Color

バットマン/ジェイディク

いつもの強めの幻覚のやつ。

あまり広いとは言えないセミダブルのベッドに、大の男がぎゅうぎゅうになって身体を寄せ合った夜。
腕枕した恋人の、漆黒の絹糸のような髪を梳きながらジェイソンは呟いた。

「綺麗だな」

「…綺麗？」

恋人にされるがまま頭を撫でられていたディックが顔を上げる。
見上げた２つの双眸は窓の外と同じ、夜明けの色をしていた。

「真っ黒過ぎて、僕はあんまり好きじゃないけどな」

ディックは言って、逞しいジェイソンの二の腕に頬を寄せる。

「やっぱりブラウンの髪の方が明るく見えるし、金に染めたらもっと違ってたかなぁ、とは思うよ」

誰もが認める容貌を持ち、完璧な美丈夫の彼が容姿について零すなんて珍しい。

「……俺は嫌いじゃない」

ジェイソンは言って、もう一度恋人の頭を撫でる。
さらりと指の間から零れる細い髪は真っ直ぐで、薄く光を反射して光るのも美しいと思っていた。

「僕はジェイソンの髪の色も格好良いなぁって」

ディックは言って、ジェイソンの頭に手を伸ばす。
濃いチョコレート色の彼の髪の毛は、ディックとはまた違った深い色だった。

「今みたいに暗い所だと黒にも見えるのに、明るい太陽の下だと綺麗なブラウンにも見えてさ。
　変幻自在じゃない？」

短く刈り上げた側頭部を撫でるのがディックのお気に入りで、今も熱心にざらざらとした感触を楽しんでいる。面倒だとそのままに放っておいたら、とうとう両方の手を伸ばしてきたのでジェイソンは大げさにため息を吐いた。

「…楽しいか？」

「楽しい」

間髪入れずに答えて満面の笑みを浮かべた恋人にジェイソンは諦めたのか、そのまま動かずされるがままになる。
暫く無心で恋人の側頭部を撫でていたディックだったが、飽きたのかまた大人しくジェイソンの腕に頭を預けたので、今度はお返しとばかりにジェイソンもディックの頭を撫で回してやった。
好きなだけ恋人の頭をぐしゃぐしゃにしてやって、満足げに鼻息を吐いたジェイソンに、ディックは短く尋ねる。

「ジェイソンはさ、この黒髪は好き？」

ぼさぼさの頭を指差した彼に、ジェイソンは「おう」小さく頷き返した。

「…なら、僕も好きになれるように頑張ってみようかなぁ」

前髪を引っ張って、それから逆毛立った頭を撫でつけて整えたディックが、そのままジェイソンに抱き着く。至近距離の彼の頭からは、同じシャンプーの香りがした。

「だってさ、ジェイソンにはずっと僕の事好きでいて欲しいじゃない？」

「何を今さら」

横目で見遣ったジェイソンだったが、気が変わったのか恋人の芳香を楽しむように首筋に顔を埋める。そんな彼に、ディックが甘えた声を上げた。

――だって、だって。
恋人とずっと一緒に過ごしたいって当たり前の感情でしょ？

――好きでも無いヤツとこうして朝なんて迎えるかよ。
お前はもう少し“恋人”の自覚を持った方がいい。

伝えたい言葉は腹に隠して、替わりに交わしたキスに永遠の愛を誓う。
唇を離して見つめあうと、どうも変な笑いが込み上げてしまう。それでも強く抱き締め合って、もう一度深く口付けた――

＊END＊