しあげ

メダリスト/夜鷹×司
新規イラストの衣装によせて

衣装の仮合わせを終えた夜鷹が控室に戻ると、煌びやかな衣装を身に纏ったままの司が部屋の隅で硬直していた。
彼の衣装合わせは夜鷹の前だった筈。彼は相棒である高峰との打ち合わせもあるのだろうか。夜鷹は横目で流しつつ、真ん中に置かれた簡素な机に体重を乗せる。―—繊細な装飾の施された衣装だったから、流石の夜鷹も普段通りに腰を下ろすような愚行はしなかった。

「…どうしたの」

低く尋ねた夜鷹に、司はふるふると怯えた子犬のように顔を向ける。
不自然に縮こませた肩に「？」夜鷹が近寄ると更に「わーーーーーっ」司は顔を赤くさせた。

夜鷹の眼前に映るのは、今にも破れそうな横に伸び切った司の布地。
よく伸縮する素材で作られた衣装ではあったが、基本的に着用する人間に合わせてオーダーメイドで作られた1点物の作品だ。こんなにサイズが合わないことなんて――あり得ない。

「……久しぶりの、こうした仕事…で、こう、気合を入れてトレーニングしたら…」

薄い布地の下、むっちりと膨らんだ胸筋にさくらんぼ色の乳首が想像できて夜鷹は咳込む。
思いきり絞り込まれた腰回りも、いじめ尽くされて膨らんだ大腿四頭筋も、彼の趣味と性格を思えば必要以上に成長させるのも致し方ないだろう。

「どうしよう…全然、動けない…です……」

背中を丸めたまま泣き出しそうな顔つきの司は、かつての夜の姿を彷彿とさせる。

『やだ…そのまま、動かないで、下さ……』

組み敷いたベッドの上、願いを無視して己の欲を追った。

「… … …」

夜鷹は薄手のシャツの部分を掴むと、力任せに引き裂く。

「！！！！！！！！！！」

な、何するんですか！
慌てた司を他所に、夜鷹は涼しい顔だ。

――見事に裂け其処は、きっと布自体も限界だったのだろう。
採寸の時から、どれだけ鍛えたのか。横皺の入った、限界だった布地を夜鷹は慮る。

「…別に、また作ればいいだけだよ。
　こんなサイズの合わない衣装で人前に出るなんてあり得ない」

競技人として言い放った夜鷹に、司は返す言葉もない。
ぷりと仕上がった胸を晒して項垂れると、夜鷹は少しだけ表情を緩ませた。

「僕の隣に立つつもりなら、ちゃんとして」

俯いた司の頭を上げ、後れ毛の飛び出た髪を撫でつけて整えた夜鷹に

「…はひ…♡」

司の瞳が潤む。
どんな言葉を吐かれようとも司にとっての夜鷹は憧れの存在なのだ。特に今日は現役時代のような衣装を纏った姿だったから、彼の心はあの頃の少年に戻ったのだろう。

「…お揃い」

頷いた夜鷹と、蕩けた表情の司の仲は決して悪くない。

――けれど。
控室に2人きり、思いきり破かれた衣装と「直しといて」不機嫌に言い放った夜鷹の姿に、不仲説が囁かれるのだった。

＊おしまい＊