Which do you like?

急に「どちらが抱くか」を問答する二人が浮かんだので書き殴った次第。

それは、部活帰りに立ち寄った銭湯での出来事だ。

夕食の時間帯でペコとスマイル以外の入浴客も居らず、だらりとソファに身を投げ出したペコが100円のアイスバーを舐めていたら急にスマイルに向き合った。

「なぁ、スマイル。
　お前、オイラが好きなんか？」

――どきり。

スマイルはカッターシャツに通した腕を固まらせる。

「…どうしたのさ、突然」

引き攣らせた顔がバレないよう、ゆっくりと振り返りながらスマイルが言うと、ペコはアイスバーを頬張って「なに？」、無邪気に返したのだった。

「別に、僕がペコを好きだって何か変わるワケじゃないでしょ」

部活だって一緒だし、勉強だって同じだし。
それに、休みの日を一緒に過ごす事だって。

ぶつぶつと続けたスマイルに、ペコはやっと頭を拭きながら立ち上がる。

「んー…」

ソファ横のくず箱にアイスの木の棒を投げ捨ててペコはスマイルの隣に並んだ。

「ハズレ？」

「50敗記録更新。
　もう1本買ってケロ？」

「だーーーめ。
　お腹冷やしちゃうでしょ」

ツンと澄ましたスマイルの顔に「ちぇっ」ペコは舌打ちをすると白いTシャツに頭を通す。それから無造作に制服のズボンを引っ張り上げて、カッターシャツも羽織ると、ポタポタと拭き切れていない髪の毛の水滴が肩に堕ちた。

「あぁ、もう」

きっちりと第一ボタンまで締め上げたスマイルが見かねてペコの頭をタオルで拭き遣る。

「な、さっきの」

レンタルした薄い茶色のタオルの隙間から見上げる瞳に、思わずスマイルは目を逸らす。

「…知ってるでしょ、ずっと」

――そう、子供の頃から、ずっと。
ペコはスマイルのヒーローで、愛した人だ。

「だからさ、オイラも真面目に考えようって思ってヨ」

タオルを押さえたスマイルの手のひらに自分のを重ねて、ペコにしては真面目な視線をスマイルに向ける

「……な、なに」

もう一度顔を背けたいスマイルだったけれど、捉えられた情熱の視線を外す事は出来なくて、じわじわと頬が熱くなるのを感じた。

「お前はさ、オイラを抱きたいんか？
　それとも抱かれたいんか？」

真っ直ぐな視線で告げるペコの言葉に裏は無くて、ただ真剣にスマイルの心を聞きたい単純な男心だった。

「…！」

思わぬペコからの問いかけに、思わずスマイルは眼鏡を直して場を繋ぐ。普段なら手に持ったルービックキューブを高速回転させられるのに、何も持たない風呂上りが恨めしかった。

「……もし、僕が。
　僕が君を抱きたいって言ったら――？」

――嗚呼、そんな台詞。
何万回も妄想で試した言葉だ。
「気持ち悪い」「男相手に」「信じられない」
最低最悪な罵詈雑言を並べられたって、それでも彼の人の幻想に『抱きたい』と劣情を抱いたことか。

生唾を呑み込んだスマイルに、ペコの答えは早かった。

「えぇよ？」

脱衣籠に置いたスポーツバックを背負って彼は続ける。

「オイラも、スマイルの事が好きだかんね」

その答えは鬱々と自問自答を繰り返していたスマイルとは正反対の答えで。

「…え、でも……」

遅れて鞄を掴んだスマイルに、ペコはもう下駄箱からスニーカーを取り出していたところだった。
慌ててローファーを並べたスマイルに、ペコは続ける。

「好きな人がそうしたいって言うんなら応えてあげたいって思うじゃんよ」

向けられた太陽のような笑顔はスマイルには眩し過ぎて、思わず目を細めた。

――この人は。
憧れの英雄は一般的な話なんて意に介さないで、
こうしてスマイルの気持ちを全部受け止めてくれるのだ。

「なんだ、スマイル。変な顔！」

笑いだした恋人の背中をスマイルは追いかける。

「待ってよ、ペコ」

敵わないなぁ、想いながら追う背中は今も昔も、ずっと彼にとって心地よい時間なのだった――

＊おしまい＊