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Serena*Mのあたまのなかみ。
ハイキュー/岩及

付き合ってない岩及ちゃんと蚊の話。
距離感の可笑しい2人を温かく見守るまっつんとマッキーは大人だと思う()


部活動を終え、大半の部員が体育館を後にする中、まだ真新しい体操着を着た及川が自主練に励む。てっきり帰ったと思っていた幼馴染がネットの向こうに現れたから、及川はサーブを打つ手を止めた。

「忘れ物?」

大袈裟に首を傾げた及川に、岩泉がポケットから携帯電話を取り出す。
何だろう?及川はボールを抱えたまま岩泉に駆け寄った。

「岩ちゃん、どうしたの?」
「母ちゃんからお前ん家で飯食って帰れって」

小学校からの親友である2人は、勿論母親同士も仲が良くて、急ぎの用事がある時は助け合うように互いの家に子供を預ける事が多々あった。流石に高校生に上がった今、家に1人置いておくのに問題は無かったが食事の面では不安があったのだろう、及川の母に助けを求めたのだった。

「なんか町内会の集まりで遅くなりそうなんだと」
「本当~? 岩ちゃんとご飯なんて超久々じゃん!
 帰ろ、帰ろ~。えっ、ついでに泊まって行きなよ」
「……おばさんの了承も貰わないとダメだろ」
「大丈夫大丈夫~ほらほら、早く岩ちゃんもおばさんにメールしてっ」

なんて及川は笑顔を作り、まだ自主練を続ける先輩方に頭を下げて体育館を後にする。

「早く着替えろよ」

そう岩泉に急かされて、いつもは部活帰りでもきっちり直すヘアスタイルもそこそこに、家路を急いだのだった。



「たっだいま~」
「お邪魔しまーっス」
「おかえりなさい、徹、一ちゃん。今日は早かったのね」

台所に立つ及川の母に2人は帰宅の挨拶をする。

「お母ちゃん、今日、岩ちゃん泊ってもいい?」
「ウチは平気だけど… 岩泉さんの方はなんて?」

優し気な目元をした及川の母に振り向かれて、岩泉は携帯電話を開く。

「さっき連絡したら『及川さんが良ければいい』って」
「あら、そうなの。なら大丈夫ね。
 じゃぁ一ちゃんもお弁当箱出しといてね。
 先にお風呂入ってらっしゃい」
「あざッス」
「あっそれから洗濯物も入れといてね。夜に徹のと一緒に洗っちゃうから」

自然と及川家の子供として扱われる岩泉に、それだけ自分の母も彼の成長を見守ってきたのだと及川は1人頷く。

「なによ徹、ニヤニヤして。久しぶりに一ちゃんと一緒で嬉しいの?」

母に鋭く気付かれて、及川は首を振った。

「ち、違うし!」

顔を赤くした及川に「腹減ったから早く風呂入んべ」岩泉に引っ張られて、2人は2階への階段を昇って行く。

「高校生になっても一緒に入るって仲良しねぇ。
 あっ徹!一ちゃんに新しいパンツだしてあげなさいね!」

なんて大きな2人の息子を見送りながら、及川の母は腕まくりしたのだった。



ふかふかとした来客用の布団を拡げて、岩泉は寝支度を始める。
及川の爽やかな見た目に反して彼の部屋は和室で、畳の上に万年床の布団を敷いたスタイルだった。

「ベッドにしねーの」

もう何度も尋ねたことだけど、答えを知りながらも岩泉は呟く。

――中学に上がって少し経った頃。
及川の部屋にもベッドが設えられた。黒い鉄のフレームのベッドで、自分の木製のベッドより格好良いと岩泉が羨んだものだ。
もうその頃は及川も岩泉も立派なバレー馬鹿で、部活もバレー部に入部していた。
練習試合の前の日だっただろうか。今までベッドから落ちたことの無い及川が派手に落っこちたらしい。
ただ派手に落ちただけなら「バッカで~い」なんて笑い話に出来たのだが、暗闇の中で咄嗟に手を出して変に突いてしまったらしい。酷くはなかったものの、軽い捻挫をしてしまったのだ。まだ中学1年生でレギュラーメンバーではないのが幸いしたが、セッターを志す及川には自分の非とは言えショックだったようだ。
それから1週間もしないうちにベッドはリサイクルショップに引き取られ、また布団の生活に戻ったのだった。

「べっつに~お布団は日本の心だし」

及川は歯ブラシを揺らすと岩泉の布団を引っ張って自分の布団に密着させる。

「くっつける必要はねーだろ。小学生じゃあるまいし」

『及川』と名前の書かれた中学校のハーフパンツの岩泉が抗議する。
幼馴染の家は第2の自宅とでも言うのか、及川の家に岩泉の私物は多く、今着ているTシャツも彼自身のものだった(つい先月くらいに泊まったときのものだ。因みに下着もその時に置いて行ったものがあったので、及川センスの下着を履かずに済んだ。同じように岩泉の家には及川の愛用する整髪料が置いてあったりする)。

