ねっ ちゅうしょう

メダリスト/夜鷹×司

年の差、なんてあまり気に留めない夜鷹だったものの、時折付き合っている恋人が自分より年下だと酷く思わせられることがある。

「すみません、ハンドクリーム出し過ぎちゃって。
　片手、貸して貰えませんか」

ある時はそう言ってするりと夜鷹の手のひらを温め、

「そっち危ないです、こっち歩いてください」

車道側を歩く夜鷹の袖口を引っ張って自身が車道に近い側を歩く。
それに、車に乗せればさり気なくドアを開けるし、買い物をすれば荷物だって自然と持って歩くのだ。

――彼（恋人）が、老若男女に好かれる理由が分かる気がする。

細やかな心遣いの司に夜鷹は感心した。

そんなある日の朝のことだ。
その日は枕を共にしていた。久し振りの逢瀬に珍しく長引いた夜。声を枯らした司が「の゛ど…乾い゛だ……」のろのろと起き上がり、サイドテーブルに置かれたミネラルウォーターを飲み干す。戻るついでに壁掛けの大きなモニターをオンにすると、国営放送の天気予報が流れた。

『今日の最高気温は35度。
　今現在も既に30度を越しています。室内でも適切に冷房を使って熱中症に気を付けましょう』

なんてニュースキャスターは原稿を読み、定点カメラが真っ青な空を映し出す。

ぼふん。

ベッドに倒れ込んだ司の髪を夜鷹は撫でる。

「…今日、暑いって」

言うと、司は仰向けに転がって座った夜鷹を見上げた。

「…？」

彼は少年のような悪戯っぽい微笑みを作ると白い歯を見せる。

「ね、チュウしよう？」

遮光カーテンから漏れる光に恋人の笑顔が溶け、眩しさに思わず夜鷹は目を細めた。

――嗚呼、きみの若さには叶わないな。

「…キスだけで、済むの？」

背中を丸めて距離を詰めた恋人（夜鷹）に、司は頬を赤らめる。

「……だって、外、暑いですし」

脳内に響くのは、アナウンサーの声。

『今日の最高気温は35度。
　今現在も既に30度を越しています。室内でも適切に冷房を使って熱中症に気を付けましょう』

「…じゃぁ、適切にエアコンは使わないとね」

夜鷹は囁くと、ベッドサイドの空調パネルをそっと引き寄せる。
指定温度が下げられて急に唸り出すエアコンに夜鷹は口角を上げると、そのまま司を組み敷き、朝の本能を理由にして肌を重ねるのだった。

＊おしまい＊