Serena*Mのあたまのなかみ。
グッドオーメンズ/アジラフェルとクロウリー
『キスのお作法について、書物でしか知らない天使ちゃんに悪魔くんが教えるやつください!!!!!』
と、ツイートしたので処方箋。
タイトルは雅歌1章2節より。
『キスのお作法について、書物でしか知らない天使ちゃんに悪魔くんが教えるやつください!!!!!』
と、ツイートしたので処方箋。
タイトルは雅歌1章2節より。
ハルマゲドンを回避した、天使と悪魔は6000年の歴史を持つ腐れ縁の関係に終止符を打った。
——2人の関係が断ち切られたワケではない。
其処に、新しい関係——“恋人”が加わったのだ。
互いを互いに好きだと認識し、天国からも地獄からの監視も無くなった今、クロウリーはアジラフェルに相談したのだ。——珍しく。
「あー…なんだ。その」
彼の言葉が耳に届かないような工夫でもしているのか、傍らのアジラフェルは必死にバニラアイスを舐め上げる。
「… …」
「その、アレだ。
“付き合って”みるか」
「…付き合う?」
横目で見遣った天使に悪魔は答える。
「アンタはおれが好きだ。
そうだろ、アジラフェル」
「…そうじゃない、と言ったら嘘になるけど。
君からは私への愛を感じるけど、私からは伝えられないじゃないか」
――クロウリーは悪魔だ。
人の欲に鋭敏でも、アジラフェルの言う“愛”は感じられない。
「だからだよ。
“見え”ない分、おれに“見せて”欲しい」
お気に入りのストロベリーバーを齧ったクロウリーをアジラフェルはじっと見つめる。
サングラス越しの表情は相変わらず読み辛かったが、体温が高く感じるのはこの陽気が理由だけじゃないはずだ。
「…? どうした、天使サマ」
訝しげな声を発したクロウリーに、彼はにっこりと微笑む。
「いいよ、My dear.
君と恋人になろう」
――そうして2人は友情に終止符を打ち、恋人になったのだった。
*
今更“恋人”になったからと言って、2人の生活に大きな変化があるわけでもなかった。
相変わらずアジラフェルは古書店の店主だし、クロウリーは気まぐれに人を誘惑して揶揄うし、時々リッツに季節の料理を楽しみに行くし――
ただ、昔よりアジラフェルの部屋でワインを飲んだり、一緒にクロウリーの観葉植物たちの面倒をみたりするのが(クロウリーは厳しく鍛えるだけだったので、アジラフェルがその後少しだけフォローするのが役目になった。ただあまり祝福してしまうと季節外れの花を付けたり、あり得ない育ち方をするので加減が難しかったが)増えたくらいだ。
今日だってアジラフェルの部屋でクロウリーの買ってきたワインを開けて楽しく談笑をしていたところだ。
彼の仕入れるワインはいつだって美味しいし、アジラフェルが用意した肴とよく合った。
「君はいつも最高のお酒を用意してくれるね。
奇跡でも?」
「何を言ってる、エンジェル。毎回こんな奇跡を使ってられるか」
「そうかぁ~… やっぱり君は凄いなぁ」
「…アンタがちょっと鈍いだけだよ」
――6000年の付き合いは、相手の好みを知るには充分過ぎる時間だった。
渋すぎるワインよりもフルーティな赤の方が喜んだし、ウィスキーはあまりペースが進まなかったから得意ではないのだろう。
用意するのもチーズやナッツなんかのあまり凝ったものが出て来なかったから、それに合わせた軽めのものと、持参したラムに合うような新しい1本と――
と、まぁクロウリーの思考はこんな感じだ。
新しい関係性になったってこうやって飲むのは変わらないし、話題の内容だって変わらなかった。
