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Serena*Mのあたまのなかみ。
TENET/主ニル

友人からネタを提供されたので書いた彼シャツニール君(若)と未来主さんのお話です。
似たようなシチュが続くのは単純に私の想像力が足りないからです。
力が欲しい…

フォーマルハウト…みなみのうお座にある恒星。全天に21ある1等星のひとつ(wikiより)

話は、まだニールが男に出会って間もない頃まで遡る。



作戦会議に遅い時間まで本部に詰めていた男が、一緒に集まっていたニールとアイヴスを誘って外に食事へ出掛けた時の話だ。
まだ本部に入って間もないニールの緊張を解そうと誘ったのだが、逆に彼の緊張を高めてしまったらしく、ニールにしてはハイペースに酒を煽って倒れてしまったのだった。
手伝うと申し出たアイヴスに「逆に仕事を増やしてしまって済まない」と有難く申し出を受け入れ、すっかり寝こけているニールを背負って男の居住地まで戻る。
部屋に帰っても手助けしようとする彼に「大丈夫、酔っ払いの面倒を見るのは慣れてるから」なんて珍しい冗談を言って彼を見送ると、ニールは座らせたソファで項垂れたまま微動だにしていなかった。

男は彼の前に跪くと背中を擦って顔を覗き込む。

「ニール。大丈夫…か…?」

男の声にニールは薄目を開ける。涙目になった其処は、深い海を彷彿とさせた。

「… …」

ゆっくりとニールは首を振る。それから「気持ち悪い…」そう吐き捨てた。

男はテーブルの下に置いたゴミ箱を素早く掴むと、乱雑に置かれた紙類を投げ入れる。ニールの顔の前に差し出し、背中を擦ると彼は金の髪を揺らして抗議したが「我慢しても辛いだけだ」告げるともっと泣きそうな顔を作った。

「…私も、失敗したよ」

1人じゃないと分からせようと、思い出を手繰り寄せた男の言葉にニールは驚く。
彼にとって男は憧れの対象であり敬愛する存在だった。重火器の扱い方から、潜入の脱出経路の独創性、緻密な作戦を仕掛ける勇敢さ、どんな困難でも切り抜ける観察眼…。その全てに於いて完璧な彼に、今の自分のような過去があるなんてニールにはにわか信じられなかった。
目を瞬かせたところへ、どうしようもない大きな波が来てしまってニールは慌ててゴミ箱を抱き寄せる。背中を丸めた直後、男の鼻に吐瀉物特有の饐えた匂いが届いた。男が労わるように背中を擦ると「ごめ、な…さ…」潤んだ双眸が彼を見上げる。

「いいんだ。気にするな」

男は頷くとテーブルの上に置かれたティッシュを何枚か抜き取ってニールに手渡す。
涙目で見つめるだけの彼に、そっと口元を拭ってやって「少しはスッキリしたか?」男はそう呟く。「もう大丈夫」答えようとしたニールだったが、また顔を歪ませて何度か嘔吐くと、そのままゴミ箱に頭を突っ込んだ。
男は苦笑して立ち上がるとリビングに設えたウォーターサーバーから水を注いでテーブルの上に置く。まだゴミ箱を抱えて身体を震わせているニールの隣に座ると、背中を擦った。

そうして暫く経った頃、やっとニールの呻き声が止まる。
ゆっくりと上半身を起こして泣きそうな顔を晒した彼に、男は用意した水を差し出した。

「口の中が気持ち悪いだろう」

ニールはゴミ箱を足元に置くと男から素直にカップを受け取る。

「…ごめんなさい…汚しちゃった…」

見るからに革張りの高級そうなそれにニールは肩を落とす。

「君が気にする事じゃないさ。
 …どうだい、気分は」

ごくごくと水を飲み干すニールに男は目を細めながら告げる。彼の下げたタイの先が吐瀉物に汚れていたので男は其れも指摘した。

「…あぁ、そのタイも外してくれ。
 シミになってしまう」

指差した男にニールは慌てて結んだネクタイを見遣る。明るい黄色のペイズリー柄のネクタイはここ最近のニールのお気に入りだった。
――初めて着けた日、本部で男から「似合うな」そう褒められたからだ。

