しゃしん

メダリスト/夜鷹×司

――年齢の壁、とでも言うのだろうか。

夜鷹の年若い恋人である司はよく写真を撮った。
一緒に食べた料理、眺めた景色、見かけた土産物を「可愛い」フレームに収め、「ほら、撮りますよ！」フォトスポット、書かれた場所に夜鷹を立たせた。
司の向けるスマートフォンに顔を向ける夜鷹の表情は固い。すぅと姿勢を正してレンズに向ける眼差しは睨んでいるようにも見えるが司は意に介さず「はい、写しますよ～！」なんて片手を挙げて合図をすると恋人の姿を切り取った。

「面白い？」

司のスマートフォンを覗き込んだ夜鷹が己の姿に眉を寄せると「はい！」司は笑顔を向ける。

「貴方と一緒の思い出を振り返れて楽しいです」

恋人の返答に「…へんなの」夜鷹は言うとチケットセンターに足を向けた。

――こんな仏頂面の男を撮影して何が楽しいんだか。

かつて、バズーカと見紛うような望遠レンズで撮影され続けた夜鷹には自分を納める人間の気が知れない。
なのに、現役を退いて長いと言うのに撮影され（カメラ）慣れしている自分の立ち姿に溜息を吐くと続けた。

「僕ばっかり撮られるのはフェアじゃないと思う。君も撮られるべき」

＊

――n年後。

「あ、ほら！！見えてきました！」

先行して歩いていた司が恋人を振り向く。指差した先には『ひつじの里』書かれた看板。市街地から高速を使って車で1時間ほどの高原にある其処は国営の施設で、広大な公園や植物園に温泉やグランピング施設が併設された場所だった。

「ちょっと遠いけど来てみたかったんですよね」

司は夜鷹に白い歯を向ける。
相変わらず夜鷹は黒いサングラスを身に着けていたが、少しだけ眼鏡をずらすと「あれ」視線を司の先に向けた。
視線の先、大きな看板の下には牛と馬、それに羊の木彫りの大きな人形が置かれている。
司がスマートフォンを取り出す間に夜鷹は動物たちの間に立つと、羊を撫でるように頭に手を置く。サングラスを外して自然と上がった口角に「いいですね！」司も笑顔を向けた。それから、「撮ります！！」画面に指を滑らせる。
撮れました！指先で丸を作った司に夜鷹は頷くと「一緒に」唇を動かした。

「はい！」

恋人の言葉に司は特大の笑顔を作ると動物の置物に駆け寄る。夜鷹の隣に並んで、「ちょっと待って下さいね」カメラの設定を変えると、スマートフォンを掲げて顔を寄せた。
画面に映るのは、反転された司の笑顔、少し個性的な顔つきの木彫りの人形。夜鷹もフレームに収まるように身体を動かすと司も協力した。
夜鷹を撮るのと一緒にカメラに映るようになった司も自撮りも随分と上手くなった。——笑顔を作るのは元から得意だったから、其処は恋人と大きく違う点だったけれど。

柔らかい微笑みを浮かべて画面に映る恋人に司は目を細めると「撮りますね！」ボタンを押した。

20xx.xx.xx ひつじの里にて

＊FIN＊