相変わらずアジラフェルは1人掛けのソファに座るし、クロウリーは2人用のソファで足を投げ出す。
今日だってチーズと干しブドウと持参したアルコールで上機嫌になり、明日の昼はリッツにでも行くか――なんて話してたところで、急にアジラフェルが真面目な顔を作った。
「ね、ねぇクロウリー」
少しだけ上擦った声に、クロウリーが「酔っぱらったか?」なんて人の悪い笑みを浮かべる。
彼の言葉にぶるぶると顔を振ってアジラフェルは酔っぱらっていないことを証明した。
「そそそそそうじゃなくて」
はっきりしない天使の態度にクロウリーが舌打ちする。言葉をオブラートに包むのが得意なのはアジラフェルの方で、クロウリーはいつも研ぎたてのナイフみたいな言葉しか話さなかった。
「き、君の隣に座りたいなぁ…って。
そう、思ったんだけど……」
ふくよかな肉体を縮こませて呟いたアジラフェルに、表情を強張らせたのはクロウリーで、天使からの告白に彼も珍しく言葉を詰まらせた。
「…お、おう」
――隣に座ることなんて日常茶飯事で、今日だってセントジェームズパークのいつものベンチでアイスクリームを食べたくらいだ。
なのに、こうして改められて言われてしまうと空気が緊迫してしまう。
クロウリーがゆっくりと座面に置いた長い足を移動させるとその空間にアジラフェルが身体を押し込める。
2人が座るには狭くはないソファだったが、妙に2人の隙間は広かった。
「…もっとこっちに寄れよ、アジラフェル。
誰も取って食おうとなんて思ってねぇ」
最近お気に入りのチリ産のワインを注ぎながら言うと、
「あ、あのっ…あのさ……」
膝の上でぎゅっと手を組んだアジラフェルが此方を見上げる。
「わ、私たち…恋人同士、だろう…?」
「…ん、そうだな。
奥手な天使サマにおれが『付き合おう』って誘惑したはずだ」
「だ、だったらその…恋人らしい…えっと…」
もじもじと視線を逸らせた天使に、その意図を察してクロウリーはニヤリと口の端を上げる。
「いくら本を読んでも“キス”については分からない、ってか」
――アジラフェルがその知識の大半をこうした本からも得ているのをクロウリーは知っていた。
『人は面白いねぇ』そう言って下世話な大衆紙や、嘘を並べたダブロイド紙までも読み込むのだ。
きっと“付き合おう”と提案されてから読んだのは古典的な恋愛小説や現代の私小説まで、“恋”に関連する物語ばかりだろうと悪魔は考える。
清廉潔白を地で行くような天使がそんな欲望にまみれた小説を読む姿はさぞかし滑稽だったろうなと想像して心の内にほくそ笑んだ。
――なァ天使サマよ。アンタはどんな姿のおれを想像した?
大衆恋愛小説の生々しい濡れ場の描写を思い出してクロウリーは笑いを堪える。
「……な、なんで、それを…!」
案の定顔を真っ赤にしたアジラフェルにクロウリーはゆっくりと体を寄せる。
そのまま肩を抱き寄せて、そっと太ももに指を這わせるとぴくりとアジラフェルの身体が跳ねた。
「…どれだけの付き合いだと思ってるんだ」
クロウリーは諭すようにゆっくりとアジラフェルの頬を撫でる。
「……い、いくら本を読んでも分からなくて…
君なら…詳しいだろうと思って…」
不本意ではあるけれど、続けた言葉にクロウリーはサングラスを外す。
「そう…だなぁ。
勉強熱心な天使サマに“特別”に教えてやるよ」
黄金の瞳を細めた悪魔をじっと天使は見つめ返す。
「…目は閉じろ、目は」
生真面目な天使に悪魔は苦笑するとそっと手のひらを翳して視界を塞ぐ。
「いいか、アジラフェル――」
クロウリーは耳元で囁くとそっと恋人に口付ける。
ツンした上唇を舐め、ふっくらとした下唇を食んだ。
「!!!!!