「あ…」
「君のお気に入りだろう? こんな理由で処分してしまうのは勿体ない」

明らかに落胆した表情を浮かべたニールに、男は気遣った言葉を告げる。

「…カッコ悪…」

呟いた言葉を男は拾うと、彼にしては珍しく歯を見せて笑った。

「そうして、人は成長していくものさ」
「でも」
「…さっきも言ったろう、私も昔“失敗”した、と」
「でも――」

ニールが重ねた言葉を遮るように男は首を振る。

「…起きたことを嘆いたって仕方ない。
 まず君がすることは酔い醒ましを兼ねてシャワーを浴びる事だと思うのだが…?」

大人が子供をあやすように、ぽんと男はニールの頭を叩いて立ち上がる。

「浴室だ、案内しよう」

男が手を差し伸べると、ニールは困ったように眉を寄せて、そして意を決したように頷くと男の手を掴んだ。



「まぁ、見たら分かると思うが…」

男はキャビネットに並べられたボトルを指差しながら説明する。
熱めの湯を貯めているバスタブからもうもうと湯気が立ち上り、鏡を真っ白に曇らせていた。

「シャンプー、リンスに洗顔料…」

まだ少しだけ具合が悪いのを抑えてニールは復唱する。
普段寡黙な男は、ニールに比べて生活感が薄い気がしていて、けれどこうして見せてくれた生活雑貨の類はその辺のドラッグストアで揃う量産品ばかりで、男の生活の一面が見えたようで妙にニールは嬉しかった。

「…何か拘りでもあったか?」

押し黙ったニールに男は首を傾げる。

「ううん、なんでも」

慌てて首を振ると、また頭が回って思わずニールは男の肩を掴んだ。

「やっぱり、止めた方が」

心配そうに顔を曇らせた男に、ニールは今度はゆっくりと首を振る。

「大丈夫。
 ボスの新しい一面を知れてちょっと舞い上がっちゃっただけ」

――回ったアルコールに、口が滑る。

けれど、男はそれに気付いていない様子でニールに真新しいボディタオルを差し出した。

「体を洗うのなら、これを」

それから、と鏡面下のチェストを開けて「タオル類はここに」そう続ける。

「着替えは――」

男は言いながら考え込む。

「いいよ、今のそのまま着ちゃうし」

バスタブに半分くらい湯が溜まったのでニールはカランを締めながら男に告げる。

「――いや、新しいのがあるはずだから探して来よう。
 …ちょっと君とサイズは違うと思うが」

男は言うと「それ」相変わらずニールの首にぶら下がったネクタイを指差す。

「いいよ」

ニールは断ったが「出来るだけの対処はしてみるよ」男が言ってするりとタイを外す。
思わぬ至近距離に、ニールの鼓動が早くなる。顔が赤いのは、ちょっと温度が高いからだ。ニールは1人、言い訳した。
顔を赤くしたニールに

「のぼせないようにな」

男はドアに手を掛けながら振り返る。
彼の言葉に「…はい」ニールは頷いた。



彼を浴室へ案内してから、男は先ずゴミ箱を片付ける。咄嗟に紙類を敷いたものの、合皮と布張りで出来たその箱はしっかりと吐き出された液体を吸い込んでしまっていて、男は諦めて大きなビニール袋にゴミ箱を入れて密封した。流石にこのまま置いておくとニールの目に入って彼が更に気落ちするのは目に見えていたから、男は玄関のクローゼットにゴミ箱を仕舞い込んだ。住むマンションは24時間いつでもゴミを出すことが出来たから、ニールが帰ってから出せば問題ないだろう。男は考える。

それから新しい下着を探しにウォークインクローゼットへと移動する。
あまり物を持たない彼のクローゼットはすっきりとがらんどうで、シーズンを外した衣服やコート類がほんの少し掛けられているだけだった。男は手前のチェストを開けると。買い置きの下着を探す。男に比べて若く、線の細いニールには大きいだろうと思うが、急な話だったので仕方ない。服は夜の内に乾燥機に掛ければ何とかなるだろう。男は新しい下着を取り出しながら思案を巡らせた。

男はシャワーの水音が響く浴室をノックして「少し邪魔する」告げてドアノブを開ける。
ノックの音にニールはシャワーを止めたようで、男が浴室に足を踏み入れるとシャワーカーテンから顔だけを覗かせた。普段はふわふわとした髪の毛がぴったりとオールバックに張り付いていて、普段とは違う精悍さが伺える。

「替えの下着と、寝間着は此処に。
 今の服は洗って乾燥機に掛ければ明日までに着れると思うから、安心してくれ」
「…そのままでも平気だよ」
「君は良くても私が気になるんだ」

