Serena*Mのあたまのなかみ。
邪視(邪眼)を持つディックの話。
※俺アースの展開でオリジナル色強めなのでご注意ください
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タイトルは同人タイトルスロット【https://slot-maker.com/slot/5483/】より
Ⅱ. Encounter
――それから僕は少しずつ人を“見る”練習をした。
見る人間はブルースの方で用意するから、その人のバックグラウンドを僕は知らない。
3秒で人は苦悩の顔を作り、5秒で「死にたい」と絶望する。
そのまま見つめ続けると10秒で顔を逸らす。
――それは、何もしなかった場合。
僕がぼやっと見つめるだけで、人は部屋を出ると車道に飛び出していくのだと言う(アルフレッドの話だから詳しい事は知らないし、出来れば知りたくない)。
じゃぁ、念を持って見つめたら?
強く念じればほんの2秒で人の顔は真っ青になる。
彼らがどんな『絶望』を体感するのかは僕には分からない。けれど“死ね”そう念じて睨むと、下手すればその場で拳銃の撃鉄を上げ、壁に頭を打ち付けるのだ。
目の前で人の命が失われるのはあまり良い気分はしない。
天井まで届く血飛沫、頭蓋骨の割れる嫌な音。
絶叫でもあれば気が紛れるものの、無言で死に至るからその音は鮮烈に僕の耳に残る。
あまり視力に頼って生きてこなかった僕は聴力が人より少しだけ良くて、それが逆に僕への枷となっていた。
『人は必ず死ぬ。
それは早いか遅いかの違いだ』
ブルースの言葉だけが心の拠り所で、差し出される人間は“悪”だからこうして呪を掛けるのだ、と納得させる。
ブルースはこの混沌の街の覇者だ。覇者である為には強くあらねばならない。不安要素はこうして排除しないといけないのだ。汚れ仕事の為に僕はこうして庇護されているのだ――
“その力をブルースの為に使う”
そう決めてから、半年が経った。
僕の生活も随分変わった。
ただ屋敷に幽閉され、本の海に溺れる時間は変わらなかったものの、
夕暮れ時に中庭で過ごす代わりに、真夜中、“誰か”を見つめていた。
アルフレッドが僕に耳打ちする。
「素早く」
僕は念を持って相手を見、数秒で自死に追いやる。
今度は
「ゆっくりと。真綿で包むように」
言われれば弱く呪で縛る。
――そうだな、今回は何にしよう。雨にしよう。
思いついた物質でその人を呪うと、不思議な事にソレが切っ掛けになるらしい。
“雨”なら雨の日に、“ロープ”ならロープを使って。
“車”と念じれば車の前に飛び出すし、“高層ビル”と念じればわざわざ高層ビルに忍び込んで飛び降りる。
“死”の理由さえ決定づけれるようになっていた。
理由はどうあれ、“見た”相手を死に陥れる僕はブルースの秘蔵っ子であり切り札であり、脅威でもあった筈だ。
……勉強、は好きだったからね。
この街の歴史も、ウェイン一家の成り立ちも。現在のファミリーの数、要職たちの食の好みから性事情まで。あらゆる事を頭に叩き込んだ。
*
17を迎える前、とうとうブルースは“正式”にファミリーの末席へ僕を加えた。
ファミリーに加える、と言ってもそれは秘密裏での話だ。僕はウェインファミリーの誰とも顔は会わさないし、会うつもりもない。それに契の乾杯の席なんかも無くって、ただブルースから
「これからは屋敷の外にも行けるぞ」
そう告げられただけだった。
――屋敷の外へ出る。
それは幽閉されていた僕にとって新たな世界となる。
ゴッサムの裏の街へ出ることを許されたのだ。
僕はその言葉に歓喜した。
人気のない路地裏だっていい。違法ポーカーを行う店だっていい。“外”の世界を自分で歩けるのだ。
砂糖の塊のような甘いケーキが並んでいるのを見たり、もしかしたらお祝いの花火も見られるかもしれない。
子供のころに触れただけの、懐かしい世界に僕の心は踊った。
初めて外出を許されたのは、ゴッサムで一番大きな病院だった。
「…健康診断?」
無邪気に尋ねた僕にアルフレッドは薄く笑う。
「病室に入る前に、少しだけ庭の散歩をしましょう。
リチャード様」
『これからは屋敷の外にも行けるぞ』
その言葉を信じた僕は、まだ若くて純情だった。
まだ“ファミリー”の本質を理解していなかったし、ブルースは僕にとって唯の育ての親でしかないのを思い知った。
