Serena*Mのあたまのなかみ。
TENET/主ニル
「うつ伏せ寝が基本のニールくん、よく主人公さんの枕に伏せて寝てる(ボスの匂い〜)
寝てる子を起こすのは可哀想なのでそのままニールの枕で寝る主人公さん(優しい)」
と、呟いたのを単純に具現化。
まだ付き合ってない未来主さんと若ニール君。
*
ミアプラキドゥス…りゅうこつ座の2等星。現在、2等星の中では天の南極に最も近い(Wikiより)
「うつ伏せ寝が基本のニールくん、よく主人公さんの枕に伏せて寝てる(ボスの匂い〜)
寝てる子を起こすのは可哀想なのでそのままニールの枕で寝る主人公さん(優しい)」
と、呟いたのを単純に具現化。
まだ付き合ってない未来主さんと若ニール君。
*
ミアプラキドゥス…りゅうこつ座の2等星。現在、2等星の中では天の南極に最も近い(Wikiより)
――実の所、男は眠りが浅い方だった。
“睡眠の質が良くない”とも言える。眠る時間はいつも短かったし、6時間も中途覚醒しなければ御の字だった。
最近になって身体に負担が少ないマットレスだの、個人の頭に合わせた高さの枕だのを買い揃えて随分と眠れるようにはなってはいたが、それでも5時間も眠れれば良い方で、もう男も諦めて「あまり寝なくても平気なんだよ」と持ち帰りの仕事を片付けたり、新しい作戦の裏付けの資料を探したりして長い夜の時間を潰していたのだった。
「わ、ここが貴方の部屋? お邪魔します!」
男が部屋のドアを開けると山ほどの資料のファイルを抱えたニールが足を踏み入れる。
ここ最近の男の時間の潰し方は本部にある膨大な紙の資料の電子保存化で、過去から受け疲れてきた年代物の報告書やターゲットの資料などを黙々とスキャンして保存しているのだった。両手いっぱいにファイルを持って本部を歩いていた男をニールが引き留める。
「新しい作戦の資料? 僕も運ぶの手伝うよ」
そう言ったのはニールの方で、渡りに船と男は彼にファイルを運ぶのを手伝って貰ったのだった。
「こっちに来て机のところに重ねててくれ。
あとは私の方で整理するから」
てきぱきと自身も抱えた書類を大きなデスクに置きながら男は玄関口できょろきょろ辺りを見回すニールに声を掛ける。
「はい!」
ニールは勢いよく返事をすると小走りに駆けてきて重ねたファイルを並べる。積み重なった書類に「まだ持ってくる?」尋ねると「充分かな」男は頷く。
「じゃぁ、僕はこれで――」
踵を返したニールに、男は「お茶でも?」そう引き留める。
「…貴方の、仕事の邪魔じゃない?」
男の住居は本部と同じ建物内で、彼がよく持ち帰りで仕事を片付けているのを知ってニールは心配する。
「手伝って呉れても構わないんだが?」
「うーん、事務作業は向かないからなぁ」
おどけて笑ったニールに男も顔を崩す。
「好きに寛いでくれ」
置いた応接用のソファを見遣って告げると「ありがとう」ニールも頷いた。
*
――寛いでくれ、そうは言われたけど。
持ち込んだファイル類を重ねながらニールは男の部屋を見回す。
40平米はありそうな一間続きの開放的なリビングは質実剛健な男に相応しい落ち着いた色合いで統一されていて、置かれた家具もごく少ない。人を住むことを想定していないのであろう此処はミニ・キッチンしか設えられてなくて置かれた冷蔵庫や電子レンジの類が妙に浮いて見える。部屋に扉はなく、仕切ってあるのは薄い壁だけで隣の部屋を覗くことが出来た。ニールが首を伸ばして覗き込むと、どうやら隣はプライベートルームのようで、グレーのクッションを置いたベッドがチラリと見えた。
ニールはこの部屋に洗面所が無いことに気付く。と、直ぐに悪い考えが脳裏を掠めた。
滅多に来ることの無い、男の部屋なのだ。少しだけ冒険したって…悪くない。
ニールはキッチンでお湯を沸かしている男に声を掛ける。
「お手洗い、借りても?」
「あぁ、隣の部屋の突き当りだ。ベッドルームだが気にしないでくれ」
男は振り返って答える。
「ありがとう」
首尾よく男の許可を得るとニールは隣の部屋に足を踏み入れる。
リビング側に比べると細長い作りの部屋には男の言う通りダブルサイズのベッドが1つあるだけで、あとはクローゼットの折れ戸と、バスルームの扉があるだけで、窓側には観葉植物の植木鉢が置かれていた。
男の使うベッドはニールのものと違い、突然の来客に隠す必要もないくらい綺麗にベッドメーキングされている。きっちりと畳まれた毛布に、ぴしりと皺ひとつなく伸びたシーツ。飾り置かれたグレーのクッションの横に、白いカバーの掛かった大きな枕が置いてあった。