苦笑した男に、ごめんなさい、ニールは頭を下げる。

「さ、これからネクタイのシミ抜きをするからな。
 上手く行くように祈っててくれ」

おどけた男に、ちょっとだけ泣きそうな顔でニールは頷いた。



浴槽に貯めた湯を抜き、シャワーで軽く水洗いした後、使ったボディタオルをぎゅうぎゅうに絞り上げる。
それからニールは男から教えて貰った棚からタオルを取り出すと、犬の体を拭くように豪快に頭を拭く。それからまだ水滴の残る身体を拭いて、男の置いた下着に手を伸ばした。用意された下着をニールはまじまじと見つめる。
淡いグレーのボクサータイプのパンツはニールにとってあまり慣れないもので、足を通すのに緊張する。けれど、男の見えない生活を垣間見れて少し新鮮だった。
鍛え上げた男と自分の体格では違いがあるのだろう、身体に張り付くようなぴったりとした素材の下着ではあったが、ニールの肉体には少し余らせているように感じる。そのまま用意された肌着にも腕を通してニールは落ちる水滴が邪魔だとまた頭を拭いた。それから丁寧に畳まれた寝間着を広げるとそれも身に着ける。
身長だけで言えば男よりもニールの方が頭1つ分背は高い。ズボンの丈は案の定短かったが、それより意外だったのは上衣だった。普段から懸垂を好む男の体形は、見た目よりもずっと厚く、ボタンの付いたワッフル地のウェアは随分と大きい。もしかしてワンサイズ大きいんじゃないの?思って裾をまくり上げてタグを確認したが、印刷された文字は『F』で、誰にでも合うように作られた既製品だった。
かなり胸囲を余らせた姿が曇った鏡にボンヤリと写ってニールは苦笑する。少し長い腕の部分を捲るように折ると、自宅で使う洗剤とは違う香りが鼻について、思わずニールは唾を飲み込んだ。

――普段、彼が来ている衣服の匂いだ。

気付いてしまっては、もう、遅い。
顔を腕に押し当てながら大きく息を吸い込むと、ほんの少しだけ男の体臭が混ざっているような気がして心臓の鼓動が早くなった。

「…ニール、大丈夫か?」

シャワーの音が止んでも暫く出てこないニールに心配した男が声を掛ける。そのままひょっこりと顔を覗かせたから慌てて両腕を背中に隠したものの、彼が寝間着の匂いを嗅いでいたのを男は目撃してしまったようだった。

「…? 何か気になるか…?」

昨日洗濯したばかりだが、不安そうに眉を寄せた男にニールは大きく腕を振る。

「ち、違…!
 僕の家の洗剤より、良い匂いだなって、それで…!」

取り繕った言葉はお粗末だったが、男は純粋に彼の言葉を信じたようで穏やかな笑みを浮かべた。

「…そうか、それなら良かった。
 そんなに気に入って貰えて光栄なのが申し訳ないが、その辺の店で買った特売品だよ」
「さ、流石ボス。特売品でも高級そうな香りに感じるよ!」

張り付いた笑顔を浮かべたニールに、男は手を差し出す。

「?」
「…洋服。
 これから洗うから出してくれ」

男の言葉にニールは衣服を差し出そうとして、けれど下着も混ざっているのが耐えられなくなって――咄嗟に言い放った。

「やり方を教えてくれたら僕がやるよ。もうすっかりお酒も抜けたしさ。
 その間にボスもシャワーを浴びてさっぱりして」



ぐるぐると回るドラム式の洗濯機のリネンをぼんやりと見ながらニールは手に持った男のシャツをじっと見つめる。

『そうか、悪いな。
 なら私のも纏めてお願いしようか。…君が潔癖主義者じゃなければ』
『全然。気にしないからボスの洋服も入れちゃって』

バスローブを羽織って下着まで洗濯機に放り込んだ男を見送って、ニールは洗濯機を操作する。最新式の家電では無かったから、基本的な操作方法はニールの家にあるものと同じで手間取ることはなかった。そして、男から渡された洗剤は確かにドラッグストアでよく特売になっている銘柄のものだった。
男が浴室のドアを閉めた音を聞いて、ニールはそっと停止ボタンを押す。まだ内容物の確認作業をしていた機械だったから、中の洗濯物は水に濡れていなかった。ニールは洗濯物を掻き回すと、男が投げ入れたワイシャツを取り出す。
随分と皺くちゃになった其れは、普段ニールの着るシャツに比べて首回りも肩幅もしっかりと大きい。寝間着越しに羽織ってもまだ生地には余裕があって、

「…まだ、似合わないなぁ…」

ニールは1人ごちる。
其れは憧れの先輩の制服を羽織る後輩がの姿に似ていた。さ、馬鹿な事してないで洗濯――ニールはそう思ってシャツを脱ごうとする。けれど、1日中着用した男のシャツからは彼の芳香が濃く立ち上って、思わずニールはその香りを堪能してしまった。

――やだやだ! まるでボスに恋してるみたいじゃない!!

目を閉じて深呼吸した自分に喝を入れるように両頬を叩く。
彼が男に抱く尊敬が恋に変わるのはまだ少し先のようで、「どうしてこんなにドキドキしちゃってるのさ。…まだ酔っぱらってるのかな」なんてぶつぶつ呟きながら、ニールはシャツを洗濯機に投げ入れ、中断した洗濯を再開したのだった。

*おしまい*

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