Serena*Mのあたまのなかみ。
メダリスト/夜鷹×司
リンクを貸し切っての練習後。
忘れ物の確認を行い、自動販売機でスポーツドリンクを買った司は気の抜けた表情で人気のないリンクを眺めていた。
練習に酷使されたリンクは削られた氷の線が数多に描かれている。凹んだ箇所はジャンプの為に突いた為だろうか、それとも着氷の失敗だろうか。
眺める司の夢想は尽きない。と――
「…何飲んでるの」
気配もなく、頭上から注いだ夜鷹の声に
「ぎゃぁ!!」
身体を大きく跳ねさせて司は驚く。
――そんなに驚かなくても。
夜鷹は司の反応に眉を寄せたが、不愛想な面のまま、当たり前と言わんばかりに司の隣に腰を下ろす。触れた肩から嗅ぎ慣れないほんのり甘い香りがして、「?」首を傾げた。
「…どうかしましたか」
きゅっとスポーツドリンクのキャップを捻って、難しいままの顔の夜鷹に司は尋ねる。
この人が無表情なこと、そして何故か自分に絡んでくるのはいつものことだ。苦手だと隠れるより、こうして堂々と接した方が夜鷹の反応も観察できる。
即座に夜鷹は司に視線を走らせる。片手に持った清涼飲料水に気が付くが、この甘く爽やかな香りは其れではない。夜鷹は頭を捻った。
「きみの、香り」
くん、予告なく首筋に顔を近付けた夜鷹に司は硬直する。
「いつもと違う。
桃…みたいな…」
――いつもと違う。
その言葉に司の背中にぞわりと産毛が立つ。
この人は、俺の“いつも”を知っている。
項を齧られそうな至近距離に心拍数が跳ね上がったが、夜鷹の言葉に司は合点がいった。
「!
あ、それならこれかも」
足元に置いたバックパックから司は小さなパウチを取り出す。
「汗拭きシートです。さっき使ったんで。
きっと…これの香り、かと」
目の前に見せられた其れは桜色が可愛らしい。確かに、パッケージには桃のイラストと“はじけるピーチの香り”そう記されていた。
汗拭きシートのパッケージを見つめたまま微動だにしない夜鷹に、司は語る。
「…俺、体温高くて汗っかきだから。
選手じゃないですけど、練習後はこうして拭いてるんです。まぁ、今日のコレは安かったから買った…ってだけなんですけど」
訊いてもいない懐事情を語り、バツが悪そうに頭を掻いた司は続けた。
「…で、もう仕舞っていいですか」
小さく夜鷹が顔を動かすと、司はパッケージをまたバッグに仕舞う。
「じゃぁ、俺は帰ります」
まだ何か言いたげな夜鷹の空気を察して、避けるように立ち上がった司を夜鷹呼び止めることも出来ない。彼が非常口の灯された出入口から見えなくなると、
「もも…」
夜鷹は残り香を確かめるように大きく息を吸って呟くのだった。
*
翌日。
司の使っていたであろう汗拭きシートを入手した夜鷹が、こっそりと其れを使って寒さに震えていた。
――使うとヒンヤリするタイプの汗拭きシートは、リンクサイドで使う物ではないのだ。
夜鷹純が、一つ賢くなった瞬間である。
*おしまい*
忘れ物の確認を行い、自動販売機でスポーツドリンクを買った司は気の抜けた表情で人気のないリンクを眺めていた。
練習に酷使されたリンクは削られた氷の線が数多に描かれている。凹んだ箇所はジャンプの為に突いた為だろうか、それとも着氷の失敗だろうか。
眺める司の夢想は尽きない。と――
「…何飲んでるの」
気配もなく、頭上から注いだ夜鷹の声に
「ぎゃぁ!!」
身体を大きく跳ねさせて司は驚く。
――そんなに驚かなくても。
夜鷹は司の反応に眉を寄せたが、不愛想な面のまま、当たり前と言わんばかりに司の隣に腰を下ろす。触れた肩から嗅ぎ慣れないほんのり甘い香りがして、「?」首を傾げた。
「…どうかしましたか」
きゅっとスポーツドリンクのキャップを捻って、難しいままの顔の夜鷹に司は尋ねる。
この人が無表情なこと、そして何故か自分に絡んでくるのはいつものことだ。苦手だと隠れるより、こうして堂々と接した方が夜鷹の反応も観察できる。
即座に夜鷹は司に視線を走らせる。片手に持った清涼飲料水に気が付くが、この甘く爽やかな香りは其れではない。夜鷹は頭を捻った。
「きみの、香り」
くん、予告なく首筋に顔を近付けた夜鷹に司は硬直する。
「いつもと違う。
桃…みたいな…」
――いつもと違う。
その言葉に司の背中にぞわりと産毛が立つ。
この人は、俺の“いつも”を知っている。
項を齧られそうな至近距離に心拍数が跳ね上がったが、夜鷹の言葉に司は合点がいった。
「!
あ、それならこれかも」
足元に置いたバックパックから司は小さなパウチを取り出す。
「汗拭きシートです。さっき使ったんで。
きっと…これの香り、かと」
目の前に見せられた其れは桜色が可愛らしい。確かに、パッケージには桃のイラストと“はじけるピーチの香り”そう記されていた。
汗拭きシートのパッケージを見つめたまま微動だにしない夜鷹に、司は語る。
「…俺、体温高くて汗っかきだから。
選手じゃないですけど、練習後はこうして拭いてるんです。まぁ、今日のコレは安かったから買った…ってだけなんですけど」
訊いてもいない懐事情を語り、バツが悪そうに頭を掻いた司は続けた。
「…で、もう仕舞っていいですか」
小さく夜鷹が顔を動かすと、司はパッケージをまたバッグに仕舞う。
「じゃぁ、俺は帰ります」
まだ何か言いたげな夜鷹の空気を察して、避けるように立ち上がった司を夜鷹呼び止めることも出来ない。彼が非常口の灯された出入口から見えなくなると、
「もも…」
夜鷹は残り香を確かめるように大きく息を吸って呟くのだった。
*
翌日。
司の使っていたであろう汗拭きシートを入手した夜鷹が、こっそりと其れを使って寒さに震えていた。
――使うとヒンヤリするタイプの汗拭きシートは、リンクサイドで使う物ではないのだ。
夜鷹純が、一つ賢くなった瞬間である。
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