興味本位にマットレスを押すと、ニールの手を吸い込むように沈み込む。不思議な感覚に「全身で横になったらどうなるんだろう…?」単純な好奇心で男のベッドに転がった。普段、寝る時にするように枕を引き寄せて頭を埋める。自分の使う枕と違って硬めで少し抱き心地は悪かったが、嗅ぎ慣れない男の匂いを敏感に感じ取る。ボスの匂いだ――そう感じた瞬間、沈むマットレスの不思議な感覚に包まれて、ニールの意識はこと切れた。
*
「ニール?」
紅茶が入ったよ、そう告げて振り向いてもニールの姿は部屋には無く。
先程「トイレに行きたい」言われたから場所は教えたものの、そんなに長く…?男は首を傾げると温かいお茶の入ったカップをローテーブルに置いて隣の寝室を覗く。
目に入ったのは枕を抱きかかえてベッドの上で微動だにしないニールの姿で、男が近づいても気付かない上に、耳に届くのは気持ちよさそうな寝息だったから彼がすっかり寝入っていることを男は諒解した。
「…まったく」
男は苦笑すると窓のブラインドを下げる。
もう夕暮れの時間で明るい日差しが入ることは無かったけれど、こうして無防備に寝ているのを邪魔するのは忍びない。
そのうち起きてくるだろう、男は思って静かに寝室を後にしたのだった。
*
男が簡単な食事を済ませ、紙束の整理をしていてもニールが起きて来る気配はなかった。
――死んだんじゃないだろうか。
心配して枕の間から覗く鼻先に手を翳して確認したこともある。
けれど指先を擽るのは定期的に吐かれる呼吸で、その度に男は胸を撫でおろす。
自分があまり深く眠れる気質ではなかったから、こうやって安心しきって眠れるニールに少しだけ嫉妬した。
隣で人が寝ているのに夜中まで起きているのは気が引ける。
時計の針が11に回ったのを見て男は今日の作業を中断することにした。
玄関の施錠を確認し、部屋の明かりを落とす。
代わりに寝室のダウンライトを薄っすらと灯したが、ニールは寒そうに背中を丸めただけだった。彼が眠り始めてもうすぐ5時間。よく眠れるものだと逆に感心する。
男はニールが転がるベッドを見つめて思案する。2人が並んで寝るには余裕のあるベッドサイズだったものの、本人の承諾なしに隣に横たわるのも気が引けた。
非常用の毛布でも敷いてソファで寝るか…なんてクローゼットを開けたら、どうやらその音でニールは起きてしまったらしい。
「…あれ…ぼく…」
突っ伏していた枕から顔を覗かせて呟く。
寝心地が悪かったのだろうか、ごそごそとベルトを外すとそのまま床に投げ捨てた。
「…寝てなさい」
話した男にニールはマットレスを叩く。
「ここ」
まだ彼は寝ぼけているようで隣の空間を無造作に何度も叩く。男が戸惑っていると「はやく」枕の陰から鋭い視線で射抜いて来た。
男は肩を竦めるとニールの隣に身体を横たえる。
隣に来たよ、教えるように背中を擦って毛布を掛けてやると、またすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえた。
愛用の枕はニールに取られてしまったから、仕方なく男はクッションを頭の下に入れる。普段使う枕より幾分か高く、形も合っていなかったが、一晩くらいは問題ないだろう。部屋の明かりを消して天井を見つめていると、次第に部屋の暗さに目が慣れて来る。いつもならまだ起きている時間にこうして寝転んでいると不思議な気分だった。
男は横目で眠るニールを見つめる。
緩く巻いた金の髪、呼吸する度に上下する背中…
生憎男と反対側を向いていて顔の表情は分からなかったが、きっと美味しい物を見つけた時のように目尻を下げた無防備な顔をして寝ているのだろう。
彼の寝息を聞いているうちに、珍しく男も睡魔に襲われる。
「おやすみ」
小さく唱えると、彼も不思議に沈むマットレスに身を委ねたのだった。
*
ぐぅぅぅぅぅぅ
地獄からの呼び声のような低い腹の音にニールは目が覚める。
抱き締めている枕は硬く、普段ニールの使っているものではない。ぼんやりと視界に飛び込む世界も普段ニールの暮らす部屋のものと違っていた。
「!?!?!?!?!?」
飛び起きたニールは辺りを見回す。
暖かなベージュで統一された室内に、置かれた家具はベッド1つ。窓際に置かれた観葉植物、昨日と違うのはブラインドが下ろされていて夜景が見えないことだ。その代わりに、ブラインドの隙間からは日の光が漏れていて――
夕方の記憶がニールの脳裏を掠める。
――待って待って待って待って!!!!!
