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Serena*Mのあたまのなかみ。
ハイキュー/岩及

人の力を最大限に引き出す及川さん、見せないだけでめちゃくちゃ空気読むタイプなんだろうな…と云う幻覚から。
ちょっとクズ川さんです、ごめんなさい。



「い~わちゃんっ!かーえろ!」

背後に聞こえる黄色い声も何のその、珍しく机に座ってシャープペンを走らせる岩泉に及川は教室のドアから顔を覗かせる。

「及川くんだ~」
「わ、身長でっか!顔ちっさ!!」
「及川くーん♡」

女子たちのざわめきに及川は振り返ると微笑みを浮かべてひらひらと手を振る。
高校2年の秋、春高の予選も終えて3年が引退し及川がバレー部の主将として新しい青葉城西バレー部が始動した。主将と言う更に目立つ立場になったからだろうか。もともと多かった及川への声援は今まで以上に熱く、体育館のみならず、こうした校舎の廊下内でも上がるのだった。

「岩ちゃん、教室入っていい?」

また岩泉の方を向いて尋ねると「うっせぇから早くこっち来い」顰め面で岩泉は答える。

「はぁ~い」

及川は廊下の歓声にもう1度手を振ると、教室の窓側、岩泉が座る席の前の椅子を引いて座る。
――どうやら今日の日直は岩泉だったらしい。
厚紙が表紙の日直日誌に、今日1日の時間割を岩泉は書き込んでいるようだった。

「あ、今日、岩ちゃん体育あったんだー? 何したの?」
「…バスケ」
「いいね~
 ねぇねぇ3Pシュート決めた? 俺、今年こそダンク決めれそうな気がする」

しゅっとシュートを決める動作をした及川に岩泉は舌打ちする。

「クソ川うるせぇ。少し黙れ」

顔を上げずに吐かれた暴言に「つまんないの」暴言を気にする風もなく及川は口を尖らせた。

――今日は月曜日。
部活は休みだったから、及川は彼女とデートの予定を組んでいた筈だ。

「…デートじゃねーの」

今日の総括を書きながら岩泉は少しだけ視線を上げる。

「臨時の委員会なんだって~
 お昼休みにゴメンネってメール来た」

スマートフォンを弄りながら及川は答える。
つい先月くらいから付き合い始めた彼女は隣駅の女子校の同級生らしい。IHの試合で彼のファンになり、連絡をくれたのが縁の始まりらしかった。

「………」

及川の言葉に岩泉は何も返さず、ペンを置く。
日誌に視線を走らせる岩泉に、手持無沙汰になった及川は1人呟いた。

「…こんな話さ、岩ちゃんにしか出来ないんだけどさ」
「なら喋んな」
「聞き流してくれていいから」

確認が終わったのだろう、日誌を閉じて帰り支度を始める岩泉に及川は続ける。

「なんかさ、自分でも悪いなって思うんだけど。
 女の子たちの“欲しい”対応って、咄嗟にしちゃうんだよね」

シャープペンと消しゴムを所々凹んだカンペンに仕舞うとカタカタと音が鳴る。大きなお弁当箱の包みをスポーツバッグの奥に詰め込んで、邪魔だと引っ張ったジャージを机の上に出すと、及川はそれを畳んだ。

「『髪の色良い色だね』とか、『この香り好きだな』とか。ちょっと微笑んだり握手したり、一緒に写真撮ったりとかさ。
 求められた及川徹をつい演じちゃう」

綺麗に畳まれたジャージを渡すと、岩泉は鞄に仕舞う。配られたプリントを雑に折るとそれもバッグに突っ込んだ。

「…あ、俺の事好きになったな。って気付く瞬間あるんだよね。
 んで、気付くとその子への興味が冷めちゃう」

バッグを四角く整えた岩泉が及川を見つめると、彼は瞳を伏せる。

軽率そうな言動に反して、結構真面目な彼は彼女との連絡はマメだし、女性に対する扱いは紳士的だ。
その一本気なところは今まさにバレーで生かされているし、努力を惜しまない姿は岩泉だって尊敬していた。

「マッキーとかまっつんにだってそう。
 こう言ったら嬉しいかな、喜んでくれるかな?って言葉を選んじゃう」

身支度の終わった岩泉が口を閉じたままでいると、頬杖を突いた及川がじっと岩泉を見つめる。
少し色素の薄い、茶色の瞳は白い肌によく似合っていた。あまり彫りの深い顔立ちではないが、涼やかな目元と真っ直ぐに通った鼻筋はモデルだと言われても頷ける造形だった。

「…なのにさ。
 岩ちゃんにはそれがないの。怒っちゃうよねぇ、って思いながらついつい怒らせそうな事、言っちゃうんだよね」

なんでだろ?
首を傾げた及川に、岩泉は大真面目な顔を作る。

「お前、それってオレの事好きなんじゃねーの。
好きだから反応見たいってヤツ。好きな子ほど苛めるって言うし」

――なんてな、大口を開けて笑おうとしたら、目を見開いた及川と視線がぶつかった。

「…え」
「何固まってんだよ、オイ。冗談だろ」

続けた言葉に及川が呟く。

「……俺、岩ちゃんのこと好き…なの…?」

みるみる顔を赤くする及川に、何故か岩泉の鼓動も早くなった。

「――っ、このバカ川。
なに本気にしてんだよ」

そう冗談交じりに言って、書き上げたばかりの日誌で及川の頭を叩く。

「ほら、日誌書き終わったからさっさ行くぞ」

立ち上がった岩泉に、まだ頬を赤くした及川が潤んだ瞳で見上げた。

「……なんだ、その、極楽のホットケーキだか食いたいって言ってただろ。
暇だから付き合ってやるよ」

バッグを力強く肩に掛けた幼馴染に「う、うん!」及川も立ち上がる。

「おら、行くぞ」

ずんずん歩く岩泉の背中を「待ってよ~」赤くなった顔を擦って及川は追いかけた。

「あ、岩ちゃん。
 今はね、ホットケーキじゃなくてパンケーキって言うんだよ」
「んなモン胃の中に入ったら変わらんだろ」
「も~雑なんだからぁ」

そう言って、自分よりちょっとだけ背の小さい幼馴染の制服の袖を掴む。

――そっかぁ、俺、岩ちゃんのこと…?

職員室で担任に日誌を渡すツンツン頭の後ろ姿に、新しい感情を初めて覚える及川なのだった。

*おしまい*

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