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Serena*Mのあたまのなかみ。
バットマン/ジェイディク

香りを纏うディック・グレイソンシリーズ







「あーーーこれこれ、この匂い!」

ジェイソンが寛ぐセーフハウスに堂々と不法侵入した長兄は、顔を引きつらせる弟をよそに、彼の首筋に顔を埋める。
成熟した青年らしい、雄の匂い。
整髪剤や洗剤の匂いに交じって香り立つ其れに、思わずうっとりとディックは深呼吸した。

ぐいぐい押し付けられる兄の頭に、持ったピラフを落としそうになってやっとジェイソンはディックを突き放す。

「飯の邪魔!」

距離を置かれた長兄はつまらなさそうに唇を尖らせた。

「いいじゃん、減るモンじゃないし」

「てめェの趣味嗜好なんて知るか。
 俺はこれから飯食うんだよ」

あっさりと返した弟だったが、兄は負けないようだった。

「え~~~疲れたから遊びに来たのに」

「不法侵入を『遊びに来た』って言うのか。
 とんだサイコパスだな」

ジェイソンは言って、温めたピラフを頬張る。
ディックがこの部屋に侵入した経路は裏通りに面した小さな窓だ。ディックとは会う予定も立てて無かったし、そもそもこの場所に居ることも伝えていない。だから彼はジェイソンの立派なストーカーで、そして不法侵入してきたサイコパスなのだ。
弟からの辛辣な視線にディックが小さく溜め息を吐く。
いつだってジェイソンはディックに冷たくて、そして呆れ顔をするのだ。

しょげた顔をした兄に、少しだけジェイソンも可哀相に思って彼を甘やかす。
仕方なしにピラフを掬って口の前まで持っていくと、まるでひな鳥のようにディックは口を開けた。

「食って大人しくしてろよ」

もぐもぐと咀嚼する兄の口元を確認してジェイソンは再び豪快にピラフを頬張る。
――ドラッグストアの安売りでかった物だったが、思ったより味は悪くないようだった。

無言でスプーンを動かすジェイソンに遠慮しながらも、ディックはそっと彼の肩に凭れ掛かる。
ジェイソンの鼻腔に、ディックの纏う香水が届く。
軽いベルガモットの香りに混ざる、濃厚なムスクの其れはディックのお気に入りのようで、此れ以外の香りをジェイソンは知らない。始めこそ「女の香りだな」なんて苦手とも思っていたが、彼と濃厚な時間を過ごすうちにすっかりとその香りで彼と認識するようになっていた。

ピラフの最後の一粒まで掻き込んで、やっとジェイソンは一息つく。
テーブルに置いた炭酸飲料を一口で空にすると、酷いげっぷが彼を襲った。

盛大に吐き出した其れに、ディックが少しだけ口の端を上げる。

「アルフの前でやったら怒られそう」

「……だな」

そこまで言って、「で、何の用だ」ジェイソンは切り出した。

「ん…?
 いや、用事なんてないんだけど」

きょとんと返したディックに、ジェイソンは呆れ顔を作る。

「用もないのに不法侵入って立派な犯罪だぞ」

「部屋の掃除をしてたら、この前ジェイソンが使ったタオルが出てきてさ。
 会いたくなっちゃった」

惜しげもなく整った顔から笑顔を零して長兄は告白する。

――最後に2人が会ったのは先週の夜で。
ダイナーの帰り道に酷い雨に降られて慌ててディックの家で暖を取ったのだった。

あの日の夜。
バスルームに並べられた膨大な香水を尋ねた事を思い出す。

『すげぇ量だな。
 趣味なのか、これ』

『趣味…かは分からないけど好きなんだよね』

『こんだけ集めてるんだ、好きなんだろ』

『なのかな』

『お気に入りとかあるのか?』

『お気に入り……うーん、今ならあの右端の瓶かなぁ』

『どんな香りだ?』

『ジェイソンが1番知ってる香り』

『俺が?』

『うん。
 あれはね、ジェイソンと会うときに必ず着けてる香水』

狭いバスタブで身体を反転させて、ディックはジェイソンに肉体を密着させる。

『人に合わせて変えるのか』

『…そうなる、かな。
ティムと会う時はもうちょっと甘さが強いパフュームにするし、ダミアンの時は爽やかなシトロンのやつ。
 ブルースと一緒の時は結構スパイシーな香りの香水でさ。ヴィンテージ物だから探すのに苦労したんだ』

様々な形の香水瓶を指差してディックは説明する。
皆、似たようなサイズの小瓶の中で1回り大きい彼の香水瓶にほんの少し優越感を抱いたのを、そっとジェイソンは胸に仕舞った。

『そろそろ上がらないか。
 ふやけちまう』

伸びをしたジェイソンに合わせるようにバスタブに波が立つ。温くなった湯に「そうだね」ディックも答えて立ち上がる。

目の前に現れた見事な造形に、なんとなくその場の流れでジェイソンは兄を抱いたのだった。

――一緒に無駄な情事のアレコレも思い出して、ジェイソンは覗き込んだディックから視線を逸らす。

「…?
 どうしたの?」

小首を傾げた長兄に「なんでもない」短く告げて、今度はジェイソンが彼の首筋に顔を埋める。

先刻より濃厚に香る恋人の香水を吸い込むと、別の箇所にも熱が集まるのが分かって「策士め」ジェイソンが小さく舌打ちした。
舌打ちした恋人に「――お互い様」ディックも妖艶にウインクしてジェイソンを抱きしめる。

いつまでそうして抱き合っただろう、重なる鼓動に2人の欲望も高まっていた。

熱を帯びた視線を交わしながら、狭いソファに恋人を組み敷いたジェイソンが低く囁く。

「パブロフの犬同士、お互い愉しもうぜ」


*FIN*

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