Serena*Mのあたまのなかみ。
TENET/主ニル
『まだネクタイが綺麗に結べない主人公さん、ニールがニコニコしながら直してくれて
「上手だな」「知り合いが丁寧に教えてくれてね。頑張って覚えたんだ」って言われて
将来、タイが結べなくて四苦八苦するニールに主人公さんが丁寧に教える幻覚が見えたんですけど
何処かに無いですか?』
と、云う呟きに対して処方しました。
過去と未来が永遠にループする、そんな主ニルちゃんが好きです。
*
ミルファク…ペルセウス座で最も明るい恒星で2等星(wikiより)
『まだネクタイが綺麗に結べない主人公さん、ニールがニコニコしながら直してくれて
「上手だな」「知り合いが丁寧に教えてくれてね。頑張って覚えたんだ」って言われて
将来、タイが結べなくて四苦八苦するニールに主人公さんが丁寧に教える幻覚が見えたんですけど
何処かに無いですか?』
と、云う呟きに対して処方しました。
過去と未来が永遠にループする、そんな主ニルちゃんが好きです。
*
ミルファク…ペルセウス座で最も明るい恒星で2等星(wikiより)
男にとっては未来、ニールにとっては過去の話。
*
アイヴスを相棒としてニールはとある政治団体のパーティに潜入することになった。
普段はあまり表立って偽名を使った潜入をしない組織だったが、今回ばかりは給仕人や警備、それに料理人など扮することが出来ないターゲットで、政治団体へ献金を行う偽装企業の顔役の代理、と相成ったのだ。
勿論、ターゲットへ近付くのはアイヴスの役目で、ニールはそのアイヴスの第一秘書の役を仰せつかっていた。
潜入前のホテルの一室、普段よりも丁寧に髭の手入れをしていたアイヴスにニールは情けない声を上げる。
「アイヴス~…結べない…」
凛々しい眉を八の字にしてニールは彼を振り返る。
ぴしりと着こなしたストライプ地のズボンに、真っ白なシャツがまばゆい。しっかりと糊付けされた襟を立てて、彼はずっとネクタイと悪戦苦闘しているようだった。
「…んなの、プレーンノットでいいだろ」
顎付け根の髭も確認しながらアイヴスは切り捨てる。
彼もこう言った正装は得意としていなかったが、基本的な知識なら備えているし、“得意じゃない”だけで嫌いではなかった。こうした組織に所属する以上、個の好みなど必要ないのだ。
「んー…それがさ。
用意して貰ったタイがちょっと長くて…どう締めてもキマらないんだよ」
肩を落としながらニールは素早くタイを締める。——確かに、結ばれたネクタイはベルトの部分に少し掛かっていて、“洗練された”とは言い難い姿だった。
「ダブルノットにするとか」
「…なにそれ」
「知らないのか。…ったく」
アイヴスが面倒そうに舌打ちをしたところに、ノックの音が部屋に響く。
「——どうぞ」
アイヴスの声に、「入るよ」声と共に男が現れる。
今日の作戦に男は参加していない。最終確認のために部屋に来たらしかった。
「用意の方は?」
彼は部屋を見回して尋ねる。
「予定通りに。
…ただ」
「ただ?」
「今更になってコイツがネクタイに苦労しているみたいで」
いい気味だ、いわんばかりの顔をしたアイヴスにニールは顰め面で応戦する。
息の合った2人のやりとりに男は苦笑すると「おいで」ニールに手招きした。
「?」
「ほら、締めてあげよう」
男は出入口近くに設置された姿見の前に彼を立たせる。
身長の高い彼に少しだけ男は視線を上げると。間延びした結び方をされたネクタイに少しだけ口の端を上げた。
「用意したものが少し合わなかったみたいだな。
君は身長もあるし細身のタイの方が良いと見立てて貰ったんだが」
男はそう言い訳する。
それからニールへ「顎を上げて」そ指示をするとするりと彼の結んだタイを解いて再び結び始めた。
至近距離の男の顔に、図らずともニールの心拍数が上がる。その技を見ようと視線だけは下げたが、見えるのは彼の鼻先と揺れる睫毛ばかりだった。
「…よし、出来た」
男はニールの喉元をポンと叩き、立てた襟を綺麗に直す。
鏡に映った姿はすっきりとタイの長さも調節され、ディンプルも綺麗で、洗練された第一秘書に相応しい出で立ちだった。
「ボスと同じ結び方?」
横に並んだ男を鏡越しに見てニールは尋ねる。
「いいや、違うよ。
私のはウィンザーノット。君のはダブルノットさ」
ほら、ここの部分の大きさが違うだろう?指をさして男は説明する。
「あぁ、本当だ。ちょっと違うね。
ボスの結び目は凄く綺麗だ」
大きな逆三角の結び目にニールは素直に感想を述べる。
「ねぇ、アイヴス。時間はまだある?」
「あぁ、まだ余裕で」
振り返って相棒に確認して、ニールは男にお願いする。
「その…ダブルノット?
