練乳前日譚

テーマ：練乳

スマイルは、甘いお菓子が嫌いだ。
オイラがいっつもがぶ飲みするマミーに苦い顔をするし、買い占めるブラックサンダーにも困った表情を浮かべる。
ポテチに関しては無表情。
いつもミントタブレットだけは胸ポケットに忍ばせていて、唯一、夏の終わりに売り始めるチョコミントアイスだけは一緒に食えるくらい。

あー、スマイルってば甘いモン苦手なんだなー

そう、ずっと思ってた。

オイラん家で、イチゴにコンデンスミルクを掛けるスマイルを見るまでは――

「およ？スマイルってばコンデンスミルク平気なンか？」

ぷちっと、ヘタを取りながらスマイルが言う。

「うぅん…嫌いではないかな…？」

その視線が真っ直ぐで、少しだけ潤んでいたのはオイラの気の所為か？
でも、お馬鹿なオイラはスマイルの真意に気付く筈もなく。

ただ、今度からスマイルとイチゴ食う時はコンデンスミルクだなーって
いい事閃いた！って、そんな事を考えてた。


＊＊＊


「あれ、ペコ、もういいの？」

学食でパン１つと牛乳で済ますオイラに、スマイルは尋ねる。
今日、母ちゃんから貰った小遣いは500円。昼飯は250円。
そう、帰りのコンビニで、スマイルの食える【甘い物】が買える。

「…そ、ダイエット★」

おどけて返して、コンビニ寄ろうな、そう囁いた。


＊＊＊


体育館を出ると、既に風は冷たくて、オイラは小さく震えた。
見ていたスマイルは、いつも優しい。

「肉まんと甘酒、買わないとね」

普段は無表情のスマイルが、オイラには少しだけ笑ってくれるのがなんだか特別な気分になってオイラもつい笑みを零す。

「おう！」

そう校門へ駆け出して、
追いかけるのはスマイルの役目。


＊＊＊

コンビニを出て、買ったばかりのコンデンスミルクをスマイルに渡した。

「…？これ…？」

首を傾げたスマイルに、オイラは其れを押し付ける。

「食えんだろ、これ。今度イチゴ買うから…」

顔を上げると、スマイルがびっくりした顔をしていて「それで、これを…？」小さく呟いたのが聞き取れた。


――そりゃぁ、オイラだって恋人と一緒に好きな物とか味わいたいワケよ。


「…なら、明日イチゴ買って帰ろう。
　母さん、居ないから」

少しだけ余裕の表情になったスマイルが悔しくて
強めに肩を叩いた。

その時のスマイルがどんな表情をしたのかオイラは知らない――


＊FIN…？＊

きっと続きはゆこしゃんのお話。