初めは左。
それから、右。
――僕は足の腱を切られた。
病室で目覚めた時の絶望。
動かす意思はあるものの、僕の足の裏は頼りなく、体重を支えることが出来なくなっていた。
もう、自分でこの地を踏みしめて歩くことは出来ない。
病院の周りを散歩することも、中庭のブランコを漕いで、夕暮れの風を感じることも。
きっと、最後に散歩に誘ったのはアルフレッドなりの優しさだったのだろう。
もっとしっかりと最後の時間を楽しめば良かった。
突然の車椅子で介助の必要な生活に、僕はファミリーの首領としてのブルースの恐ろしさを知った。
僕は自分を籠の鳥だって笑っていたけれど、四肢が自由な鳥は籠の鳥なんかじゃなかった。こうして自由を奪われて、初めて籠の鳥になったのだ。
――それこそ、本当にブルースの秘密として。
良くも悪くも、僕には本当の両親から身体の能力の高さを受け継いでいたので、幸いにも車椅子での生活で特段困ったことにはならなかった。屋敷の中は比較的自由に(とは言っても自分の部屋だけだけど)過ごす事は出来たし、面倒になったのは高い本棚の本が取りづらくなった事くらい(アルフレッドにお願いすれば取って貰えるし)。
けれど、夜に連れ出される時になると、更に僕は両手の自由も奪われた。
視界は厚手の布で閉ざされ、唯一外界を知れるのは耳からの音だけ。僕を連れ出すのはアルフレッドの役目で、その目的地は何処なのか分からなかった。ただ聞こえる車のエンジン音と振動で、舗装された道なのか、荒れた道なのかが分かるくらいだった。
連れ出される先は大体は空気の汚い場所で、少しかび臭い地下にある部屋のようだった(どうして地下なのか分かるのかって? 僕を抱えて階段を下るんだ。流石に分かるだろ?)。
早い時は一晩、長ければ1週間近く。
僕はその部屋に隔離される。
世話をするのはアルフレッドではなく別の人間で、若い男の声だったり皺枯れた爺さんの声だったり、その時によって時々だった。
“声”と言ったのは僕が彼らの姿を見たことがないからだ。僕は屋敷から出されると常に目隠しをされて視界の自由も奪われる。子供の時に盲目のサーカス団員から教わった知識が驚くほど役に立ったし、そうして感覚を奪われると残りの器官は鋭敏になるらしい。今まで以上に僕は“音”に敏感になった。
*
ある時、僕より少し年上の、まだ若い青年が僕の世話係をしたことがある。
世話、と言っても届いた食事を並べたり(流石に食事の時は両手の拘束は解かれた。相変わらず視界の自由はなかったけど。まぁ、不慮の事故で世話係を見てしまっても困るのは僕だし相手も怖がるだろうから、それが1番安全なんだろう)、トイレに連れて行って貰ったり、それに僕の仕事――相手と向かい合った僕の目隠しを外すのと、“仕事内容”の耳打ち――、そんな手伝いだった。
仕事以外は何もすることのない狭い部屋だったから、日中の暇な時間、僕らはお互いの話をすることがあった。
僕が尋ねるのはいつも同じ。
「今日はどんな天気?」「どんな気温?」
対する彼の話はゴッサムの街や、ブルースの勢力についての話で、彼の語る話はいつかアルフレッドが言っていたような話で一度聞いたことがある内容だった。けれど、年の近そうな彼との交流が素直に僕は嬉しかったし、楽しかった。ブルースよりは高いけど、青年らしい若々しい声に好感が持てる。
彼との生活は3日くらいだったろうか。
『早く殺せ』と耳打ちされた時、僕は強い呪を相手に掛けた。
髪の毛が薄く、落ち窪んだ眼は薄い茶色で鼻だけが妙に大きい男。
彼は一体ブルースに…ウェインファミリーにとってどんな不利益を与えた男なのだろう。“早く殺せ”との指示はあまり多くなかったから、少し珍しかった。
目隠しを外されて、僕は彼を一睨みする。
「…ヒィ!」
男はカエルが潰されたような声を上げると、そのまま持った仕込み杖で喉を一突きした。
噴き上がる血飛沫、驚いた世話係の叫び声。
死んだ男の挙動より、目の前での自殺に彼が腰を抜かしたのが面白くて、僕は大笑いしてしまった。
「ねぇ、早く目隠しをしてよ。
間違えて君を見ちゃったら僕、この部屋から出られなくなっちゃう」
血だまりの中で痙攣する男を見ながら僕は告げる。
「…あ…ぁ…」
彼はまだ目の前の事態を脳で処理しきれていないようだった。
「ほらほら。
処理には兄さんたちが来てくれるんでしょう?