良ければ……教えて欲しいんだけど…」
見えなかったから、続けると男は微笑んで頷く。
「もちろん」
「ありがとう、ボス。僕もボスみたいに綺麗に結べるかな」
あまり身に着けるものに頓着しないニールは少しだけ不安に述べる。
「大丈夫、私も綺麗に結ぶ友人に教わってね。
彼もこのダブルノットが良く似合う人だったよ」
――遠い過去を手繰るように続けた男の言葉に、ニールの心の片隅がちくりと痛む。
男に、ボスに深い影響を与えたらしい“友人”。
その友人の話をする時の彼の表情は少しだけ哀愁を漂わせていて、なんだかニールも切ない気持ちになった。その“切なさ”の根幹に彼はまだ気付いていないのだが。
男はそんなニールの心の動きには気付いていない様子で、きっちりと締められたネクタイを器用に解く。
「いいかい、ニール?
まずはこうして…」
説明を始めた男にニールも慌ててネクタイを解いて、同じ動きを真似したのだった。
*
フリーポートに向かう前、スーツのジャケットを羽織って全身のチェックをしているニールに、男はまだデスク向かいの鏡の前でネクタイに骨を折っているようだった。
ニールの記憶にある男はいつだってきっちりとタイを締めていて、そんな彼がこうして左右両手にネクタイを持ったまま混乱している姿に頬が緩んでしまう。
「何か、僕に手伝えることってある?」
何度目かにネクタイを締めなおした男の隣にニールは立って、その結び方を確認する。
男が見立てて貰ったらしいネクタイはしっかりした織の絹のもので、シンプルな見た目ながらも重厚感の漂うものだった。即座にニールは彼に似合う締め方を画策する。
「…少し、このタイには手を焼いていて」
大きく溜息を吐いた男に、ニールは提案する。
「セミ・ウィンザーノットなんてどう?」
「セミ・ウィンザー…?」
首を傾げた男に「動かないで」ニールはそう彼の動きを制する。
在りし日に彼が男からされたように、糊付けされた襟を立てて素早く男のネクタイを締める。
「ほら…これでどうかな」
男の背中を叩いて鏡の前に姿を見せると、「おぉ」男の顔に笑顔が広がる。
「綺麗な結び方だ。…これは、君と同じ…?」
「同じだけと、ちょっと違うかな。
僕のはウィンザーノットで、貴方のは――」
「セミ・ウィンザーノット」
優れた頭脳を持つ男は、先程のニールの言葉を覚えていたようでその単語をさらりと述べる。
――それはかつての彼が、将来の男が得意とする結び方だった。
「…僕の知り合いがね、とても綺麗にネクタイを締める人で。
頑張って僕も覚えたんだ」
目を細めたニールに男も微笑む。
と、その時、部屋の時計が約束の時間を告げるアラームが鳴った。
ニールがアラームを止めながら男に振り返る。
「下に車は回してある。
……行こう」
男は頷くとテーブルに置いたアタッシュケースを掴んだ。
遅れてニールも革製のバッグを持つと部屋を後にする。
――2人の、フリーポートの長い時間が始まろうとしていた。
*FIN*
*
アイヴスを相棒としてニールはとある政治団体のパーティに潜入することになった。
普段はあまり表立って偽名を使った潜入をしない組織だったが、今回ばかりは給仕人や警備、それに料理人など扮することが出来ないターゲットで、政治団体へ献金を行う偽装企業の顔役の代理、と相成ったのだ。
勿論、ターゲットへ近付くのはアイヴスの役目で、ニールはそのアイヴスの第一秘書の役を仰せつかっていた。
潜入前のホテルの一室、普段よりも丁寧に髭の手入れをしていたアイヴスにニールは情けない声を上げる。
「アイヴス~…結べない…」
凛々しい眉を八の字にしてニールは彼を振り返る。
ぴしりと着こなしたストライプ地のズボンに、真っ白なシャツがまばゆい。しっかりと糊付けされた襟を立てて、彼はずっとネクタイと悪戦苦闘しているようだった。
「…んなの、プレーンノットでいいだろ」
顎付け根の髭も確認しながらアイヴスは切り捨てる。
彼もこう言った正装は得意としていなかったが、基本的な知識なら備えているし、“得意じゃない”だけで嫌いではなかった。こうした組織に所属する以上、個の好みなど必要ないのだ。
「んー…それがさ。
用意して貰ったタイがちょっと長くて…どう締めてもキマらないんだよ」
肩を落としながらニールは素早くタイを締める。——確かに、結ばれたネクタイはベルトの部分に少し掛かっていて、“洗練された”とは言い難い姿だった。
「ダブルノットにするとか」
「…なにそれ」
「知らないのか。…ったく」
アイヴスが面倒そうに舌打ちをしたところに、ノックの音が部屋に響く。
「——どうぞ」
アイヴスの声に、「入るよ」声と共に男が現れる。
今日の作戦に男は参加していない。最終確認のために部屋に来たらしかった。
「用意の方は?」
彼は部屋を見回して尋ねる。
「予定通りに。
…ただ」
「ただ?」
「今更になってコイツがネクタイに苦労しているみたいで」
いい気味だ、いわんばかりの顔をしたアイヴスにニールは顰め面で応戦する。
