Enjoy Cohabitation!!

バットマン/ジェイディク

診断メーカーにて⇒【たまぽわアースのジェイソンの場合】

愛してると突然言われた。覚悟を決めたような顔に一瞬たじろいで、一緒になって背筋が伸びた。愛してるともう一度ゆっくり言われたものだから、よろしくお願いしますなんて言葉と共に頭を下げていた。

 

と、言われたのでよし結婚だな！！！！！と軽率に。

ところでアメリカに『ゼクシ〇』ってあるんですかね？

あと診断メーカー全然関係ない。。。

その日、セーフハウスにジェイソンが帰ると先に来ていたディックがバスルームの掃除をしているようだった。
シャワーの水音に負けないよう少しだけドアを開けて、ジェイソンは自分が帰宅したことを告げる。

「おかえり、ジェイソン」

「タダイマ」

ジェイソンは言うと買ってきた食材をキッチンのテーブルに置く。
缶ビールや瓶のコーラなんかを手際良く冷蔵庫に仕舞って（当たり前だけど此処はジェイソンの住み家なのだ）、それから今飲もうと思ったジンジャエールのプルタブを引く。
片付けられたソファに腰を下ろして弾ける炭酸の喉越しを楽しんでいると、ローテーブルに無造作に置かれた雑誌が目に留まった。

『ゼク〇ィ ゴッサム版』

――結婚！？

男一人暮らしの部屋にキラキラを輝くピンクの文字に目を白黒させたジェイソンだったが、吹き出しそうになるのを必死で堪えてもう一度雑誌の表紙を見つめる。

『結婚しないといけない、って思ってない？』
『これ1冊で早わかり！　挙式パーフェクトBOOK』
『姓名変更の手続き一覧も　引っ越し準備指南』

幸せそうに微笑む女性に、キラキラとした優しい文字が並んだ其れは、何度見ても結婚準備情報誌に間違いはなかった。

噂に聞いたことはある。
同棲するカップルが、なかなかプロポーズしない男性にアピールする為に購入する1冊であること。
結婚を決めたカップルが購入する本であること――

けれど、ジェイソンとディックは同棲していないし、“結婚”なんてあり得ない夢の話だ。

きっと何かの見間違い（な、ワケはないのだが）だ、隠すように買ってきたゴシップ誌を上に重ねる。

「ふぅ」

見えなくなった満面の花嫁に一息つくと、ちょうど掃除を終えたディックが後ろから抱き着いて来た。

「おかえりー、ジェイ。
　勝手にバスルームの掃除もしちゃったけど」

「シャンプー切れてたろ」

「切れてたのはリンスの方～
　ついでに新しいシェービングクリームも出しておいたよ」

「悪いな」

「そう思うならちゃんと掃除して」

――毎回、ディックがジェイソンのセーフハウスを訪ねる度に彼は恋人の部屋の大掃除をするのが常になっていて、今日もお昼過ぎからずっとディックは彼の部屋を綺麗にしていたのだった。

「角のダイナーでピザ頼んで来たし、さっきアイスクリームも買ってきたからさ。
　それで機嫌直してくれよ」

「ちゃんとペパロニ増量してくれた？
　あとアイスはチョコチップとクッキー＆クリームじゃないと許さないんだから」

「大丈夫、今日は限定フレーバーのキャラメルリボンも買ってきてある」

ジェイソンの言葉に、ディックに笑顔が広がる。
ジェイソン程ではないにしろ、ディックも甘いアイスクリームが好きで、2人で過ごす時はこうしてアイスクリームパーティをよく開くのだ。

「今日1日働いてくれたお前の背中を流すよ、ディッキー」

腕を伸ばしてくしゃくしゃと恋人の頭を撫でて発したねぎらいの言葉に、ディックもこつんと頭をぶつけて返す。

「それなら、ジェイだって。遅くまでお疲れ様。
　お風呂なら一緒に入ろう。バブルバスの用意はしてあるから！」

普段と何一つ変わらない恋人の態度に、ジェイソンは少しだけ胸を撫でおろす。
きっとあの雑誌は何かの間違いなのだ、そう、ゴシップ誌に隠された結婚情報誌を記憶の片隅に追いやったのだった。

