赤い快感の跡

ハイキュー/黒大

ワードパレットの企画から。
28.赤い快感の跡
「確認」「見えない場所」「シャワー」

研磨から見た主将2人の話。合同合宿のあたり。
新書ページメーカー（4枚）に入らなくて1ツイートで納められなかったので収容します。

ゲームに没頭していた研磨が合宿所のシャワールームにやってきたのは消灯時間ギリギリで、誰も居ない方が楽だし、そう思っていた予想と反して、どうやら先客が居たようだった。
最大限に換気扇を回しても湯気の立ち込めるシャワールームは落ちる水滴の音も響き、先客は研磨の存在に気付いていないようだ。
――その方が都合が良い。
隠れるように研磨も入り口直ぐのブースに入ってカランを捻る。
少し熱めに温度を調整し、お湯の勢いを弱めて身体を温めつつ、持ち込んだシャンプーを出して手の上で泡立てる。
どうやら先客は1人だけではないようで、水音に混じって会話が漏れ聞こえた。

「…ちょ、やめ…！」
「いいじゃんいいじゃん。イヤよイヤよも好きのウチ、ってサ」
「よくな…！　人が来たらどうする！」

声の主は2人で、どうやらふざけあっているように聞こえる。
リエーフもこんな感じでうるさいから、どこの部員もこうして賑やかなのが居るんだろう。
頭を洗いながら研磨は考える。

「大丈夫、もうすぐ消灯時間だし。みんな教室に帰ってるよ」
「…だからって、さっきも」
「好きな人に触れてたい、ってダメ？」
「ば、場所と時を弁えろって話で…」
「サームラさぁん」

『サームラさん』
特徴的な呼び方に、それが幼馴染であり部の主将の声であることを研磨は諒解する。

――クロ！？

見えないのは分かっていても、思わずシャワールームの奥を確認してしまう。泡立てた頭のまま、恐る恐るブースから顔を出すと、確かに見慣れた背の高い幼馴染と、その隣のブースに佇む烏野の主将の姿があった。

「いい加減にしなさいよ」

相変わらず2人は研磨の存在に気付いてはいない。
ぽこんと黒尾の頭を叩いて澤村が続ける。

「こっちはペナルティ三昧でもうヘロヘロなの。
　お前さんの運動にまで付き合ってられません」
「昨日はOKだったじゃないですか～」
「昨日は昨日、今日は今日！」

ぴしりと言われてしまった黒尾の肩が下がるのが遠目にもよく分かる。

……？
ふーん？　へぇ…？？

あまりに自然なやり取りに違和感を覚えなかったが、ついさっき黒尾は澤村に対して“好きな人”と言っていた。
澤村も“時と場所を弁えろ”って返していたし、トドメの“昨日はOKだった”――

音駒の優秀な脳は瞬時に答えを導き出して、その衝撃に目を瞬かせる。
刹那、

「先上がってる」

澤村の声に大急ぎで研磨は背中を向けると、気付かないフリをして泡立った頭をシャワーで流した。

「…あれ、弧爪か」

背後からの声に、研磨はゆっくりと振り返る。

「…あ、ハイ…こ、コンバンハ…」

黒尾との会話を盗み聞いてしまったのが申し訳なくて肩を竦めたが、澤村は単純に急に話しかけられて研磨が驚いただけだと解釈したらしい。

「はは、驚かせちまってごめんな。
　いっつも日向とトス練してくれてありがとな」
「い、イエ…」
「疲れたら言ってくれ、引き離してやるから」

白い歯を見せられて「は、ハイ…」研磨も頭を下げる。

「あ、シャワーの邪魔してスマンな！
　冷えるから熱めのお湯で洗えよ～」

なんてまた笑顔を向けられて、もう一度研磨は頭を下げる。
俯いた視線の先、肉厚な澤村の腰の付け根に噛み跡を見付けて思わず息を呑んだ。

そのままブースから顔を出して澤村の背中を見送ると、擦り合わせる太腿の、見えない場所にも咲いた赤い薔薇を確認する。
ひょいと飛び出した幼馴染のプリン頭に、今度声を掛けたのは幼馴染の方だった。

「あれぇ、研磨。聞こえてた？」

隣のブースに陣取って、黒尾はニヤニヤと研磨を見下ろす。

「…聞こえてた」

研磨は短く答えると、洗い残したシャンプー頭を洗い流す。

「ん」

黒尾からリンスを差し出されて研磨は素直に受け取ると、髪の毛によく絡めた。

「…バレた？」
「…バレた」
「男と付き合ってるのって、引く？」
「…べつに。クロが幸せなら、それでいいんじゃない」
「そっか」

――基本的に研磨は他人に興味がない。
その人の人生は、その人のもの。他者がどんな感情を抱こうが関係ないのだ。
それが幼馴染であっても、そのスタンスは変わらなかった。

「あ、でもさ」

幼馴染と一緒だと少し口数が多くなる研磨がリンスを落として顔を上げる。

「見える場所に痕を付けるのはどうかと思うよ」
「やっぱり」
「…あれ、翔陽のキャプテンさんは気付いてないだけでしょ」
「デスヨネ～」

研磨にタオルを渡して黒尾は溜め息を吐くと「んじゃオレも先行くわ」なんてひらりと手を振る。
入り口のドアが閉まる音がして、今度こそ研磨は1人になった。

黒尾から渡されたタオルで頭を拭きながら、少し時間を潰してから更衣室へ戻ろう。
今、此処から出るのは危険だと脳が告げている。

――そう、研磨はまたカランを捻ったのだった。

消灯時間まであと少し。
濡れた頭はクロに乾かして貰えばいいや。

別に、クロが誰と付き合ってようと　関係は変わらないしね。

＊おしまい＊