君に恋する箱庭

ハイキュー/岩及

イヤホンと岩及の親和性について。

「ねぇ、岩ちゃん。
　この曲岩ちゃん好きそう」

勉強から開放される昼休み、岩泉が昼食の弁当箱を鞄に押し込めたところで、ウォークマンでラジオを聴いていた及川が傍らの岩泉の腕を突く。

「んぁ？」

弁当1つじゃまだ足りないと、購買で買ってきたサンドイッチの封を開けていた岩泉が及川を振り向いた。

「これ。
　この前貸したアーティストの新譜」

及川はもう1度言うと、片耳を外したイヤホンを岩泉に差し出す。

「ん」

岩泉もサンドイッチを口に押し込みつつ、イヤホンを受け取ると耳に挿す。及川は椅子を引くと、有線のコードが断線しないよう、幼馴染に肩を寄せた。そのまま頭も預けて、お互い、自然と頭を寄せた形になる。

「…どう？　結構好きな部類じゃない？」
「悪くねーな」
「今度の月9の主題歌だって」
「あっそ」

恵まれた体躯を密着させて及川は言葉を交わす。
聞かせたい曲が終わったのだろう、イヤホンを外した岩泉にまた及川は椅子を直すと今度は会話に参加しようとウォークマンのコードをくるくると巻いてを片付けた。

「パニーニさん？」
「そうそう。マッキーよく分かったね」
「昨日のラジオで聞いた～。パニさん、メジャーデビューしてからさぁ、どの曲もコラボってるよね」

スマートフォンに指を滑らせながら向かいに座った花巻が言うと、

「ジュース買ってくる」

サンドイッチを食べ終えた岩泉が立ち上がる。

「あ、オレもトイレ行きたい～」

花巻も岩泉を追いかけるように席を立つと、残った松川が頬杖をつきながらニヤリと微笑った。

「…ワイヤレスにしないの」

ストローを差したリンゴジュースを飲みながら言った彼に、及川も人の悪い笑みを浮かべる。

「まっつん、ソレ訊いちゃう？」
「…まぁ、予想はしてるケド」

目を細めた松川に及川は身を乗り出して耳打ちする。

「……岩ちゃんとくっつけるから」

――やっぱり。

思ったところで「あーーーっ」教室に入るなり花巻が絶叫した。

「なになに、内緒の話？？」

密着した松川から離れ、また居を正した及川と相変わらずのポーカーフェイスの相棒の顔を交互に見遣って花巻は続ける。

「ひみつの話♡」

ウインクした及川に悪乗りするように松川も「秘密の作戦会議です」なんてニヤリと笑った。

「えーーーっえーーーっ！！！オレばっかり除け者にするのいくない！」

机を叩いて抗議を唱えたところで「うっせぇ花巻」ペットボトルを片手に持った岩泉が現れる。

「おかえり～」手を振った及川を無視して「うるせ～」花巻の背中を力任せに叩いた。

「へブぅ！！！！！」

岩泉からの強打に花巻が変な声を発し、机に突っ伏したまま動かなくなる。

「マッキー！！生きて！ほら、新しいアイドルの写真ダヨ！！」
「明日はいいことあるよ。人生苦もあれば楽もあるって言うし」

なんて、応援する及川に背中を擦ってやる松川は対応に慣れているようだ。
当事者なのに関係ねぇと言った顔をしてカルピスを豪快に飲む岩泉を、恨めしそうな顔で花巻は見上げる。

――3年に上がったばかり青葉城西バレー部員の、いつもの昼休みなのだった。

＊おしまい＊