腰抜かしてたら笑われちゃうよ」
「ぬ、抜かしてねぇ! ちょっと驚いただけだ」
やっと威勢を張れた彼に僕はもう1度笑って、素直に瞼を閉じる。
瞼越しにも明るかった世界が暗闇になって、僕の世界はまた暗闇に閉ざされた。
体感にして10分くらいだろうか。
階段をドカドカと降りる音がして、横たわった死体の処理に人が来たようだった。
部屋の端で僕と世話係は邪魔にならないように見守っている。
きっとこの後彼は何処かの海に浮かぶか、山に埋められるか…それとも何処かに晒して新たな抗争の火種になるのだろう。
――彼がどんな人生だったのかは知らない。
けれど、どうか安らかに眠ってくれと僕は祈るしかなかった。
処理が終わったのだろう、ドアが閉まる前に舌打ちと聞きなれない声が耳に届いた。
「悪魔め……」
――悪魔、か。
人の心が無かったらきっと僕自身ももっと開放されるんだろうな。
慣れた言葉のつもりだったけれど、直接向けられた言葉に慣れはしなかった。
処理班は本当に死体を持って行くだけなので、部屋の清掃は世話係に任せられる。
「先に寝てろよ」
床のモップ掛けをする彼に言われたけれど、僕は車椅子を動かす気は無かった。
「…自分のしたことだ、ちゃんと最後まで見届けるよ」
彼が部屋の清掃を終えて、僕たちは隣の小部屋に移動する。
小部屋は木製のベッドが一つあるだけで、僕はベッドへ、彼は床に寝るのがお決まりだった。
車椅子をベッドに横づけして貰って、僕は手探りでベッドに横になる。
彼が毛布を何枚か掛けてくれて、「寒くないか」気遣ってくれた。
「…大丈夫」
僕は毛布を引っ張り上げる。
ごそごそと彼も床についたらしく、暫くの沈黙の後、口を開いた。
「…お前の力、ホントすげぇのな」
「……初めて?」
「びっくりした」
「でも、君もマフィアの一人なんでしょう。
こんな死体くらいで騒いでたら、一人前になんてなれないよ」
「だ、だよな…」
少し気まずそうに続けた彼に、僕は安堵する。
――そう、死体を見て驚くのは普通の反応なんだ。
ブルースやアルフレッドみたいに、微動だにしない人間の方が珍しい……
「ふふっ。
…ごめんね。今日はちょっと疲れちゃったみたい。先に寝るね」
僕は素直に彼に告げる。
笑ったのに彼は機嫌を悪くしたようだった。
「…」
「おやすみ」
――友達、とは言えないけれど雑談できる関係の彼に僕は少しだけ心を開いていた。
とは言っても、重要な話はお互い何も話さないけど。
けれど、幼馴染とか居たらこんな風に取り留めもない話をするのかなぁ、なんて。
酷いけれど、楽しい時間だった。
*
それから、そんなに日は経ってないと思う。
やっぱり運ばれた小さな部屋で僕はその“声”と再会した(前にも言ったけど、屋敷から出る時は僕は目隠しされたままだから世話人の背格好や見た目は分からないんだ)。
「彼は組織を裏切りました。
早急に処理をお願いします」
耳打ちされた世話係の言葉に頷くと、世話係はゆっくりと僕の目隠しを外す。
目の前に現れたのは黒髪の青年で、僕の姿を見ると
「ひェ…!」
声を上げた。
――その声に聞き覚えがある。
いつかの夜を過ごした、年の近い、若いあの世話係だ。
あぁ、彼はこんな容姿だったんだ。
くすんだ灰色の瞳に金の短い髪がよく似合う、健康そうな青年。どうしてこんな裏の世界に足を踏み入れてしまったのか。
見返す恐怖に歪んだ顔に、僕は悲しさを覚える。
『彼は組織を裏切りました』
――彼は、ブルースを、ファミリーを裏切ったんだ。
僕は自分の心に蓋をして彼をじっと見つめる。
左の頬に酷い痣があって、顔が腫れ上がっていたから、此処に来る前にも充分制裁は受けたのだろう。だったら僕は安らかに君が命を絶てるように準備するだけだ。
そうだな、あの思い出のナイフにしようか。
僕は泣きだしそうな彼の顔をじっと見つめる。
彼の瞳に、僕はどんな風に映っているのだろう。
自分を死へ追いやる、死神かな。
――…
血飛沫の飛び散った惨劇の部屋は僕には分からない。
僕に広がるのは深い闇の世界だから。
頬に付いた返り血を拭かれながら、僕は世話係に尋ねる。
「ねぇ、彼の裏切りって?