息の合った2人のやりとりに男は苦笑すると「おいで」ニールに手招きした。
「?」
「ほら、締めてあげよう」
男は出入口近くに設置された姿見の前に彼を立たせる。
身長の高い彼に少しだけ男は視線を上げると。間延びした結び方をされたネクタイに少しだけ口の端を上げた。
「用意したものが少し合わなかったみたいだな。
君は身長もあるし細身のタイの方が良いと見立てて貰ったんだが」
男はそう言い訳する。
それからニールへ「顎を上げて」そ指示をするとするりと彼の結んだタイを解いて再び結び始めた。
至近距離の男の顔に、図らずともニールの心拍数が上がる。その技を見ようと視線だけは下げたが、見えるのは彼の鼻先と揺れる睫毛ばかりだった。
「…よし、出来た」
男はニールの喉元をポンと叩き、立てた襟を綺麗に直す。
鏡に映った姿はすっきりとタイの長さも調節され、ディンプルも綺麗で、洗練された第一秘書に相応しい出で立ちだった。
「ボスと同じ結び方?」
横に並んだ男を鏡越しに見てニールは尋ねる。
「いいや、違うよ。
私のはウィンザーノット。君のはダブルノットさ」
ほら、ここの部分の大きさが違うだろう?指をさして男は説明する。
「あぁ、本当だ。ちょっと違うね。
ボスの結び目は凄く綺麗だ」
大きな逆三角の結び目にニールは素直に感想を述べる。
「ねぇ、アイヴス。時間はまだある?」
「あぁ、まだ余裕で」
振り返って相棒に確認して、ニールは男にお願いする。
「その…ダブルノット?
良ければ……教えて欲しいんだけど…」
見えなかったから、続けると男は微笑んで頷く。
「もちろん」
「ありがとう、ボス。僕もボスみたいに綺麗に結べるかな」
あまり身に着けるものに頓着しないニールは少しだけ不安に述べる。
「大丈夫、私も綺麗に結ぶ友人に教わってね。
彼もこのダブルノットが良く似合う人だったよ」
――遠い過去を手繰るように続けた男の言葉に、ニールの心の片隅がちくりと痛む。
男に、ボスに深い影響を与えたらしい“友人”。
その友人の話をする時の彼の表情は少しだけ哀愁を漂わせていて、なんだかニールも切ない気持ちになった。その“切なさ”の根幹に彼はまだ気付いていないのだが。
男はそんなニールの心の動きには気付いていない様子で、きっちりと締められたネクタイを器用に解く。
「いいかい、ニール?
まずはこうして…」
説明を始めた男にニールも慌ててネクタイを解いて、同じ動きを真似したのだった。
*
フリーポートに向かう前、スーツのジャケットを羽織って全身のチェックをしているニールに、男はまだデスク向かいの鏡の前でネクタイに骨を折っているようだった。
ニールの記憶にある男はいつだってきっちりとタイを締めていて、そんな彼がこうして左右両手にネクタイを持ったまま混乱している姿に頬が緩んでしまう。
「何か、僕に手伝えることってある?」
何度目かにネクタイを締めなおした男の隣にニールは立って、その結び方を確認する。
男が見立てて貰ったらしいネクタイはしっかりした織の絹のもので、シンプルな見た目ながらも重厚感の漂うものだった。即座にニールは彼に似合う締め方を画策する。
「…少し、このタイには手を焼いていて」
大きく溜息を吐いた男に、ニールは提案する。
「セミ・ウィンザーノットなんてどう?」
「セミ・ウィンザー…?」
首を傾げた男に「動かないで」ニールはそう彼の動きを制する。
在りし日に彼が男からされたように、糊付けされた襟を立てて素早く男のネクタイを締める。
「ほら…これでどうかな」
男の背中を叩いて鏡の前に姿を見せると、「おぉ」男の顔に笑顔が広がる。
「綺麗な結び方だ。…これは、君と同じ…?」
「同じだけと、ちょっと違うかな。
僕のはウィンザーノットで、貴方のは――」
「セミ・ウィンザーノット」
優れた頭脳を持つ男は、先程のニールの言葉を覚えていたようでその単語をさらりと述べる。
――それはかつての彼が、将来の男が得意とする結び方だった。
「…僕の知り合いがね、とても綺麗にネクタイを締める人で。
頑張って僕も覚えたんだ」
目を細めたニールに男も微笑む。
と、その時、部屋の時計が約束の時間を告げるアラームが鳴った。
ニールがアラームを止めながら男に振り返る。
「下に車は回してある。
……行こう」
男は頷くとテーブルに置いたアタッシュケースを掴んだ。
遅れてニールも革製のバッグを持つと部屋を後にする。
――2人の、フリーポートの長い時間が始まろうとしていた。
*FIN*
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PASSについては『はじめに』をご覧ください。
2025.07.11
におい UP
2025.07.09
えすこーと UP
2025.06.27
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2025.02.04
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