朝陽の中で微笑んで

NARUTO/カカイル（六校）

カカシさんがゴムを買うだけの話。
コンビニ店員（モブ）になりたい。

「…くぁ……」

丸い月が浮かぶ夜半、固まった片腕を恋人の頭の下から抜き取ってカカシは肩を回す。

――昔は一晩中抱きかかえてても平気だったのになぁ。

傍らで寝息をたてるイルカの頬に触れ、皺が増えたなと1人笑う。
もう一度恋人を抱きしめて眠ろうかとも思ったが、薄く開けた窓からの風は冷たく、妙に頭が冴えてしまった。
音を立てないように慎重に窓を閉めると、カカシはほっと一息つく。
ぱさりと落ちた前髪の恋人に「可愛いなぁ」目尻を下げると、サイドテーブルに置いたコンドームの空き箱を確認した。

明日は休みだから、と久し振りに2人で飲みに出掛けて。
銘酒飲み比べ、なんて珍しくはしゃいで盛り上がって。
「昔もこうして飲みましたよね」なんて酒が入って上機嫌のイルカに寄り掛かられて、カカシの“スイッチ”が入ったのは言うまでもない。

もう若くないから、なんて自覚してはいたものの、こんな破廉恥な校長に欲情しないとかありえなくない！？

なんて言い訳をしつつ思いきり抱き潰した今宵。
アカデミーの教師だった恋人は「明日は体術の授業があるんで！」そうキスマークをつけるのを極度に嫌がったが（それでも目立たない場所にはつけてやった）校長になった現在はそんな理由でカカシからの接吻を嫌がるわけでもなく。
相変わらず派手に引っ掻かれた背中の傷に、もう暗部時代の薬なんて無いんだよな～…なんて苦笑する。

箱の中身は既に空。

若くない、なんて誰が言ったんだか。
明日も休みだ、朝から思いきりいちゃいちゃしてやろう。

カカシは考えると、昔の支給服の模様が印刷されたパーカーを被って（なんでこんなヘンテコなデザインをあの人は買うんだろう。一楽のTシャツとか）、そっと部屋を後にするのだった。

＊

「らっしゃせ～」

のんびりと品出しをする店員の声に「あーこんばんはー」心の中、カカシは返事する。
店を入って直ぐの衛生用品の棚に並んだコンドームを1つ手に取ると、彼はそのままレジカウンターに進んだ。

「このままでい～ヨ」

カカシは言って、カウンターの什器で蒸された肉まんにも心惹かれる。

「あ、あと肉まん1つちょーだい」

シワシワになったお札を出して、お釣りの小銭を受け取るとほかほかの肉まんを片手にまた、恋人の家へと月明かりの道を急ぐ。

買ったばかりのコンドームをサイドテーブルに置き、ばさりとパーカーを床に落としたところで「カカシ…さん…？」幼子のように目を擦ったイルカが上体を起こした。

「あれ、起こしちゃったぁ？」

無防備な額にカカシが短くキスをすると、どんなに遠くからでも一楽の匂いを嗅ぎ取る優秀な鼻を持ったイルカが鼻をひくつかせる。

「…にくまん」
「ははっ、オレよりもそっちなーの？」

カカシは苦笑して「まだ熱いよ」買ったばかりの肉まんを恋人に差し出した。

「いっぱいシちゃったからね、センセもお腹空いてるかな～って思って」
「……ほんと、年を考えて下さい。年を」

起き抜けにも関わらず、こうして普段通りの返答が出来るイルカは凄いとカカシはいつも感心する。

「…ったく」

文句を言いながらも湯気の立つ肉まんを頬張る恋人にカカシは目を細めると、隣に座って彼の髪を梳いた。

「ね、ソレ食べたらもっかいシよ」

顔の良さを見せつけるように口布を下げたカカシに、イルカは難しい顔を作る。

「え、嫌ですよ。さっきゴムも使い切ったでしょう」
「ん！　買ってきました」

笑顔を向けた恋人にはぁぁ、これ見よがしにイルカは肩を落とす。

「明日も休みなんだし、いーじゃない」

小さく残った最後の一口をイルカの手から奪うと、カカシはそのまま恋人を組み敷く。

「…もう」

里の誉れ、今や木ノ葉を導く火影となった存在の彼をこうも邪険に扱えるのはうみのイルカ、唯一人。

「今日だけ、特別ですからね」

ちょっと可愛い表情を浮かべて腕を伸ばした恋人に、

――どうか、その特別がこれから毎日続きますように。

カカシは、買ったばかりのコンドームの箱を引き寄せるとそっとイルカに口付けたのだった。

＊おしまい＊