答えられないなら、別に良いんだけど…」
僕の言葉に、世話係は少し間を置いて、声のトーンを落とす。
「……詳しい事は分かりませんが組織の秘密を洩らしたそうです」
――組織の秘密。
其れが麻薬のルートだったり、裏での取引だったら良いのだけど。
僕の事を漏らしたのだったら、“交流”をした僕にも責任はある。
それからだ。
僕の“世話”は決まった人間が行うようになり、そして僕もそんな世話係と交流もしなくなったのは――
*
もうすっかり自分の稼業が板についた19の夜。
珍しく屋敷で長い間生活をしていた僕に、当主のブルースから夕食に誘われた。
アルフレッドに聞くと、予定していた組織の会合が最近頻発する不審死事件の影響で延期になったらしい。ここ3ヵ月くらい、長期に屋敷を空けることが多かった僕はその原因を察して溜め息を吐いた。
「…気分が優れない、とお断りしますか?」
アルフレッドは組織の人間なのに僕に優しい。
彼こそ僕の育ての親のような存在だった。
「ううん、大丈夫。
折角父さんに会えるのなら、少しおめかししようかな。
この前仕立てて貰ったジャケットはある? それに、クリスマスに貰った毛織物のひざ掛けを合わせようっと」
僕の言葉にアルフレッドは頷き、
「お手伝いします」
そう申し出てくれた。
今日の夕食は前のような大広間ではなく、屋敷のダイニングでだった。
大広間であれば彼はウェインファミリーの首領・ブルース。
ダイニングならウェイン家の当主の養父だ。
小ぢんまりとしたテーブルに向かい合わせで座ると、
「久しぶりだな」
ブルースはそう話しかける。
並べられた料理の良い匂いを僕はいっぱいに吸い込んだ。
今の僕は屋敷内ではあるけれど、目隠しをしてこうして席へ着いている。ベルベットの目隠しは肌触りも良くてお気に入りだった。
「そうだね。
義父さんも毎日忙しそうだし」
――此処で会う時は僕は引き取られた彼の息子になる。だから“とうさん”と呼ぶのを許されていた。
ブルース様、と敬う時より多少は会話も砕けたものになる。
最近読んだ本、庭に咲く花の話……
当たり障りのない話題を選んで、“息子”らしく僕は振る舞う。
自分の腱を切った相手に何を言ってるんだろう。
スープを飲みながら不意に悲しさが訪れる。
ウェインファミリーの首領であって、恐ろしく頭の良いブルースだったけれど、彼の気分を悪くすれば何らかの仕置きがあることを僕は理解していたから、精一杯今の時間を楽しんで貰おうと心を尽くした。
「どうだ、生活の方は」
――ブルースは僕の行為を“仕事”とは言わない。
食う寝る遊ぶと同じく、日々の生活の一部として“死”を日常化させていた。
「…変わらないよ。
ただ人を見つめるだけ。
僕はちょっとだけ人の死を早められるだけだから」
僕は素直に返す。
それは真実だったし、与えられた言葉は僕の心の支えだったから。
「そうか」
ブルースは言って、アルフレッドを呼ぶ。
どうやら、親子の会食は終わったようだ。
「義父さん、今夜も出掛けるの?」
子供の声を作った僕に
「いや、今日はこのまま部屋で休むよ。
心優しい息子がいるから安心して眠れる」
頭を撫でてブルースは席を立つ。
爽やかなシトラスの香水に甘いムスクが混じって、嗅いだだけで溜め息が出るような良い男の匂いだった。
「義父さん!」
僕は匂いを辿って振り向く。
「…どうした、リチャード」
「……おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ。
お前も早く休みなさい」
――きっとまた僕の仕事は忙しくなるのだろう。
さっき部屋で聞いていたラジオで、ゴッサム湾に新しい接岸港を作る計画が立ち上がっていると伝えていた。
メトロポリスの企業、レックス産業(レックス・ファミリーのフロント企業だ)が融資し、地元の反対運動も虚しく着工が決まった場所だ。
名前こそゴッサムの湾だけど、メトロポリスに近い場所だし、あの辺はウェインファミリーよりもジョーカー一家の方が強い地域だ。またきっと、ひと悶着ある。
暫く屋敷に帰れない日々が続くだろう。
溜め息を吐いた僕をどんな表情でアルフレッドが見ていたのか、暗闇の中の僕には知り得ない事だった。
*
それから1週間もしないうちに、僕はブルースにまた呼ばれる。
今度はダイニングルームじゃない、大広間だ。しかも、時刻はきっかり昼の12時。
それは組織のトップとして、僕を呼び出したのが分かる。
アルフレッドに連れられて向かった大広間の先客は、どうやらブルースだけではないようだった。
「リチャード、新しい世話係を紹介しよう」
定位置についた僕にブルースは言う。
――新しい世話係?
今まで、そんな風に僕に紹介したことなんて無かったのに。
前まで僕を世話してくれた人は別の仕事を与えられたのだろうか。
それとも――
「リチャード、彼はトッドだ」
ブルースは続けて新しい世話係、トッドに指示する。
「トッド、見ての通り彼は目が見えない。
良ければ近付いて挨拶して欲しい」
人の動く気配がして、“彼”が僕の手を握る。
「よろしく、リチャード。
俺はトッド。ジェイソン・トッドだ」
少し緊張しているのか、声が上擦っていたけど。
あの“彼”にも似た心地の良い青年の声だった。
「こちらこそよろしく」
僕は握られた手を握り返す。
本を捲る事しか知らない僕の手に、彼のごわついた手は大きくて厚く感じた。
それが、僕とジェイソンの出会いだった。
*つづく*
――それから僕は少しずつ人を“見る”練習をした。
見る人間はブルースの方で用意するから、その人のバックグラウンドを僕は知らない。
3秒で人は苦悩の顔を作り、5秒で「死にたい」と絶望する。
そのまま見つめ続けると10秒で顔を逸らす。
――それは、何もしなかった場合。
僕がぼやっと見つめるだけで、人は部屋を出ると車道に飛び出していくのだと言う(アルフレッドの話だから詳しい事は知らないし、出来れば知りたくない)。
じゃぁ、念を持って見つめたら?