＊

――それから、暫く経った頃。
やっぱりディックは雑然と散らかったジェイソンの部屋の掃除をしていた。

「もう！　どうやったら1ヶ月でこんなに汚くできるのさ！」

足の踏み場もなくなった狭いセーフハウスにディックの文句の声が響く。

「…すまん」

ただ違うのは、今回はジェイソンも朝から掃除に参加していることだった。
ジェイソンは掃除機の紙パックを片付けながら小さく背中を丸める。
ディックがキッチンで溜まった洗い物を片付けているので、ジェイソンも邪魔しないように床に落とした服や、食い散らかしたテイクアウトの紙くずなんかを拾って床の掃除をしているのだった。
寝室からキッチンに続く床を掃除してから、今度はリビングの片づけを始める。
キッチンに多かった紙ごみはこちらには少なく、逆に読みかけの雑誌やポストに入っていたチラシの数々、それに新聞なんかの嵩張る紙類が多く散乱していた。
一度掃除機を部屋の隅に追い遣り、ビニールロープを持って散らかった本を一つずつ積み重ねる。テレビ前のローテーブルに地層のように重なった雑誌を一つ一つ仕訳けていると、この部屋に一番違和感のある雑誌が姿を現した。

『ゼク〇ィ ゴッサム版』

――忘れていたと思っていた、あの時の記憶が蘇る。

うーん、ほんの少しその本を見つめていたジェイソンだったが、やっぱり恋人の真意が気になってしまって洗い物と格闘するディックの肩を叩いた。

「どうしたの？」

ふわりとレモンの香り（昨日買ってきた洗剤だ）を漂わせて、ディックが振り向く。

「……これ」

ジェイソンは俯きがちに呟いて、見つけた雑誌を眼前に掲げる。

「…？？？」

ディックは振り向いた笑顔のまま、きょとんと首を傾げた。

「…お前の、これ…その…」

遠慮がちに口を開くジェイソンに、ディックはまだ彼の本意には気付いていないようだった。

「……将来のこと、とか…」

珍しくお茶を濁したような物言いのジェイソンに、ディックも差し出された本から目が離せなかった。

「これって…結婚情報誌、でしょ？」

言って、「結婚？？」もう一度同じ言葉を重ねる。

「いや、だからこれはお前が買ってきたやつで…」

リビングのテーブルに隠れてた、歯切れも悪くジェイソンは視線を逸らす。
まるで付き合いたてのカップルが初めて過ごす夜の作法を探っていうような初々しい反応に、ディックもどう反応して良いのか分からず、少しだけ混乱していた。

「その…将来一緒にいたいのか、とか……」

ジェイソンが口ごもると、はっとディックは顔を上げる。――どうやら、その本の意味を思い出したようだった。

「あ、これね！」

ディックは続けてシャボン洗い流すと、シンクにぶら下げたふかふかのタオルで両手を拭く。それから、ジェイソンの持った雑誌の表紙に連なった文字の1つを指差した。

「おまけのドライバーセットが欲しくて」

ディックの答えに面食らったジェイソンが、ぱちぱちと睫毛を揺らす。
ゆっくりと手に持った雑誌の表紙を覗き込むと『使いやすすぎる！ドライバーセット』の文字が躍っていた。

「…ドラ、い、バー？？」

――ドライバーセット？　結婚情報誌にドライバー？？　女性向けのアイテムが付録になるんじゃないのか？！

想定外の出来事に目を白黒させ、思わず倒れそうになったジェイソンを

「え？　ジェイ！？」

ディックが力強く支える。

「……ははは…」

恋人に枝垂れかかりながら顔を覆ったジェイソンに、恋人が“何”を想像していたのか察知したディックが今更になって頬を染め上げた。

「え…え…？　えぇ……！？」

相変わらずジェイソンは乾いた笑い声を発しながら、ディックに体重を預ける。

暫くして、笑い声の納まったジェイソンを押しやってディックは小さく呟いた。

「…そりゃぁ、ずっと一緒に居れたら嬉しいけど……」

「！！」

思わず漏れた恋人の本音に、ジェイソンの片眉がぴくりと反応する。
「俺も」耳元で囁き返してそっと彼の人の柳腰を引き寄せた。

――その先に在るのは、唯の幸せなカップルの日常。

いつもと変わらない、陽だまりのセーフハウスだった。

＊FIN＊