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Serena*Mのあたまのなかみ。
ダンちゃんが焼肉食べたい話が、あーしてこーしてこうなった。







『あ。』

出会いは偶然だった。
それは冬の足音が聞こえたある日の帰り道、部活帰りに珍しく本屋に寄りたいとスマイルが言い立ち寄った駅前の大きな書店。買い物が終わった二人が出るのと、アクマがビルに入るのが同時だった。


『あ。』

それが、冒頭の話である。

「アクマ、買い物?」

訝しげな視線を向けるスマイルに、アクマは首を振る。

「もう本になんか興味は無ェよ。
 金下ろしにきたんだ、金」

その昔、彼は卓球博士と呼ばれていて本の虫なところがあった。
ガリバー旅行記から野口英世の伝記だって、彼は図書室のあらゆる本に目を通していた。

「かね?」

スマイルの後ろから、ぴょこりペコが頭を出す。

「給料日だからよ」

書店の入っているビルは所謂ファッションビルと言う奴で、地下にATMが設置されていた。

「おーじゃぁ何か奢れっ!
 オイラ、部活帰りでお腹ペッコペコなんよ」

チュッパチャプスを揺らしながらペコが一人で頷くと、アクマが顔を顰める。

「はァ!?
 なンだってオメーに奢らにゃぁならんのだ」

デコピンをしながら、続ける。

「却下だ、却下!」

「いってぇぇぇぇぇぇ」

大げさにペコが額を押さえると、スマイルが溜息を吐く。

「…何が食べたいのさ、ペコ」

「んー…」

涙目でペコがスマイルを見つめて、彼の瞳孔が少しだけ開いたのをアクマは見逃さなかった。

――こりゃ…落ちたな。

「やきにくっ!!」

昨日のバラエティ番組で、焼肉人気店の人気の料理上位10項目を当てる、というのを放送していたのを思い出してペコは破顔する。

素早く財布の中を確認したスマイルは、そっとアクマに肘打ちした。

「… …」

「…わーってるよ、足りない分は出してやるよ」

我ながら幼馴染に甘いと思ったが、どうせ食い物にしか使わない金だったのでしぶしぶアクマは其れを了承した。

「ヒャホー!やーきにくぅ!!」

嬉しそうにペコが飛び跳ねる。
そんな彼を忌々しそうに睨みつけて、アクマは吐き捨てた。

「…金下ろしてくるから、ちょっと待ってろよ」







ファッションビルの近くの雑居ビルに在るその焼肉店は、ビル自体が古いのもあって換気は少し難があったが値段以上のボリュームを提供することもあり、学生らに人気の店だった。

