Serena*Mのあたまのなかみ。
バットマン/ジェイディク
『青空美容室するジェイディクください(啓示)
自分で前髪切ってたディックがあまりに下手過ぎて舌打ちしながらトッド理髪店をするやつ。』
と、呟いたのを具現化しただけのいつものジェイディクです。
『青空美容室するジェイディクください(啓示)
自分で前髪切ってたディックがあまりに下手過ぎて舌打ちしながらトッド理髪店をするやつ。』
と、呟いたのを具現化しただけのいつものジェイディクです。
ジェイソンが洗い物を片付けて、座り心地の悪いソファに寝転がると、ちょうど視線の先が半分開いたバスルームのドアで、その先にディックが何かに悪戦苦闘しているのが見えた。
背筋をぴんと伸ばして髪の毛を伸ばしたり、置いた整髪料を頭に振りかけて鏡面とにらめっこしたり。ぶつぶつと聞こえる声は決して上機嫌には聞こえなかったから、ジェイソンは小さく舌打ちをするとそっとバスルームのドアを開けた。
「何してンだ?」
突然現れた美丈夫に、慌てたディック手に持った鋏を隠す。
「?」
見慣れない鋏にジェイソンは眉を寄せるとディックの持つ其れを掠め取った。
無駄な装飾が一切見受けられないシンプルな作りのステンレス製の鋏は紙を切る為のものではなく、“髪”を切る道具のようだった。
「なに、切るの?」
金銭的に余裕のある筈の彼が自分で切りそろえようとするなんて珍しい。
「ちょっと、前髪が伸びて気になったから…」
ディックは口元をへの字にして視線を泳がせる。
不自然に短くなった前髪の一部にジェイソンは笑いを堪えると兄に提案した。
「オーケイ、切ってやるよ。
これでもガキの頃から自分の髪の毛は自分で切ってたんだ」
*
キッチンに置いたテーブルを部屋の隅に寄せて、木製のチェアにディックは腰掛ける。
ゴミ袋のビニールを簡易的に切り裂いたケープを頭から被ると、そこは既に“トッド理髪店”だった。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
「だから言ったろ? ガキの頃から切ってるって。
そもそもお前のカットよりはマシだろうよ」
痛い所を突かれて、ディックは押し黙る。
俯いた彼の顔を真っ直ぐに直して、ジェイソンは整髪剤の入った霧吹きを前髪に吹きかけた。
「…最近、そんなに忙しかったのか?」
不格好に切られた部分を他の髪と馴染ませるように梳きながらジェイソンは尋ねる。
「週末に予約はしてたんだけど。
急に明後日、大きめの会合に顔を出さなくちゃならなくなって。少しだけ整えようかなぁって思って…」
また顔を下げようとしたディックを止めて、ジェイソンは軽快に鋏を入れる。
「じゃぁ、この辺を目立たなくして、全体的に少し軽くしてやればいいんだな」
「ちょっとほんと、変にしないでね!?」
慌てたディックに、ジェイソンは鏡を見せる。
「ほらよ。
これでも文句あるか?」
ほんの一瞬だけ鋏を入れただけなのに、無残なざんぎりに切られた前髪はアシメントリーに仕上げられた洒落たバンスに変わっていた。いつもの雰囲気と違うが、それは最初に切りすぎてしまったディックの所為で、ジェイソンの腕が悪いわけではない。
「…え、やだこれ…ちゃんとなってる…」
驚きに瞳を丸くしたディックに、美容師のジェイソンは上機嫌だ。
「だから言っただろ?」
少しだけ鼻息を荒くドヤ顔を作ったジェイソンだが、直ぐにディックの耳元で囁く。
「……けどさ。
あんまり文句言って暴れると…どうなっても知らないぜ?」
眼前で鋏の刃を見せつけたジェイソンに、ディックがごくりと唾を飲み込む。
「それって……」
「「スウィニートッド!!」」
――この前の金曜日、ちょうど実家のホームシアターで観ていた映画だったから、お互いの声が重なった。
「いいだろ、一発芸」
鼻で嗤ったジェイソンに、「一生美容師にならないでよ」ディックも釘を刺した。
*
「うわぁ、これ、ほんとにジェイソンが?」
バスルームから響く歓声にキッチンの掃除機をかけていたジェイソンが口元を緩ませる。
バスルームに置かれた鏡で、恋人に仕上げて貰った髪の毛を見ながら、ただ素直にディックは感心していた。
酷く不器用に切ってしまった前髪の一部はアシメントリーに仕上げてあり、後頭部も軽く仕上げてある。サイドの髪の毛は少しだけ長めに残してあって、ちょっとだけ個性を主張した髪型だった。
――似合う、似合わないかで言えばよく“似合っている”。
「満足か?」
届いた声に、ディックは鏡の前で首を振る。
「うん、すっごくいい!」
ゴミ袋を被ったまま出てきたディックの其れを取ってやると、嬉しそうにディックは恋人に抱き着いた。
「ねぇ、今度から時々切ってよ?」
「やだよ、めんどくさい」
一服の紫煙をそっぽを向いて吐き出したジェイソンは返す。
「だってさ、この髪型ってジェイソンが僕に似合うと思って切ってくれたんでしょう?
