Feeling you

イルカ先生はカカシ先生のことをカカシさんって呼んで、
カカシ先生はイルカ先生のことをイルカ先生って呼ぶ。
そんな、二人が年老いた話。

「長い、夢を見ていたような気がするんです」

縁側に座って、イルカの淹れてくれたほうじ茶を啜りながらカカシがぽつりと呟く。
大戦で先陣を切っていたあの頃に比べ、背中が少し丸くなって声も柔らかくなった。
よく見れば、その豊かな銀髪も心なしか量が少なくなったようだ。

「夢？」

色違いの茶碗を包み込みながら、傍らのイルカが首を傾げる。
彼の目じりには深い皺が刻まれていたが、それは笑い皺にも見えて朗らかな彼の表情が一層引き立つような、そんな優しさを含んだ皺だった。

「…そう、悪い、夢」

カカシが瞳を閉じる。

父の裏切りを罵られた幼少時代、乱暴者でしかなかった少年時代、人生の師との出会い、教え子たちとの思い出。
走馬灯のように今まで歩んできた道が思い出される。
そして、はたと何かを思い出したので目を開けた。

「どうしたんです？急に」

突然目を見開いたカカシに驚いてイルカが尋ねる。

「夢、見なくなりました」

「――ゆめ？」

「はい、夢です」

カカシは寝るのを嫌がった。
忍びとしての任務だからではない、寝ようとすると子供の頃から悪夢にうなされるから睡眠が好きではないのだと。
それは、一人の夜でも、イルカと共に過ごす夜でも変わらず、うなされるカカシをイルカはいつもそっと抱きしめるのだった。

「…最近、怖い夢を見なくなりました」

カカシは言うと虚空に片手を翳す。
現役時代に生傷の耐えなかった指先は今では美しく、ほんの少し爪が伸びていたのであぁ、切らなきゃなぁと思う。
忍びの性は、なかなか容易く抜けなくてカカシは一人笑った。

「…急に笑い出して、怖いですよカカシさん」

イルカがお茶を飲みながら続ける。
年を重ねても、向けられる優しさは変わらず美しさもそのまま。
急に愛おしさがこみ上げて、カカシはそっと耳打ちする。


「！！」


イルカの声に、軒先に留まっていた雀が2羽青空に飛び立った。

「か、カカシさんの馬鹿っ！」

置いてあったお盆でぽこんと叩いて、イルカは台所に引っ込む。


「平和ボケ、したって良いじゃないの。ねぇ？」

縁側にぱったりと倒れこんで、カカシは独り呟いた。


――願わくば、永久に平和が続きますよう。
貴方と、一緒にこの地に埋まりますよう。


木の葉の里の空は蒼く、風は爽やかだった。


＊FIN＊

NARUTO最終回お疲れ様記念。
カカイルよ永遠なれ。



Q.文中、カカシ先生はどんな発言をしてイルカさんに殴られたのですか
A.多分「今夜は俺の雷切が寝かさない」とか阿呆な事を言ったんでしょう。
Q.（バラしちゃったよコイツ…）余韻を残すとかそーゆー気は無いのですか
A.じゃぁさっき言ったことは忘れて、個人の想像にお任せ致します。