「えーっと、ウーロン茶2つとメロンソーダ。
 カルビ5人前とハラミ3人前、それから…」

「おいら豚トロー!」

「それ1つと海鮮焼きと…」

「…野菜盛り合わせと牛タン2人前」

「あ、あとライス大盛り3…」

「俺はいらねぇ」

「大盛り2つ」

「カルビクッパ1つ追加な」

矢継ぎ早に注文を入れる二人に、呼び止められた店員はペンを走らせる。

「ご注文は以上でよろしいですかぁ~?」

営業用の笑顔を浮かべた店員に、アクマとスマイルが頷いた。

「網に火を入れますので熱くなります~ご注意ください!」

店員は慣れた手つきで網に火を入れるといそいそと厨房へ引っ込む。
最初に運ばれてきたお冷を飲み干して、アクマは割り箸を割った。

「なんか、3人でご飯食べるのって久しぶりだね」

おしぼりで丁寧に手を拭いながらスマイル。
ペコは舐め終わったチュッパチャップスの棒を手持ち無沙汰に動かすだけだった。

「…ほら」

「ん」

スマイルがその棒を受け取り、ペーパーナプキンに包んでテーブルの端に寄せる。
子供の頃から変わらない二人に、アクマは少し安堵感を覚えた。

「部活、大変なのか」

切り出したところで

「お待たせ致しましたぁ!
 ウーロン茶2つとメロンソーダでぇす」

店員が大きなグラスを運んできたので、とりあえず乾杯すっか、そう話題を変えた。







「おら、ちゃんと野菜も食え!野菜も!!」

アクマが忙しそうにじゅうじゅう言うカルビをひっくり返しながらペコに激を飛ばす。

ペコの小皿にはアクマから押し付けられたピーマンが一口齧られたまま冷たくなっている。

「テメーにやるよ、アクマ」

「俺はちゃんと自分の食ってるよ!
 いつまでもピーマン嫌いとか子供かテメーは」

「オイラ永遠のお子様ですよーーだ」

赤い舌を覗かせてペコが応戦すると、スマイルが助け舟を出す。

「…いいよ、僕が食べるから。
 ほら、代わりにコレあげる…」

齧られたピーマンを自分の小皿に移すと、タレに付けたまだ温かいハラミをペコの真っ白な白米の上に載せる。

「ふぉわ~~~肉ぅぅぅぅ」

嬉しそうにペコはご飯とハラミを口に運ぶ。
まだ熱かったのか、はふはふと上を向いて、それでも嬉しそうだ。

「…ったくよ」

アクマは悪態を吐いて追加で頼んだホルモンを焼き始める。

「ほら、ペコ。
 ご飯粒ついてるよ」

「ほぇ?」

きょとんと首を傾げたペコに、スマイルは意を決してその米粒に手を伸ばす。
あくまで自然に触れるように、少しだけ呼吸を吐きながら白いそれを掴むと「ほら、取れた」と自分の口へと運ぶ。
仲の良い友人同士であれば、何ら可笑しなことの無い行為だったが、彼はペコに友達以上の感情を抱いていたからとても勇気の要る行動だった。
其れを知っているアクマも、あきれ返って溜息を吐く。

「おうペコ、飲み物要らないのか」

メロンソーダが殆ど無くなっていたから、アクマは店員を呼び止める。

「オレンジジュース1つ~」

「あとウーロン茶2つ」

スマイルの分も一緒に注文して、アクマはまた網奉行に没頭した。

さっき乗せたホルモンから、味噌の焦げる良い匂いがする。

「食うか?」

目の前の二人に尋ねると、二人ともこくんと頷いたのでトングで小皿に分けてやった。

スマイルが馬鹿丁寧にペコの落とした焼肉のタレを拭いている。
ピーマンはまだ手付かずのまま。

「ちょっと温めてやろうか?」

トングで指して尋ねたら、物凄い勢いで睨まれた。

――おぉ、怖…

大げさに肩を竦めたアクマに、何も気付いていないペコが首を傾げた。







「ごちそうさま」

「アクマー美味かった~~また奢ってケロ~~」

少しだけ煙い店の入り口で、三人は分かれる。
結局のところスマイルの所持金は5,000円で半分以上アクマが奢った形になった。

「食いすぎなんだよテメェ!
 出世払いで返せよな!」

言葉わ悪かったけれど、アクマも皮肉った笑顔を作っていたからまんざら嫌な時間では無かったのだろう。

「そンじゃァな」

片手を挙げて、くるりと踵を返す。
スマイルとペコも、反対側に歩き出した。

数歩歩いたところで、コートの臭いを嗅いでペコはしかめっ面になる。

「うっわ、くっせェ!弟たちに何言われるかわかんねーなコレ…」

焼肉が彼の家でご馳走になっているくらい、スマイルはお見通しだった。
だから――

「…じゃぁ、僕の家に寄ってファブってく?」

「お、それ良いな♪」

焼肉デートついでに、家に自然に誘えた事に狂喜するスマイルを知る由も無く
ペコは下心の無い笑顔を彼に向けた。

「な、ついでにコンビニ寄ってデザートも買ってこうぜ」

「でも僕、さっき全部お金使ったからペコの奢りだよ?」

表情を固めたままで言うと、少し悩んでペコは頷く。

「ん、ヘーキよオイラ。
 お菓子買うくらいの金は持ってら!」

ぴょんっと跳ねると腰のポケットからチャリンと音がする。

「ほらな!」

先に駆け出したペコがスマイルを振り向く。

「早く帰るぞっ!」

「…待ってよ、ペコ」

コンビニは逃げないよ。
そう続けて、スマイルは彼を追いかけた。



きんと冷えた空に、丸い月が浮かんでいた。



*FIN*

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