「え~いいじゃん!修学旅行みたいだし」

口の周りを泡だらけにした及川が抗議する。

「お前寝相悪いんだよ」
「岩ちゃんだって悪いじゃん」
「だーかーらー。離そうっつってるべ」
「お互い悪いんだからプラスマイナス0だよ。ね?」

にんまりと口角を上げた及川に「クソ川」岩泉は吐き捨てて枕をタオルで包む。どうやら家主に抵抗するのを諦めたようだった。

「早く寝るぞ。さっさと濯いでこい」

母親のように指図した岩泉に「はぁ~い」素直に及川も部屋を出て行ったのだった。



――携帯電話に表示された時間は夜中の1時過ぎ。
ほんの1時間くらい前に床に着いて、お喋りな幼馴染が静かになって岩泉も「やっと寝れる」安堵したのも束の間。彼の耳に夏の風物詩な害虫の羽音が聞こえた。
これが自宅だったら「うるせぇ!」言って睡魔を貪ったところだろう。
けれど今日は及川の家なのだ。枕が変わると眠れない、なんて繊細なことは言わないが久しぶりの幼馴染の家で妙に神経が昂っていた。

『ぷぅ~~~~…ン』

もう何度目かになる耳障りな羽音に

「あ゙―――――――――――――っ!ゔっせぇ゙!!!!!!!」

タオルケットを蹴り上げて岩泉が跳ね起きる。

「!?!?!?
 ん!? へ????」

彼の奇声に驚いたのは眠りこけていた及川で、ぱっちりと目を開ける。

「…い、岩ちゃん…どったの…」

驚きに身体を縮こませた彼に岩泉は吐き捨てる。

「蚊だよ、蚊!
 1匹いやがる」

彼の言葉に「蚊ぁ~…?」及川は目を擦る。

「…ベーブまだ出してないなぁ…
 仕留められそう…?」

枕元に置いた電灯のリモコンを灯して及川も起き上がる。

「……それが…さっきから聞こえねぇんだ…
 ぜってぇこの辺飛んでる筈なのに…」

綺麗に整頓された本棚を睨みながら岩泉は呟く。

「…空耳、とか」

欠伸を噛み殺した及川に岩泉は腑に落ちない顔だ。

「…寝よ、明日も朝練あるし」

また部屋を暗くした及川が岩泉の肩を抱えて寝かしつける。

「~~~!」

まだ岩泉は何か言いたそうだったが、「いーわちゃん」優しく幼馴染に胸を叩かれ気持ちを落ち着けるように息を吐く。

「…ちゃんと出しておけよ、ベーブ」
「うん、明日出しておく」

それから、及川は何かを思いついたかのようにゆっくりと岩泉にすり寄った。

「…蚊、此処に居たのかも」

そう言って岩泉の首元に吸い付く。

「!?!?!?
 徹、おま――」

咄嗟の時に名前を呼ぶのは、長年の癖か。

彼の首元に小さな赤い痕を付けると、及川は満足したようだった。

「ほら、蚊♡」

闇に慣れた瞳に、ほんのりと微笑う及川の顔が映る。

「クズ川、このアホ、いっぺん死ね」

岩泉は思いきり幼馴染をどつくと、彼も素直に背中を向けて笑うのだった。

「おやすみ、岩ちゃん」
「さっさと寝ろ、クズ川」

首筋のちりりと痛むキスマークを擦る岩泉に、もうあの不快な羽音は聞こえなかった。



朝練前、更衣室で着替えていた松川が隣で着替える岩泉から見慣れない甘い香りが漂うのに気づく。
彼女か?一瞬考えたが、この香りなら嗅いだことがあった。

「ね~聞いてよマッキー!
 昨日さぁ、蚊に3ヶ所も喰われてんの!ちょーーー痒い!!!」
「あっは、及川刺され過ぎじゃねぇ? 血うま男かよ」

後ろのベンチで及川と花巻がゲラゲラと笑っている。

「…松川?」

動きを止めた松川に岩泉が見上げる。
羽織ったジャージの隙間に、赤い痕が見えて松川は思わず目を逸らしてしまった。

「……それ」

赤くぷっくりと貼れた、小さな赤み。それは――

「蚊に喰われたんだよ」

岩泉はぶっきらぼうに言うと「オラクソ川! お前鍵当番だろ! さっさと体育館開けろ」そう、及川の背中を蹴る。

「えぇ~何!? 何なのこの突然の暴力!」

大きな瞳を潤ませて及川が大袈裟に怯えると

「先行ってる」

岩泉が彼を引っ張って部室を後にした。

「怖いんですけど~! 暴力反対ぃ~」

長い手足をじたばたさせる及川に、松川はあの香りが及川の整髪剤と一緒だったのに気が付く。

「いや~幼馴染の距離感ってバグってるね」

ロッカーの扉を閉めながらくすくすと笑う花巻に「だな」松川も頷くのだった。

*おしまい*

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