ていれ②

メダリスト/夜鷹×司

これは司も想像していなかったことだが、夜鷹は随分と丁寧な男だった。
普段は「ん」「それ」「うん」くらいの短い言葉しか発しない彼が、枕を共にした朝は驚くほど配慮の行き届いた男に変貌する。言葉は相変わらず少ないものの、用意された朝食、手の取りやすい位置に置かれたオレンジジュースに引かれて置かれた椅子。
ある時なんかは「手伝う」なんて浴室にまで付いてきたから慌てて司は止めたのだ。

「ひっ、一人で大丈夫です！」

――君の裸なんて見慣れてるのに、なぜ？
首を傾げた夜鷹の談。

日を開けないで肌を重ねようとしたある晩、排泄口に触れた夜鷹は「ぁ」上擦った声の司の変化を見逃さない。
行為の前から膨れた其処に夜鷹は違和感を覚える。赤く腫れた窄まりを撫でると

「…今日は、止めにしようか」

夜鷹は首を振った。
24時間営業している薬局なら、皮膚を保護する薬も売っているだろう。買ってくる、身体を起こした夜鷹を司は止めた。

「いつも、強請ってしまう俺が悪いんです」
「…でも、怪我は放っておくのはダメだよ」
「けど、折角…」
「僕がいい、って言ってるんだからいいの。
　それ以上言うと怒るよ」

――もうとっくに怒ってますよね？
言いたいのを堪えて司は恋人の意思を呑む。

その日は唯唇を合わせて、肌を摩りあった穏やかな夜だった。
情事の疲労感とも違う、落ち着いて満たされた微睡みに司は尋ねる。

「…あなたが、とても優しくて、俺…」
「……普通じゃない？」

背中を向けたまま動かない夜鷹に、司はそっとすり寄る。

「…暑い」

近距離の恋人の体温にあらかさまに夜鷹は不機嫌を口にしたが、続けられた言葉に司は固まった。

「だって、自分の所有物はちゃんと手入れをしないとダメだろう？」

“所有物”
恋人すらも己のモノと認識する夜鷹に、暫く司はどう突っ込んで良いものか頭を抱えた。

――いや、俺、人だし！　人間！！

＊おしまい＊