強く念じればほんの2秒で人の顔は真っ青になる。
彼らがどんな『絶望』を体感するのかは僕には分からない。けれど“死ね”そう念じて睨むと、下手すればその場で拳銃の撃鉄を上げ、壁に頭を打ち付けるのだ。
目の前で人の命が失われるのはあまり良い気分はしない。
天井まで届く血飛沫、頭蓋骨の割れる嫌な音。
絶叫でもあれば気が紛れるものの、無言で死に至るからその音は鮮烈に僕の耳に残る。
あまり視力に頼って生きてこなかった僕は聴力が人より少しだけ良くて、それが逆に僕への枷となっていた。
『人は必ず死ぬ。
それは早いか遅いかの違いだ』
ブルースの言葉だけが心の拠り所で、差し出される人間は“悪”だからこうして呪を掛けるのだ、と納得させる。
ブルースはこの混沌の街の覇者だ。覇者である為には強くあらねばならない。不安要素はこうして排除しないといけないのだ。汚れ仕事の為に僕はこうして庇護されているのだ――
“その力をブルースの為に使う”
そう決めてから、半年が経った。
僕の生活も随分変わった。
ただ屋敷に幽閉され、本の海に溺れる時間は変わらなかったものの、
夕暮れ時に中庭で過ごす代わりに、真夜中、“誰か”を見つめていた。
アルフレッドが僕に耳打ちする。
「素早く」
僕は念を持って相手を見、数秒で自死に追いやる。
今度は
「ゆっくりと。真綿で包むように」
言われれば弱く呪で縛る。
――そうだな、今回は何にしよう。雨にしよう。
思いついた物質でその人を呪うと、不思議な事にソレが切っ掛けになるらしい。
“雨”なら雨の日に、“ロープ”ならロープを使って。
“車”と念じれば車の前に飛び出すし、“高層ビル”と念じればわざわざ高層ビルに忍び込んで飛び降りる。
“死”の理由さえ決定づけれるようになっていた。
理由はどうあれ、“見た”相手を死に陥れる僕はブルースの秘蔵っ子であり切り札であり、脅威でもあった筈だ。
……勉強、は好きだったからね。
この街の歴史も、ウェイン一家の成り立ちも。現在のファミリーの数、要職たちの食の好みから性事情まで。あらゆる事を頭に叩き込んだ。
*
17を迎える前、とうとうブルースは“正式”にファミリーの末席へ僕を加えた。
ファミリーに加える、と言ってもそれは秘密裏での話だ。僕はウェインファミリーの誰とも顔は会わさないし、会うつもりもない。それに契の乾杯の席なんかも無くって、ただブルースから
「これからは屋敷の外にも行けるぞ」
そう告げられただけだった。
――屋敷の外へ出る。
それは幽閉されていた僕にとって新たな世界となる。
ゴッサムの裏の街へ出ることを許されたのだ。
僕はその言葉に歓喜した。
人気のない路地裏だっていい。違法ポーカーを行う店だっていい。“外”の世界を自分で歩けるのだ。
砂糖の塊のような甘いケーキが並んでいるのを見たり、もしかしたらお祝いの花火も見られるかもしれない。
子供のころに触れただけの、懐かしい世界に僕の心は踊った。
初めて外出を許されたのは、ゴッサムで一番大きな病院だった。
「…健康診断?」
無邪気に尋ねた僕にアルフレッドは薄く笑う。
「病室に入る前に、少しだけ庭の散歩をしましょう。
リチャード様」
『これからは屋敷の外にも行けるぞ』
その言葉を信じた僕は、まだ若くて純情だった。
まだ“ファミリー”の本質を理解していなかったし、ブルースは僕にとって唯の育ての親でしかないのを思い知った。
初めは左。
それから、右。
――僕は足の腱を切られた。
病室で目覚めた時の絶望。
動かす意思はあるものの、僕の足の裏は頼りなく、体重を支えることが出来なくなっていた。
もう、自分でこの地を踏みしめて歩くことは出来ない。
病院の周りを散歩することも、中庭のブランコを漕いで、夕暮れの風を感じることも。
きっと、最後に散歩に誘ったのはアルフレッドなりの優しさだったのだろう。
もっとしっかりと最後の時間を楽しめば良かった。
