しーつ

メダリスト/夜鷹×司
※理凰視点

おねしょをするとシーツは洗われる。
それを理凰は知っている。自身のことについては閉口したいが、汐恩（妹）のシーツが干されるのを見て自然と理解はしていた。
勿論、理凰のシーツだって定期的に洗われる。けれどそれは天気の良い土曜日の朝だったり、雨の日にコインランドリーに慎一郎（父）が行く場合の話だ。月曜の朝にシーツが洗濯されることはない。

大好きな司が理凰の家に泊まった。これは一生の不覚なのだが朝になるまで理凰は気付いていなかったのだ。勿論、夜中に玄関がうるさいな、とは思った。父が出掛けていたから、帰ってきたのだろうとそのまま枕に顔を埋めたのだ。

それがどうだろう。

「…おはよう」

眠たい目を擦ってリビングに行くと司がダイニングテーブルに座っている。

「おはよう、理凰さん！」

通り抜ける爽やかな声に「！！！！！！」理凰は目を見開き、「さ、座りなさい」父は椅子を引いた。

「ど、どうして明浦路先生が…？」
「昨日、明浦路先生と夜中まで話し込んでしまってね。私がお誘いしたんだ」
「…え、じゃぁ先生はどこに」
「純くんの部屋だよ」

父の言葉に理凰は凍り付く。
そこへ

「ごめんね～！　ちょっと通してね！！
　あら、理凰おはよう！　今日は早いわね！」

浴室から洗濯物を抱えた母が現れて息子の後ろをすり抜ける。
庭先に広げられたグレーのシーツは明らかに夜鷹のもので、後ろからぬうと現れた同居人に理凰は舌打ちした。

「…んだよ、クソジジイ。仕事増やすなよな」

吐かれた暴言に「ま、まぁまぁ」司は窘めて「理凰さんはジャム？　バター？」なんてトーストを差し出す。
司の隣では妹がいつもと変わらない様子でお気に入りのシリアルを口に運び、光が不機嫌な顔で司を見つめていた。

どうして平日の朝に、しかも夜鷹のシーツが洗濯されているのか理凰にはよく分からない。
あのジジイが粗相をするなんてあり得ないし、明浦路先生だって大人だろう。

「うーん」

首を捻った息子に「学校に遅れるよ」父は注意すると司からパンを受け取り、理凰の皿に置く。

「はぁい」

理凰はそのままトーストを齧ると、ソファを占領した夜鷹に「汚れたなら自分で洗えっての」なんて吐き捨てた。
そのままむしゃむしゃとトーストを頬張った理凰に、
「！！」

司の表情が固まったのを――幼い彼は気が付かなかった。

＊おしまい＊