だったらその髪型にしてたいじゃん」
弾んだ声に「乙女かよ」ジェイソンは言ったけれど、まんざらでも無さそうだった。
「ちゃんと報酬は払うからさ」
「…身体でか?」
「やーん、ジェイのえっち!」
「ちげーよ。人肉パイにするぞって意味だ」
「きゃー!こわーーい!!」
暖かな午後の陽だまりに、二人のじゃれあう声が溶けていった。
*おしまい*
PR
What's NEW
PASSについては『はじめに』をご覧ください。
2025.07.09
えすこーと UP
2025.06.27
しかえし UP
2025.06.26
ろてんぶろ UP
2025.06.23
しーつ UP
2025.06.20
ねっちゅうしょう UP
2025.06.17
あくじき UP
2025.06.15
しゃしん UP
2025.06.14
ヒーロー情景者がヒーローの卵を手伝う話
大人になったヒーロー情景者が現役ヒーローを手伝う話 UP
2025.06.12
ていれ② UP
2025.06.10
せきにん UP
2025.06.09
よっぱらい UP
2025.05.28
まんぞく UP
2025.05.27
きすあんどくらい UP
2025.05.26
もーにんぐるーてぃん UP
2025.05.23
みせたくない UP
2025.05.21
あい UP
2025.05.15
サイズ UP
2025.05.13
すいぞくかん UP
2025.05.12
intentional gentleman UP
2025.05.09
てんしのあかし
considerate gentleman UP
2025.05.06
新米ヒーローと仕事の話
そんな男は止めておけ! UP
2025.04.27
なつのあそび UP
2025.04.19
はちみつ UP
2025.04.18
ようつう UP
2025.04.16
しつけ UP
2025.04.10
へいねつ
鮫イタSSまとめ UP
2025.04.08
ヒーロー2人と買い物の話
かいもの UP
2025.04.05
こんいんかんけい UP
2025.04.04
角飛SSまとめ⑦ UP
2025.04.03
ゆうれい UP
2025.04.02
汝 我らに安寧を与えん UP
2025.03.31
どりょく UP
2025.03.29
とれーにんぐ UP
2025.03.28
しらこ UP
2025.03.26
ティム・ドレイクの幸せで不幸せな1日
あいのけもの 陸 UP
2025.03.25
さんぱつ UP
2025.03.23
けんこうきぐ UP
2025.03.21
へんか UP
2025.03.20
はな UP
2025.03.18
こえ UP
2025.03.17
こくはく UP
2025.03.15
ぎもん UP
2025.03.14
あめ UP
2025.03.12
よだつか/オメガバ UP
2025.03.10
あこがれ UP
2025.03.08
おていれ UP
2025.03.07
くちづけ UP
2025.03.06
どきどき UP
2025.03.04
たいかん② UP
2025.03.03
たいかん UP
2025.03.01
かおり UP
2025.02.28
なまえ UP
2025.02.27
さいふ UP
2025.02.26
しらない UP
2025.02.24
くちうつし UP
2025.02.21
うそ UP
2025.02.20
たばこ UP
2025.02.19
よだつか R18習作 UP
2025.02.17
きのこ UP
2025.02.15
汝 指のわざなる天を見よ UP
2025.02.04
角飛 24の日まとめ UP
since…2013.02.02