ひゃ!?!? クロウリー!?!?」
慌てて目を開いたアジラフェルに「口、開けろ」クロウリーは続けて尖らせた舌を挿し入れる。
「!?!?!?」
粘膜を直接触れられた衝撃にアジラフェルは目を白黒させたが、クロウリーに従うように恋人の唇をそっと挟んだ。
見た目通りの薄い唇だったが、柔らかいその感触は「マシュマロみたい!」アジラフェルの探求心が刺激される。クロウリーを真似て舌先を彼の歯列に押し当てると、其処は初めて知る恋人の場所で丹念に探るように1つ1つに舌を這わせた。
自分のよりも尖った犬歯なのはやっぱり蛇の名残なのだろうか。体温が低めの恋人だったが、口の中はアジラフェルと変わらないくらい温かかった。
「…んっ……」
無意識に恋人の頭をがっちりと掴み、ただひたすらに口内を探るアジラフェルにクロウリーの口からは甘い吐息が漏れる。
誘惑を生業とする悪魔が負けてられるかと、溜めた唾液を丸めた舌先へ乗せて恋人の方へ押し付けた。
「!」
受け渡された甘い誘惑にアジラフェルの目が見開く。
また頭を掴まれたと思ったら、強く吸い上げられてクロウリーの目の前が弾けた。
「……ふ、ァ…!!」
渾身の力でアジラフェルを突き飛ばしたクロウリーが、驚いた顔のまま乱暴に口元を拭う。
悪魔の全力だったものの天使にはあまり効いてはいなかったようで、きょとんとした顔でアジラフェルは首を傾げた。
「……少しは、加減、しろ…!」
酸欠に涙目になった顔で睨みつけた恋人に
「あ、あぁごめんね!?」
天使は慌てて謝る。恋人を労わるように背中を擦ると、少しだけクロウリーの怒気も落ち着いたようだった。
「おれが人間だったら死んでたぞ」
悪態を吐いたクロウリーにもう1度アジラフェルは謝る。
「君が悪魔で良かったよ」
笑ったアジラフェルにクロウリーは大げさに肩を竦めた。
「…まぁ、コレが恋人のキスってヤツだ」
乱された髪の毛を整えながら呟いた恋人に、アジラフェルは尋ねる。
「あ、ねぇクロウリー。
君、奇跡でも使った?」
「あ? なんでだよ」
飲み残したワインを煽りながらクロウリーは返す。
「だってさ、君のキスがとっても甘くて……」
言いかけて、アジラフェルは気が付く。
「…エンジェル?」
訝しげに眉を寄せたクロウリーの声は、天使には届いていないようだった。
唯の体液の筈なのにほんのりと甘くて、ずっと欲してしまうような。
――あぁ、だから。
だから罪って美味しいんだ。
罪の味なんだ、と――
*おしまい*
——2人の関係が断ち切られたワケではない。
其処に、新しい関係——“恋人”が加わったのだ。
互いを互いに好きだと認識し、天国からも地獄からの監視も無くなった今、クロウリーはアジラフェルに相談したのだ。——珍しく。
「あー…なんだ。その」
彼の言葉が耳に届かないような工夫でもしているのか、傍らのアジラフェルは必死にバニラアイスを舐め上げる。
「… …」
「その、アレだ。
“付き合って”みるか」
「…付き合う?」
横目で見遣った天使に悪魔は答える。
「アンタはおれが好きだ。
そうだろ、アジラフェル」
「…そうじゃない、と言ったら嘘になるけど。
君からは私への愛を感じるけど、私からは伝えられないじゃないか」
――クロウリーは悪魔だ。
人の欲に鋭敏でも、アジラフェルの言う“愛”は感じられない。
「だからだよ。
“見え”ない分、おれに“見せて”欲しい」
お気に入りのストロベリーバーを齧ったクロウリーをアジラフェルはじっと見つめる。
サングラス越しの表情は相変わらず読み辛かったが、体温が高く感じるのはこの陽気が理由だけじゃないはずだ。
「…? どうした、天使サマ」
訝しげな声を発したクロウリーに、彼はにっこりと微笑む。
「いいよ、My dear.