突然の車椅子で介助の必要な生活に、僕はファミリーの首領としてのブルースの恐ろしさを知った。
僕は自分を籠の鳥だって笑っていたけれど、四肢が自由な鳥は籠の鳥なんかじゃなかった。こうして自由を奪われて、初めて籠の鳥になったのだ。
――それこそ、本当にブルースの秘密として。
良くも悪くも、僕には本当の両親から身体の能力の高さを受け継いでいたので、幸いにも車椅子での生活で特段困ったことにはならなかった。屋敷の中は比較的自由に(とは言っても自分の部屋だけだけど)過ごす事は出来たし、面倒になったのは高い本棚の本が取りづらくなった事くらい(アルフレッドにお願いすれば取って貰えるし)。
けれど、夜に連れ出される時になると、更に僕は両手の自由も奪われた。
視界は厚手の布で閉ざされ、唯一外界を知れるのは耳からの音だけ。僕を連れ出すのはアルフレッドの役目で、その目的地は何処なのか分からなかった。ただ聞こえる車のエンジン音と振動で、舗装された道なのか、荒れた道なのかが分かるくらいだった。
連れ出される先は大体は空気の汚い場所で、少しかび臭い地下にある部屋のようだった(どうして地下なのか分かるのかって? 僕を抱えて階段を下るんだ。流石に分かるだろ?)。
早い時は一晩、長ければ1週間近く。
僕はその部屋に隔離される。
世話をするのはアルフレッドではなく別の人間で、若い男の声だったり皺枯れた爺さんの声だったり、その時によって時々だった。
“声”と言ったのは僕が彼らの姿を見たことがないからだ。僕は屋敷から出されると常に目隠しをされて視界の自由も奪われる。子供の時に盲目のサーカス団員から教わった知識が驚くほど役に立ったし、そうして感覚を奪われると残りの器官は鋭敏になるらしい。今まで以上に僕は“音”に敏感になった。
*
ある時、僕より少し年上の、まだ若い青年が僕の世話係をしたことがある。
世話、と言っても届いた食事を並べたり(流石に食事の時は両手の拘束は解かれた。相変わらず視界の自由はなかったけど。まぁ、不慮の事故で世話係を見てしまっても困るのは僕だし相手も怖がるだろうから、それが1番安全なんだろう)、トイレに連れて行って貰ったり、それに僕の仕事――相手と向かい合った僕の目隠しを外すのと、“仕事内容”の耳打ち――、そんな手伝いだった。
仕事以外は何もすることのない狭い部屋だったから、日中の暇な時間、僕らはお互いの話をすることがあった。
僕が尋ねるのはいつも同じ。
「今日はどんな天気?」「どんな気温?」
対する彼の話はゴッサムの街や、ブルースの勢力についての話で、彼の語る話はいつかアルフレッドが言っていたような話で一度聞いたことがある内容だった。けれど、年の近そうな彼との交流が素直に僕は嬉しかったし、楽しかった。ブルースよりは高いけど、青年らしい若々しい声に好感が持てる。
彼との生活は3日くらいだったろうか。
『早く殺せ』と耳打ちされた時、僕は強い呪を相手に掛けた。
髪の毛が薄く、落ち窪んだ眼は薄い茶色で鼻だけが妙に大きい男。
彼は一体ブルースに…ウェインファミリーにとってどんな不利益を与えた男なのだろう。“早く殺せ”との指示はあまり多くなかったから、少し珍しかった。
目隠しを外されて、僕は彼を一睨みする。
「…ヒィ!」
男はカエルが潰されたような声を上げると、そのまま持った仕込み杖で喉を一突きした。
噴き上がる血飛沫、驚いた世話係の叫び声。
死んだ男の挙動より、目の前での自殺に彼が腰を抜かしたのが面白くて、僕は大笑いしてしまった。
「ねぇ、早く目隠しをしてよ。
間違えて君を見ちゃったら僕、この部屋から出られなくなっちゃう」
血だまりの中で痙攣する男を見ながら僕は告げる。
「…あ…ぁ…」
彼はまだ目の前の事態を脳で処理しきれていないようだった。
「ほらほら。
処理には兄さんたちが来てくれるんでしょう?
