すいぞくかん

メダリスト/夜鷹×司

“デート”と言うものをあまり理解していない夜鷹ではあったが、親友の慎一郎から「水族館は涼しいし、夕方に行くと子供たちも少なくて静かだよ」なんて助言を受けて初めて司デートに誘った。

「えっ…水族館、ですか」

氷上の王からの誘いに司は驚くものの、いいですね、なんてにこりと微笑む。
夜鷹は時間を持て余していたから今からでも、そんな雰囲気だったけれど忙しいのは司の方。いくつかバイトを掛け持ちしている関係で「時間、作ります」言われて半月。
名古屋の港近くに設えられた大きな水族館にやってきたのだった。

何度か居候先の家族と訪れたことがあると司は「わぁ、この展示ってまだあったんだ」「やっぱり熱帯の魚は鮮やかで綺麗ですね」なんてはしゃぎ、そんな彼の背後で夜鷹は薄明りに紛れる。
一応、夜鷹だって理凰や汐恩たちと水族館に来た経験はある。けれど何も覚えていない。ただ矢鱈に広くて疲れたことはぼんやりと記憶している。

名古屋の海、南の海、深海の世界にクラゲが漂う大水槽―—

人気もまばらな水族館でそろそろ煙草が欲しいな、思い始めた夜鷹だったが、恋人は相変わらずにあっちの水槽を眺め、こっちの水槽を見つめては「見てください、これ！」背後の夜鷹に振り向く。

「…子供じゃないんだから」

咎めようとした矢先、今日一番にテンションの上がる司を目の当たりにした。

「うわ、すごい！！！！」

それは、期間限定で展示されたイカの大群の水槽。
ぎらぎらと輝く体に、大きな目玉はまるで空を飛ぶ宇宙船のようで夜鷹は眉をひそめる。
彼の感想はどちらかと言うと「これのどこがいいの？」寧ろ、狭い水槽に放たれたイカたちに同情すらしていた。
が――

「美味しそう…」

呟いた司の言葉に夜鷹は彼を二度見する。

――確か、日本の近海の水槽でも同じことを恋人は言っていた気がする。

あの魚は高級魚だ、あっちの魚は少し痩せてて心配、この魚って煮魚にすると美味しいんですよね。
あー、あの昆布も良い出汁が出そう。こっちの魚は刺身で食べられるかな…

鮮やかな熱帯の海やイルカのショーを眺めていた時よりもきらきらとした表情の恋人に

「へんなの」

“常識人”だと思っていた恋人の新しい一面に夜鷹は驚くが、変わり者と言う点では自分も同じ。
今宵は寿司だろうな、あまり人の感情を読めない夜鷹だったが、今日は流石に司の思いを汲むことが出来て懇意の寿司屋の連絡先を開く。そして、生け簀のある料亭に招いたら恋人はどんな反応をするのだろう。想像する夜鷹なのだった。

＊おしまい＊