行動を起こしたのは自分ではあるけれど、想定外の結果に言葉を失ってしまう。
はっとしてゆっくりと隣に首を向けると、両手を組んだまま死んだように動かない男がゆっくりと目を開けたところだった。
「!!!!!!!!!!!!!!」
顔を引き攣らせたニールに、男は伸びをしながら朝の挨拶をする。
「おはよう、ニール。
私のベッドはよく眠れたかな?」
「おは、は、おはようございます」
言葉を詰まらせた彼に、男も身を起こしながら笑った。
「凄い腹の音だったな。
簡単なものだけど、朝食の用意をするから」
寛いでくれとは言ったが、まさかここまで寛いでくれるとはな。
続けた言葉にニールが真っ赤になって、それから青くなるのが面白くて男は笑い声を漏らす。
「気にしないでくれ、私も久しぶりに良く眠れたよ」
ブラインドを上げると、強い日の光が室内に差し込む。
車の往来はまばらだったから、時間は6時前と言ったところか。
男は壁に掛けた時計を見上げて正確な時間を確認する。
あの時間から一度も覚醒せずに眠れたことに、純粋に男も驚いてた。寝具を変えたり、リラックスできる音楽をBGMにしてみたり、軽い寝酒を嗜んでみたり――出来る事は何だって試したつもりだ。
――意外と単純な理由だったのかもな。
冷蔵庫から卵を取り出した男に、「手伝う!手伝います!!」皴になったスラックスを引っ張りながらニールが駆け寄って来る。
狭いキッチンに身を屈めて覗き込むニールに、男は笑って提案した。
あぁ、彼はいつも寡黙な方で言葉が少ない。
それでいつもアイヴスに怒られるのだ。
「時々こうして一緒に寝てくれれば充分だよ」
――その時のニールがどんな顔をしたか、それは男だけの秘密だ。
けれど、この話はニールが酔っぱらうたびにアイヴスに零す愚痴になって、少しだけ男は「饒舌になろう」そう誓うのだった。
*おしまい*
“睡眠の質が良くない”とも言える。眠る時間はいつも短かったし、6時間も中途覚醒しなければ御の字だった。
最近になって身体に負担が少ないマットレスだの、個人の頭に合わせた高さの枕だのを買い揃えて随分と眠れるようにはなってはいたが、それでも5時間も眠れれば良い方で、もう男も諦めて「あまり寝なくても平気なんだよ」と持ち帰りの仕事を片付けたり、新しい作戦の裏付けの資料を探したりして長い夜の時間を潰していたのだった。
「わ、ここが貴方の部屋? お邪魔します!」
男が部屋のドアを開けると山ほどの資料のファイルを抱えたニールが足を踏み入れる。
ここ最近の男の時間の潰し方は本部にある膨大な紙の資料の電子保存化で、過去から受け疲れてきた年代物の報告書やターゲットの資料などを黙々とスキャンして保存しているのだった。両手いっぱいにファイルを持って本部を歩いていた男をニールが引き留める。
「新しい作戦の資料? 僕も運ぶの手伝うよ」
そう言ったのはニールの方で、渡りに船と男は彼にファイルを運ぶのを手伝って貰ったのだった。
「こっちに来て机のところに重ねててくれ。
あとは私の方で整理するから」
てきぱきと自身も抱えた書類を大きなデスクに置きながら男は玄関口できょろきょろ辺りを見回すニールに声を掛ける。
「はい!」
ニールは勢いよく返事をすると小走りに駆けてきて重ねたファイルを並べる。積み重なった書類に「まだ持ってくる?」尋ねると「充分かな」男は頷く。
「じゃぁ、僕はこれで――」
踵を返したニールに、男は「お茶でも?」そう引き留める。
「…貴方の、仕事の邪魔じゃない?」
男の住居は本部と同じ建物内で、彼がよく持ち帰りで仕事を片付けているのを知ってニールは心配する。
「手伝って呉れても構わないんだが?」
「うーん、事務作業は向かないからなぁ」
おどけて笑ったニールに男も顔を崩す。
「好きに寛いでくれ」
置いた応接用のソファを見遣って告げると「ありがとう」ニールも頷いた。
*
――寛いでくれ、そうは言われたけど。
持ち込んだファイル類を重ねながらニールは男の部屋を見回す。