君と恋人になろう」
――そうして2人は友情に終止符を打ち、恋人になったのだった。
*
今更“恋人”になったからと言って、2人の生活に大きな変化があるわけでもなかった。
相変わらずアジラフェルは古書店の店主だし、クロウリーは気まぐれに人を誘惑して揶揄うし、時々リッツに季節の料理を楽しみに行くし――
ただ、昔よりアジラフェルの部屋でワインを飲んだり、一緒にクロウリーの観葉植物たちの面倒をみたりするのが(クロウリーは厳しく鍛えるだけだったので、アジラフェルがその後少しだけフォローするのが役目になった。ただあまり祝福してしまうと季節外れの花を付けたり、あり得ない育ち方をするので加減が難しかったが)増えたくらいだ。
今日だってアジラフェルの部屋でクロウリーの買ってきたワインを開けて楽しく談笑をしていたところだ。
彼の仕入れるワインはいつだって美味しいし、アジラフェルが用意した肴とよく合った。
「君はいつも最高のお酒を用意してくれるね。
奇跡でも?」
「何を言ってる、エンジェル。毎回こんな奇跡を使ってられるか」
「そうかぁ~… やっぱり君は凄いなぁ」
「…アンタがちょっと鈍いだけだよ」
――6000年の付き合いは、相手の好みを知るには充分過ぎる時間だった。
渋すぎるワインよりもフルーティな赤の方が喜んだし、ウィスキーはあまりペースが進まなかったから得意ではないのだろう。
用意するのもチーズやナッツなんかのあまり凝ったものが出て来なかったから、それに合わせた軽めのものと、持参したラムに合うような新しい1本と――
と、まぁクロウリーの思考はこんな感じだ。
新しい関係性になったってこうやって飲むのは変わらないし、話題の内容だって変わらなかった。
相変わらずアジラフェルは1人掛けのソファに座るし、クロウリーは2人用のソファで足を投げ出す。
今日だってチーズと干しブドウと持参したアルコールで上機嫌になり、明日の昼はリッツにでも行くか――なんて話してたところで、急にアジラフェルが真面目な顔を作った。
「ね、ねぇクロウリー」
少しだけ上擦った声に、クロウリーが「酔っぱらったか?」なんて人の悪い笑みを浮かべる。
彼の言葉にぶるぶると顔を振ってアジラフェルは酔っぱらっていないことを証明した。
「そそそそそうじゃなくて」
はっきりしない天使の態度にクロウリーが舌打ちする。言葉をオブラートに包むのが得意なのはアジラフェルの方で、クロウリーはいつも研ぎたてのナイフみたいな言葉しか話さなかった。
「き、君の隣に座りたいなぁ…って。
そう、思ったんだけど……」
ふくよかな肉体を縮こませて呟いたアジラフェルに、表情を強張らせたのはクロウリーで、天使からの告白に彼も珍しく言葉を詰まらせた。
「…お、おう」
――隣に座ることなんて日常茶飯事で、今日だってセントジェームズパークのいつものベンチでアイスクリームを食べたくらいだ。
なのに、こうして改められて言われてしまうと空気が緊迫してしまう。
クロウリーがゆっくりと座面に置いた長い足を移動させるとその空間にアジラフェルが身体を押し込める。
2人が座るには狭くはないソファだったが、妙に2人の隙間は広かった。
「…もっとこっちに寄れよ、アジラフェル。
誰も取って食おうとなんて思ってねぇ」
最近お気に入りのチリ産のワインを注ぎながら言うと、
「あ、あのっ…あのさ……」
膝の上でぎゅっと手を組んだアジラフェルが此方を見上げる。
「わ、私たち…恋人同士、だろう…?」
「…ん、そうだな。
奥手な天使サマにおれが『付き合おう』って誘惑したはずだ」
「だ、だったらその…恋人らしい…えっと…」
もじもじと視線を逸らせた天使に、その意図を察してクロウリーはニヤリと口の端を上げる。
「いくら本を読んでも“キス”については分からない、ってか」
――アジラフェルがその知識の大半をこうした本からも得ているのをクロウリーは知っていた。
『人は面白いねぇ』そう言って下世話な大衆紙や、嘘を並べたダブロイド紙までも読み込むのだ。
きっと“付き合おう”と提案されてから読んだのは古典的な恋愛小説や現代の私小説まで、“恋”に関連する物語ばかりだろうと悪魔は考える。
清廉潔白を地で行くような天使がそんな欲望にまみれた小説を読む姿はさぞかし滑稽だったろうなと想像して心の内にほくそ笑んだ。
――なァ天使サマよ。アンタはどんな姿のおれを想像した?