腰抜かしてたら笑われちゃうよ」
「ぬ、抜かしてねぇ! ちょっと驚いただけだ」
やっと威勢を張れた彼に僕はもう1度笑って、素直に瞼を閉じる。
瞼越しにも明るかった世界が暗闇になって、僕の世界はまた暗闇に閉ざされた。
体感にして10分くらいだろうか。
階段をドカドカと降りる音がして、横たわった死体の処理に人が来たようだった。
部屋の端で僕と世話係は邪魔にならないように見守っている。
きっとこの後彼は何処かの海に浮かぶか、山に埋められるか…それとも何処かに晒して新たな抗争の火種になるのだろう。
――彼がどんな人生だったのかは知らない。
けれど、どうか安らかに眠ってくれと僕は祈るしかなかった。
処理が終わったのだろう、ドアが閉まる前に舌打ちと聞きなれない声が耳に届いた。
「悪魔め……」
――悪魔、か。
人の心が無かったらきっと僕自身ももっと開放されるんだろうな。
慣れた言葉のつもりだったけれど、直接向けられた言葉に慣れはしなかった。
処理班は本当に死体を持って行くだけなので、部屋の清掃は世話係に任せられる。
「先に寝てろよ」
床のモップ掛けをする彼に言われたけれど、僕は車椅子を動かす気は無かった。
「…自分のしたことだ、ちゃんと最後まで見届けるよ」
彼が部屋の清掃を終えて、僕たちは隣の小部屋に移動する。
小部屋は木製のベッドが一つあるだけで、僕はベッドへ、彼は床に寝るのがお決まりだった。
車椅子をベッドに横づけして貰って、僕は手探りでベッドに横になる。
彼が毛布を何枚か掛けてくれて、「寒くないか」気遣ってくれた。
「…大丈夫」
僕は毛布を引っ張り上げる。
ごそごそと彼も床についたらしく、暫くの沈黙の後、口を開いた。
「…お前の力、ホントすげぇのな」
「……初めて?」
「びっくりした」
「でも、君もマフィアの一人なんでしょう。
こんな死体くらいで騒いでたら、一人前になんてなれないよ」
「だ、だよな…」
少し気まずそうに続けた彼に、僕は安堵する。
――そう、死体を見て驚くのは普通の反応なんだ。
ブルースやアルフレッドみたいに、微動だにしない人間の方が珍しい……
「ふふっ。
…ごめんね。今日はちょっと疲れちゃったみたい。先に寝るね」
僕は素直に彼に告げる。
笑ったのに彼は機嫌を悪くしたようだった。
「…」
「おやすみ」
――友達、とは言えないけれど雑談できる関係の彼に僕は少しだけ心を開いていた。
とは言っても、重要な話はお互い何も話さないけど。
けれど、幼馴染とか居たらこんな風に取り留めもない話をするのかなぁ、なんて。
酷いけれど、楽しい時間だった。
*
それから、そんなに日は経ってないと思う。
やっぱり運ばれた小さな部屋で僕はその“声”と再会した(前にも言ったけど、屋敷から出る時は僕は目隠しされたままだから世話人の背格好や見た目は分からないんだ)。
「彼は組織を裏切りました。
早急に処理をお願いします」
耳打ちされた世話係の言葉に頷くと、世話係はゆっくりと僕の目隠しを外す。
目の前に現れたのは黒髪の青年で、僕の姿を見ると
「ひェ…!」
声を上げた。
――その声に聞き覚えがある。
いつかの夜を過ごした、年の近い、若いあの世話係だ。
あぁ、彼はこんな容姿だったんだ。
くすんだ灰色の瞳に金の短い髪がよく似合う、健康そうな青年。どうしてこんな裏の世界に足を踏み入れてしまったのか。
見返す恐怖に歪んだ顔に、僕は悲しさを覚える。
『彼は組織を裏切りました』
――彼は、ブルースを、ファミリーを裏切ったんだ。
僕は自分の心に蓋をして彼をじっと見つめる。
左の頬に酷い痣があって、顔が腫れ上がっていたから、此処に来る前にも充分制裁は受けたのだろう。だったら僕は安らかに君が命を絶てるように準備するだけだ。
そうだな、あの思い出のナイフにしようか。
僕は泣きだしそうな彼の顔をじっと見つめる。
彼の瞳に、僕はどんな風に映っているのだろう。
自分を死へ追いやる、死神かな。
――…
血飛沫の飛び散った惨劇の部屋は僕には分からない。
僕に広がるのは深い闇の世界だから。
頬に付いた返り血を拭かれながら、僕は世話係に尋ねる。
「ねぇ、彼の裏切りって?