40平米はありそうな一間続きの開放的なリビングは質実剛健な男に相応しい落ち着いた色合いで統一されていて、置かれた家具もごく少ない。人を住むことを想定していないのであろう此処はミニ・キッチンしか設えられてなくて置かれた冷蔵庫や電子レンジの類が妙に浮いて見える。部屋に扉はなく、仕切ってあるのは薄い壁だけで隣の部屋を覗くことが出来た。ニールが首を伸ばして覗き込むと、どうやら隣はプライベートルームのようで、グレーのクッションを置いたベッドがチラリと見えた。
ニールはこの部屋に洗面所が無いことに気付く。と、直ぐに悪い考えが脳裏を掠めた。
滅多に来ることの無い、男の部屋なのだ。少しだけ冒険したって…悪くない。
ニールはキッチンでお湯を沸かしている男に声を掛ける。
「お手洗い、借りても?」
「あぁ、隣の部屋の突き当りだ。ベッドルームだが気にしないでくれ」
男は振り返って答える。
「ありがとう」
首尾よく男の許可を得るとニールは隣の部屋に足を踏み入れる。
リビング側に比べると細長い作りの部屋には男の言う通りダブルサイズのベッドが1つあるだけで、あとはクローゼットの折れ戸と、バスルームの扉があるだけで、窓側には観葉植物の植木鉢が置かれていた。
男の使うベッドはニールのものと違い、突然の来客に隠す必要もないくらい綺麗にベッドメーキングされている。きっちりと畳まれた毛布に、ぴしりと皺ひとつなく伸びたシーツ。飾り置かれたグレーのクッションの横に、白いカバーの掛かった大きな枕が置いてあった。
興味本位にマットレスを押すと、ニールの手を吸い込むように沈み込む。不思議な感覚に「全身で横になったらどうなるんだろう…?」単純な好奇心で男のベッドに転がった。普段、寝る時にするように枕を引き寄せて頭を埋める。自分の使う枕と違って硬めで少し抱き心地は悪かったが、嗅ぎ慣れない男の匂いを敏感に感じ取る。ボスの匂いだ――そう感じた瞬間、沈むマットレスの不思議な感覚に包まれて、ニールの意識はこと切れた。
*
「ニール?」
紅茶が入ったよ、そう告げて振り向いてもニールの姿は部屋には無く。
先程「トイレに行きたい」言われたから場所は教えたものの、そんなに長く…?男は首を傾げると温かいお茶の入ったカップをローテーブルに置いて隣の寝室を覗く。
目に入ったのは枕を抱きかかえてベッドの上で微動だにしないニールの姿で、男が近づいても気付かない上に、耳に届くのは気持ちよさそうな寝息だったから彼がすっかり寝入っていることを男は諒解した。
「…まったく」
男は苦笑すると窓のブラインドを下げる。
もう夕暮れの時間で明るい日差しが入ることは無かったけれど、こうして無防備に寝ているのを邪魔するのは忍びない。
そのうち起きてくるだろう、男は思って静かに寝室を後にしたのだった。
*
男が簡単な食事を済ませ、紙束の整理をしていてもニールが起きて来る気配はなかった。
――死んだんじゃないだろうか。
心配して枕の間から覗く鼻先に手を翳して確認したこともある。
けれど指先を擽るのは定期的に吐かれる呼吸で、その度に男は胸を撫でおろす。
自分があまり深く眠れる気質ではなかったから、こうやって安心しきって眠れるニールに少しだけ嫉妬した。
隣で人が寝ているのに夜中まで起きているのは気が引ける。
時計の針が11に回ったのを見て男は今日の作業を中断することにした。
玄関の施錠を確認し、部屋の明かりを落とす。
代わりに寝室のダウンライトを薄っすらと灯したが、ニールは寒そうに背中を丸めただけだった。彼が眠り始めてもうすぐ5時間。よく眠れるものだと逆に感心する。
男はニールが転がるベッドを見つめて思案する。2人が並んで寝るには余裕のあるベッドサイズだったものの、本人の承諾なしに隣に横たわるのも気が引けた。
非常用の毛布でも敷いてソファで寝るか…なんてクローゼットを開けたら、どうやらその音でニールは起きてしまったらしい。
「…あれ…ぼく…」
突っ伏していた枕から顔を覗かせて呟く。