大衆恋愛小説の生々しい濡れ場の描写を思い出してクロウリーは笑いを堪える。
「……な、なんで、それを…!」
案の定顔を真っ赤にしたアジラフェルにクロウリーはゆっくりと体を寄せる。
そのまま肩を抱き寄せて、そっと太ももに指を這わせるとぴくりとアジラフェルの身体が跳ねた。
「…どれだけの付き合いだと思ってるんだ」
クロウリーは諭すようにゆっくりとアジラフェルの頬を撫でる。
「……い、いくら本を読んでも分からなくて…
君なら…詳しいだろうと思って…」
不本意ではあるけれど、続けた言葉にクロウリーはサングラスを外す。
「そう…だなぁ。
勉強熱心な天使サマに“特別”に教えてやるよ」
黄金の瞳を細めた悪魔をじっと天使は見つめ返す。
「…目は閉じろ、目は」
生真面目な天使に悪魔は苦笑するとそっと手のひらを翳して視界を塞ぐ。
「いいか、アジラフェル――」
クロウリーは耳元で囁くとそっと恋人に口付ける。
ツンした上唇を舐め、ふっくらとした下唇を食んだ。
「!!!!!
ひゃ!?!? クロウリー!?!?」
慌てて目を開いたアジラフェルに「口、開けろ」クロウリーは続けて尖らせた舌を挿し入れる。
「!?!?!?」
粘膜を直接触れられた衝撃にアジラフェルは目を白黒させたが、クロウリーに従うように恋人の唇をそっと挟んだ。
見た目通りの薄い唇だったが、柔らかいその感触は「マシュマロみたい!」アジラフェルの探求心が刺激される。クロウリーを真似て舌先を彼の歯列に押し当てると、其処は初めて知る恋人の場所で丹念に探るように1つ1つに舌を這わせた。
自分のよりも尖った犬歯なのはやっぱり蛇の名残なのだろうか。体温が低めの恋人だったが、口の中はアジラフェルと変わらないくらい温かかった。
「…んっ……」
無意識に恋人の頭をがっちりと掴み、ただひたすらに口内を探るアジラフェルにクロウリーの口からは甘い吐息が漏れる。
誘惑を生業とする悪魔が負けてられるかと、溜めた唾液を丸めた舌先へ乗せて恋人の方へ押し付けた。
「!」
受け渡された甘い誘惑にアジラフェルの目が見開く。
また頭を掴まれたと思ったら、強く吸い上げられてクロウリーの目の前が弾けた。
「……ふ、ァ…!!」
渾身の力でアジラフェルを突き飛ばしたクロウリーが、驚いた顔のまま乱暴に口元を拭う。
悪魔の全力だったものの天使にはあまり効いてはいなかったようで、きょとんとした顔でアジラフェルは首を傾げた。
「……少しは、加減、しろ…!」
酸欠に涙目になった顔で睨みつけた恋人に
「あ、あぁごめんね!?」
天使は慌てて謝る。恋人を労わるように背中を擦ると、少しだけクロウリーの怒気も落ち着いたようだった。
「おれが人間だったら死んでたぞ」
悪態を吐いたクロウリーにもう1度アジラフェルは謝る。
「君が悪魔で良かったよ」
笑ったアジラフェルにクロウリーは大げさに肩を竦めた。
「…まぁ、コレが恋人のキスってヤツだ」
乱された髪の毛を整えながら呟いた恋人に、アジラフェルは尋ねる。
「あ、ねぇクロウリー。
君、奇跡でも使った?」
「あ? なんでだよ」
飲み残したワインを煽りながらクロウリーは返す。
「だってさ、君のキスがとっても甘くて……」
言いかけて、アジラフェルは気が付く。
「…エンジェル?」
訝しげに眉を寄せたクロウリーの声は、天使には届いていないようだった。
唯の体液の筈なのにほんのりと甘くて、ずっと欲してしまうような。
――あぁ、だから。
だから罪って美味しいんだ。
罪の味なんだ、と――
*おしまい*
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