答えられないなら、別に良いんだけど…」
僕の言葉に、世話係は少し間を置いて、声のトーンを落とす。
「……詳しい事は分かりませんが組織の秘密を洩らしたそうです」
――組織の秘密。
其れが麻薬のルートだったり、裏での取引だったら良いのだけど。
僕の事を漏らしたのだったら、“交流”をした僕にも責任はある。
それからだ。
僕の“世話”は決まった人間が行うようになり、そして僕もそんな世話係と交流もしなくなったのは――
*
もうすっかり自分の稼業が板についた19の夜。
珍しく屋敷で長い間生活をしていた僕に、当主のブルースから夕食に誘われた。
アルフレッドに聞くと、予定していた組織の会合が最近頻発する不審死事件の影響で延期になったらしい。ここ3ヵ月くらい、長期に屋敷を空けることが多かった僕はその原因を察して溜め息を吐いた。
「…気分が優れない、とお断りしますか?」
アルフレッドは組織の人間なのに僕に優しい。
彼こそ僕の育ての親のような存在だった。
「ううん、大丈夫。
折角父さんに会えるのなら、少しおめかししようかな。
この前仕立てて貰ったジャケットはある? それに、クリスマスに貰った毛織物のひざ掛けを合わせようっと」
僕の言葉にアルフレッドは頷き、
「お手伝いします」
そう申し出てくれた。
今日の夕食は前のような大広間ではなく、屋敷のダイニングでだった。
大広間であれば彼はウェインファミリーの首領・ブルース。
ダイニングならウェイン家の当主の養父だ。
小ぢんまりとしたテーブルに向かい合わせで座ると、
「久しぶりだな」
ブルースはそう話しかける。
並べられた料理の良い匂いを僕はいっぱいに吸い込んだ。
今の僕は屋敷内ではあるけれど、目隠しをしてこうして席へ着いている。ベルベットの目隠しは肌触りも良くてお気に入りだった。
「そうだね。
義父さんも毎日忙しそうだし」
――此処で会う時は僕は引き取られた彼の息子になる。だから“とうさん”と呼ぶのを許されていた。
ブルース様、と敬う時より多少は会話も砕けたものになる。
最近読んだ本、庭に咲く花の話……
当たり障りのない話題を選んで、“息子”らしく僕は振る舞う。
自分の腱を切った相手に何を言ってるんだろう。
スープを飲みながら不意に悲しさが訪れる。
ウェインファミリーの首領であって、恐ろしく頭の良いブルースだったけれど、彼の気分を悪くすれば何らかの仕置きがあることを僕は理解していたから、精一杯今の時間を楽しんで貰おうと心を尽くした。
「どうだ、生活の方は」
――ブルースは僕の行為を“仕事”とは言わない。
食う寝る遊ぶと同じく、日々の生活の一部として“死”を日常化させていた。
「…変わらないよ。
ただ人を見つめるだけ。
僕はちょっとだけ人の死を早められるだけだから」
僕は素直に返す。
それは真実だったし、与えられた言葉は僕の心の支えだったから。
「そうか」
ブルースは言って、アルフレッドを呼ぶ。
どうやら、親子の会食は終わったようだ。
「義父さん、今夜も出掛けるの?」
子供の声を作った僕に
「いや、今日はこのまま部屋で休むよ。
心優しい息子がいるから安心して眠れる」
頭を撫でてブルースは席を立つ。
爽やかなシトラスの香水に甘いムスクが混じって、嗅いだだけで溜め息が出るような良い男の匂いだった。
「義父さん!」
僕は匂いを辿って振り向く。
「…どうした、リチャード」
「……おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ。
お前も早く休みなさい」
――きっとまた僕の仕事は忙しくなるのだろう。
さっき部屋で聞いていたラジオで、ゴッサム湾に新しい接岸港を作る計画が立ち上がっていると伝えていた。
メトロポリスの企業、レックス産業(レックス・ファミリーのフロント企業だ)が融資し、地元の反対運動も虚しく着工が決まった場所だ。
名前こそゴッサムの湾だけど、メトロポリスに近い場所だし、あの辺はウェインファミリーよりもジョーカー一家の方が強い地域だ。またきっと、ひと悶着ある。
暫く屋敷に帰れない日々が続くだろう。
溜め息を吐いた僕をどんな表情でアルフレッドが見ていたのか、暗闇の中の僕には知り得ない事だった。
*
それから1週間もしないうちに、僕はブルースにまた呼ばれる。
今度はダイニングルームじゃない、大広間だ。しかも、時刻はきっかり昼の12時。
それは組織のトップとして、僕を呼び出したのが分かる。
アルフレッドに連れられて向かった大広間の先客は、どうやらブルースだけではないようだった。
「リチャード、新しい世話係を紹介しよう」
定位置についた僕にブルースは言う。
――新しい世話係?
今まで、そんな風に僕に紹介したことなんて無かったのに。
前まで僕を世話してくれた人は別の仕事を与えられたのだろうか。
それとも――
「リチャード、彼はトッドだ」
ブルースは続けて新しい世話係、トッドに指示する。
「トッド、見ての通り彼は目が見えない。
良ければ近付いて挨拶して欲しい」
人の動く気配がして、“彼”が僕の手を握る。
「よろしく、リチャード。
俺はトッド。ジェイソン・トッドだ」
少し緊張しているのか、声が上擦っていたけど。
あの“彼”にも似た心地の良い青年の声だった。
「こちらこそよろしく」
僕は握られた手を握り返す。
本を捲る事しか知らない僕の手に、彼のごわついた手は大きくて厚く感じた。
それが、僕とジェイソンの出会いだった。
*つづく*
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