ヒーロー候補生～秘“蜜”の話

僕のヒーローアカデミア/爆轟

普段、布団寝なのでベッドに寝ると高確率で落ちる轟くん（天然）。って話が書きたかっただけです。
既に付き合ってる2人。きっと疲れてるからゴロゴロして落ちちゃうんでしょうね。
書きたいことろだけ書くstyleです。

――人の不幸は蜜の味だと言う。
そこまで酷いことは思わないが、他者が知らない一面を自分だけが知っていると言うのは妙に優越感が満たされるものだと爆豪勝己は思う。

出入り口の電灯だけ点けた薄明かり、狭いワンルームの寮室に置かれたベッドで寝こけるのはクラスメイトでもある轟焦凍で、横向きで毛布を抱えたまま穏やかな寝息を立てていた。

「…ったく。
　なんでオレよりデケー顔して寝てんだよ」

真ん中に陣取る彼に爆豪は悪態を吐くと、手に持ったミネラルウォーターのペットボトルを握り潰す。
轟が無防備にも眠っている原因は爆豪にもあるのだが、其れはベッドを占領して良い理由にはならないようだった。
まだ水滴の残る髪の毛を拭き上げ、クローゼットを開けると冬用にと母親に持たされた厚い毛布を引っ張る。まさか寮内でこうして“外泊”されるのは想定外だったが、雑魚寝をしたって問題無い季節だろう。滅多に使わない大判のバスタオルを上掛け替わりに、エアコンの温度設定だけ確認すると爆豪は出入り口の明かりを落とす。暗闇に即席の寝床に潜り込むと、そのままぼんやりと天井を見つめて闇に慣らした。

明日も授業はある。
朝だって早い。それに、誰かが起き出す前に轟を叩き起こして部屋から追い出す必要もあるだろう。別に同性行為を隠匿したい訳ではないが、まだ日の目を浴びるには早すぎる関係だと思う。
優先すべきはヒーロー活動であり、恋人と肉欲に溺れる必要はない――

回転し過ぎる明確な頭脳は夜が深まるにつれ冴えて行き、カチコチと鳴る定期的な時計の針と安心しきった轟の寝息でも睡魔は招かれそうになかった。

小さく舌打ちをして爆豪は寝返る。
ちょうど目線の高さにベッドから飛び出た轟の手のひらが見えて「良い身分だなコラ」罵ったところでぴくりとその手が動いた。伸びをするようにぐっと伸ばし、それから……

ドサッ

頭から落ちた轟と、爆豪の目が合う。

「――？？？？？」

何が起ったのか分からないと言った風に瞬きする轟に、ワンテンポ遅れて爆豪が吹き出した。

「ダーーーーーーーーーーーーーーーッセェ！！！！！！！！！！」

彼の声に目を覚ました轟が「近所迷惑だ」爆豪の口を塞ぐ。
それでも爆豪の笑いは止められなかった。

高校にもなって、普通、ベッドから落ちるかぁ！？
アホのデクなら兎も角、コイツは推薦入学のエリート君だぞ！？

クラスメイトへの嘲笑も入れつつ腹を抱える爆豪に、轟は唇を噛むと視線を外す。

「…んだよ、そんなに機嫌悪くすることかァ？」

塞がれた手のひらを外しながら爆豪が嗤うと、あまり感情を表に出さない彼にしては珍しく唇を尖らせた。

「……普段…布団…だから……その……」

№1ヒーローを期待されたライバルの言い訳に更に爆豪の気分が良くなる。

「誰も悪いとは言ってねぇ。
　ただ、舐めプ野郎の弱みを1つ握ったってことだな」
「…ぐ…」

俯いた轟に爆豪はニヤリと口の端を上げると、一緒に落ちた毛布ごと彼を引き寄せた。

「！？」

驚いて顔を上げた恋人に、爆豪はやっぱりお得意の人の悪い笑みを浮かべて、背中に回した両腕に力を込める。

「オレしか知らない秘密ってのも良いモンだなぁ、焦凍」
「……ヒーローはそんな卑劣なこと言わないと思うぞ」
「あぁん！？」

いつもの調子に凄んだ爆豪だったが、それでも情事の余韻は残っているのかそれ以上には何も言わず轟の頭を梳いた。

「…無理、させちまったか」

――曲がりなりにも轟だってヒーローを目指す者だ。
いつだって神経を研ぎ澄ませる訓練はしているし、事実、彼だって勘は良い。

「いや。
　…自分の限界を甘く見た俺の非だ」

相変わらず生真面目な回答に爆豪は鼻で嗤う。

「そーか。
　じゃぁオレは謝る必要なんて微塵もねーーな」
「あぁ。寧ろ爆豪の寝床を占領してしまって申し訳ない」

目も覚めてしまったし、このまま部屋に戻ろう。言った轟を爆豪は引き留めた。

「いいよ、このまま寝てけよ」
「…でも」
「またベッドから落ちてオレを笑わせてくれ」

人の悪い笑みを浮かべた爆豪に「爆豪！！」轟が低く唸る。

――人の不幸は蜜の味。
自分だけが知っている、恋人の秘密に爆豪はひっそりとほくそ笑むのだった。

＊おしまい＊