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Serena*Mのあたまのなかみ。
お題箱より
「お時間あればですが、せれな先生の冬のシリルを読みたいですm(_ _)m」

…と、言うことで久しぶりのハリポタ。そしてシリル。
お風呂の中で考えました。




「寒くなるの、嫌だなぁ」

ホグワーツの分厚い城壁と塔の隙間から見える曇天を仰ぎ見て、リーマスはポツリと漏らす。

「ホットビールが旨くなるだろ」

傍らのシリウスは短く返して、ローブの首元を締める。
前の授業は天文学で、このホグワーツの敷地の一番端に建てられた星見の塔で行われていた。
普段なら次の授業に間に合うように大急ぎで移動するのだが、今日は先生が魔法省の開く大きな会議に出席するので事前に休みが通達されていたのだった。心なしか、他の生徒たちの歩みも遅い。

「ねぇ、食堂で何か甘い物食べようよ」
「明日の魔法薬学のレポート手伝って~」
「新しいボードゲームを買ったから談話室で遊ばない?」

降って湧いた休憩時間に皆の声は明るい。
担当の先生からレポートの回収や次の授業の準備等でいつも忙しい監督生のリーマスも、今日は少しだけのんびりできるようだった。

「ホットビールは…まぁ、美味しいけど」

リーマスは続ける。
――ホットビールとは最近ホグズミートで出した新しい飲み物で、温めたバタービールにイチゴジャムとレモンを浮かべた、身体が良く温まる美味しい飲み物だった。
リーマスはいつもジャムを多めに、シリウスは少なめにして3枚のレモンスライスを浮かべるのがお気に入りだ。

「傷がさ、痛むんだよね」

小さく溜め息を吐いてリーマスは腕を擦る。

彼は一つだけ他の生徒と違う、秘密があった。
それは彼が人狼なことだ。
子供の頃に起きた不幸な事故で、リーマスは人でありながら月に支配された人狼となる。
こうして穏やかは微笑みを浮かべる姿からは思いつかないくらい、人狼としての彼は破壊的で衝動的だ。
だからいつも彼は生傷が絶えないし、服だってどこかが壊れてボロボロなのだ。始めこそ丁寧に繕っていたものの、そのうち面倒になって、そして傍で過ごしてくれるシリウスやジェームズも気にしなかったから、いつの間にか少しだけクタクタのローブと制服を着ているのがリーマスの常になっていた。

気圧の関係で具合が悪くなる、と何かの本で読んだ事がある(多分、医療術の授業だと思うのだが)。それに従って、きっとリーマスの古傷も痛むのだろう。
ほっそりした手を合わせて擦るリーマスを見下ろして、シリウスは思う。
ダークブロンドの髪は今日も柔らかく、寒さに赤くなった鼻先が可愛らしい。
抱き締めれば折れそうな細い肩も、ひょろりとした体躯も。

――あの恐ろしい人狼からは想像もつかない、ひ弱な身体に見えた。

「…シリウス?」

急に黙りこくった恋人をルーピンは見上げる。
まん丸の空色の瞳に見つめられて、シリウスは思考を現実に戻した。

「…着ろよ」

言って、羽織ったローブをルーピンの肩に掛ける。
冬仕様の特注なのだろう(なんせ、彼はブラック家の血筋なのだ!)見た目はルーピンの纏うローブと寸分の違いはなかったが、暖かな羊の毛と兎の毛が織り込まれていてふんわりと軽いのにとても暖かかった。

「悪いよ。シリウスが風邪引いちゃう」

第二ボタンまで開けたシャツとセーターだけの姿にリーマスは顔をしかめる。

「別に、そこまでの距離だろ」

シリウスはやっと見えてきたホグワーツの校舎に顎を遣る。

「でも…」

リーマスは言うと、「ちょっと待って」何かに気づいたように持った鞄を漁った。

「?」

一歩先を歩いていたシリウスが振り返ると、リーマスが伸びあがって“何か”をシリウスの首に巻き付ける。
それは、ホグワーツの生徒なら誰でも持っている寮のシンボルカラーをしたマフラーだった。いささかシリウスの持っている物よりか使い込まれていて、手触りが柔らかい。

「ほら、これで少しは暖かいでしょ?」

にっこりと笑ったリーマスの笑顔が眩しくて、「おう」シリウスは視線を逸らす。

「…それに、そんな胸元が開いてるのも隠せるし……」

リーマスは照れたように言って、素早く恋人の第二ボタンを留めた。

「せめて、監督生の前ではこれくらいの“良い子”で居て?」

上目遣いにお願いすると、もう一度「おう」シリウスは短く返す。

「…でも、こんな“悪い子”と一緒の監督生様には同罪になってもらわないとな」

悪戯っぽくシリウスは言って、ぐるぐる巻きにされたマフラーを少し外すと恋人の首にも掛ける。
其れは、伸び切ったリーマスのマフラーだから出来る芸当で、一緒に巻き付けた首元はほんのりと温かかった。

「……ふふっ、いいよ」

リーマスは微笑んで珍しく恋人の願いを聞き入れる。
それから、シリウスと歩調を合わせるようにゆっくりと並んで歩き出した。

――だって。
そうでもしないと、ちょっとアウトローで格好良いブラック先輩はいつも誰かに声を掛けられて。
こうして校内を自分だけで独占するなんて出来ない事だったから。

校内でも堂々と、マフターを一緒に巻いたままの二人に、

『あの二人は恋人なの?』
『ちょっと距離が近すぎない!?』

なんて噂話の大好きな一部の女生徒たちが囁き、

「あーーーーん!羨ましい!!!!
 僕もセブルスとそれしたい!!!!!」

なんてジェームズが食堂で突っ伏すのだった。

*おしまい*

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