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バットマン/ジェイディク

面倒な奴って思われてるかな、って悩むディックを「そんなことねーよ」って返すだけのジェイが書きたかっただけ！

TVのコマーシャルが面白そうだったから、とソファで寝そべってする事も無くポテトチップスを齧っていたディックとジェイソンが久しぶりに出かけたのは大通りから少し離れたところにある映画館で、すっかり寂れてしまっただろうなと予想していた其処は今やショッピングモールの一角となっており、随分と繁盛しているようだった。
映画のチケットなんて買うのも久しぶりで、自動券売機による購入方法にちょっとだけ面食らう。
勿論、最新のガジェットの操作はお手の物だったし、何より分かりやすく作られたものだったから操作に苦はなかったものの「随分と進歩したんだね」そい、2人は顔を見合わせた。
そんな近代化が進んだ映画館でも、今だ劇場内の飲食販売は人の手によるもので、日曜の午後という絶好の時間なのもあってフードショップには長い列が形成されていた。

「ま、映画まで余裕でしょ」

ウインクしたディックに、キャップを被ったジェイソンの頭が揺れる。
のんびりと人の列が動くのに合わせていると、前に並んだ男子グループの会話が耳に入った。

「ほんとさー女なんて面倒だよな」

「わかる～。
　出かけるぞ、って言ってから1時間は支度だろ？」

「この前のオンナなんて2時間は掛かったぞ。
　シャワー浴びるならさっさと浴びろっての…」

それから会話は昨日のコメディショーの話になり、その話題は直ぐに消えてしまったのが、それからディックの口数が妙に少ない。

いつもなら「帰りに何処かへ寄っていこうよ？」「ねぇ、ポップコーンは何味にする？」なんて矢継ぎ早に話題を運んでくる男だ。

大きなポップコーンとコーラのコップを受け取って、会場時間まで時間があったからロビーのソファに座ったディックに、やっとジェイソンは切り出した。

「……いつもの元気はどうした」

山盛りのポップコーンを鷲掴みにしてジェイソンは口に運ぶ。
久しぶりに食べる其れは、記憶してたポップコーンよりも随分と味がよく、美味しくなっていた。

「そう？」

コーラのストローを少しだけ噛んだディックが視線を合わせる。

――いつもはストローを噛まないのに、今に限ってこうして噛んでるなんて、やっぱり何か考え事をしている証拠だった。

「さっきの、気にしてるのか」

ロビーの喧騒に溶けるような低音で続けたジェイソンに、ディックが俯く。

今日だって。
『映画、観に行くか』ジェイソンに言われてからディックが支度を終えるまで1時間。
軽くシャワーを浴びて、服を着替えて身なりを整えて。
同じ行動をしたはずのジェイソンはその半分の時間も使わなかった。

「面倒だ、って思う？」

ポップコーンを摘んだディックから、コーラを受け取る。ごくごくと喉を上下させると、別に、そう告げてまたポップコーンを口に含んだ。

「俺はお前が身支度する時間が面倒だとは思わないし、こうしてきちんと時間に間に合わせて出かけられるんだから良いんじゃね、って思うけど」

それから、悪戯っ子のように耳元に顔を近づける。

「――まぁ、好きな奴じゃなかったら待たねーよ」

「！！！」

思わぬ恋人からの告白にディックがジェイソンに振り向く。

「ジェイ……」

言いかけた言葉は、開場のアナウンスにかき消された。

「ほら、行くぞ」

アナウンスは観ようとしていた映画だったから、ジェソンは腰を上げる。
目の前に伸びた長い脚に、つられてディックも立ち上がった。
差し出された左腕に、少しだけ口を尖らせてディックは腕を絡める。

「もう、さぁ……」

「惚れ直したろ？」

ティーンエイジャーのように歯を見せて笑った恋人に、素直にディックも頷くと笑顔を向けた。

「そうだね、僕の恋人はいつだって完璧」

そうして、2人は仲良く劇場入り口に足を運ぶ。

これから観るのはスプラッタのホラー映画。
古い作品にリメイクらしいけど、昔の映画の内容は知らない。
『怖い！』なんて言って抱き着いてみようかな。

ディックの笑顔の裏の感情に、まだジェイソンは気付いていないのだった。

＊FIN＊