった。
だから余計にこの2人が気になって、ずっと見ていたのかもしれない。
まぁ、恋仲になるのは想定外だったけれど。

「私も師匠に世話焼きしたかったよ。
 師匠は“大事”にするんだよ」

ウインクした私に“何か”を気付いた彼はドヤ顔で頷き、そんな彼に何も気付いてない師が小さく溜息を吐いた。



一服した彼らの背中を見送って、私はまた作業に入った。

ナノサイズのネジを拡大鏡を使って締め上げながら、ぼんやりと考える。
この地での暮らしが嫌いじゃないけれど、…師から受け継いだこの店に縛られていると時々感じることがあった。

けれど――こうして色々な人の人間模様を見て暮らすのも悪くないなぁと思ってしまうのだ。


2)キングスマン/エグハリ


シャワーから上がったハリーが見たのはエグジーが丁寧に爪を整えてる姿だった。
テレビからはゴルフの中継が流れたままで、彼が真面目に視聴していないのがよく分かる。

「あれ、もう上がっちゃったの?」

彼は振り向いて爪やすりをテーブルに置く。

「…これでも随分ゆっくり入ったつもりだったが」

真っ白なガウンを着たハリーがエグジーの隣へと腰掛ける。
3人掛けのソファがゆっくりと2人の体重に軋んだ。

ぎゅっと傍らの彼に抱き着いて、普段より高い体温のハリーにエグジーが破顔する。

「ほんとだ。ハリー、あったかい」

ふわふわのタオル地のガウンだったから、ぬいぐるみみたいだと思ったのをエグジーは心の中に押し留める。

「…爪の手入れか?」

ぐりぐりと頭を押し付けるエグジーを意に介せず、ハリーはテーブルに置かれた爪やすりを手に取る。

掌よりも少し小さいくらいの金属製の其れは小さく車のメーカー名が印字されてあって、一級品の工具メーカーの一品だった。

彼も自身の爪を其れで整えようとしたのをエグジーは止める。

「ハリーはいいんだよ、しなくたって」

彼の瞳がエグジーに問いかける。『何故だ?』と。

「だってハリーを傷つけないようにするのが…恋人の努め、でしょ?」

抱き付いたハリーをそのまま押し倒して、エグジーは綺麗に整えられた爪を見せる。
深爪に揃えられた其れは、白く伸びた部分が一切見受けられない小さな爪だった。

彼の見せた爪の意図に気付いたハリーが頬を紅潮させる。

「…そんな恥ずかしがらないでよ。
 さっきまでもっとえっちなコトしてたでしょ…?」

素早くハリーのガウンを肌蹴させると、彼は下着すら纏ってない姿でエグジーは生唾を飲み込んだ。

「ねぇ、ハリー。どうして下着を着けてないのかな…オレ、良い方に解釈しちゃうけど…?」

素早く下半身の蕾に指を差し入れると、ほんの数十分前まで彼を呑み込んでいた所はまだ柔らかく、するりと其れを受け入れた。
と、同時にハリーの口から甘い吐息が漏れる。

「…No,Eggsy」

ハリーから流し目で睨まれても、それはもう牽制の意味は成さなかった。



響くのは唇に吸い付く音と、軋んだソファの音。
背もたれからピンと伸びたハリーの足に、彼が今日何度目かの絶頂を迎えたのが分かる。



「ねぇ、早くオレが欲しいって言ってよハリー」

ソファに沈んだ恋人にキスの雨を降らせながらエグジーが尋ねても、年上の恋人の答えはいつも同じだった。

「…No,Eggsy」


*FIN*


まさかのキングスマンw(セルフ突っ込みが止まらない)

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