寝心地が悪かったのだろうか、ごそごそとベルトを外すとそのまま床に投げ捨てた。
「…寝てなさい」
話した男にニールはマットレスを叩く。
「ここ」
まだ彼は寝ぼけているようで隣の空間を無造作に何度も叩く。男が戸惑っていると「はやく」枕の陰から鋭い視線で射抜いて来た。
男は肩を竦めるとニールの隣に身体を横たえる。
隣に来たよ、教えるように背中を擦って毛布を掛けてやると、またすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえた。
愛用の枕はニールに取られてしまったから、仕方なく男はクッションを頭の下に入れる。普段使う枕より幾分か高く、形も合っていなかったが、一晩くらいは問題ないだろう。部屋の明かりを消して天井を見つめていると、次第に部屋の暗さに目が慣れて来る。いつもならまだ起きている時間にこうして寝転んでいると不思議な気分だった。
男は横目で眠るニールを見つめる。
緩く巻いた金の髪、呼吸する度に上下する背中…
生憎男と反対側を向いていて顔の表情は分からなかったが、きっと美味しい物を見つけた時のように目尻を下げた無防備な顔をして寝ているのだろう。
彼の寝息を聞いているうちに、珍しく男も睡魔に襲われる。
「おやすみ」
小さく唱えると、彼も不思議に沈むマットレスに身を委ねたのだった。
*
ぐぅぅぅぅぅぅ
地獄からの呼び声のような低い腹の音にニールは目が覚める。
抱き締めている枕は硬く、普段ニールの使っているものではない。ぼんやりと視界に飛び込む世界も普段ニールの暮らす部屋のものと違っていた。
「!?!?!?!?!?」
飛び起きたニールは辺りを見回す。
暖かなベージュで統一された室内に、置かれた家具はベッド1つ。窓際に置かれた観葉植物、昨日と違うのはブラインドが下ろされていて夜景が見えないことだ。その代わりに、ブラインドの隙間からは日の光が漏れていて――
夕方の記憶がニールの脳裏を掠める。
――待って待って待って待って!!!!!
行動を起こしたのは自分ではあるけれど、想定外の結果に言葉を失ってしまう。
はっとしてゆっくりと隣に首を向けると、両手を組んだまま死んだように動かない男がゆっくりと目を開けたところだった。
「!!!!!!!!!!!!!!」
顔を引き攣らせたニールに、男は伸びをしながら朝の挨拶をする。
「おはよう、ニール。
私のベッドはよく眠れたかな?」
「おは、は、おはようございます」
言葉を詰まらせた彼に、男も身を起こしながら笑った。
「凄い腹の音だったな。
簡単なものだけど、朝食の用意をするから」
寛いでくれとは言ったが、まさかここまで寛いでくれるとはな。
続けた言葉にニールが真っ赤になって、それから青くなるのが面白くて男は笑い声を漏らす。
「気にしないでくれ、私も久しぶりに良く眠れたよ」
ブラインドを上げると、強い日の光が室内に差し込む。
車の往来はまばらだったから、時間は6時前と言ったところか。
男は壁に掛けた時計を見上げて正確な時間を確認する。
あの時間から一度も覚醒せずに眠れたことに、純粋に男も驚いてた。寝具を変えたり、リラックスできる音楽をBGMにしてみたり、軽い寝酒を嗜んでみたり――出来る事は何だって試したつもりだ。
――意外と単純な理由だったのかもな。
冷蔵庫から卵を取り出した男に、「手伝う!手伝います!!」皴になったスラックスを引っ張りながらニールが駆け寄って来る。
狭いキッチンに身を屈めて覗き込むニールに、男は笑って提案した。
あぁ、彼はいつも寡黙な方で言葉が少ない。
それでいつもアイヴスに怒られるのだ。
「時々こうして一緒に寝てくれれば充分だよ」
――その時のニールがどんな顔をしたか、それは男だけの秘密だ。
けれど、この話はニールが酔っぱらうたびにアイヴスに零す愚痴になって、少しだけ男は「饒舌になろう」そう誓うのだった。
*おしまい*
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