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Serena*Mのあたまのなかみ。
バットマン/蝙蝠一家

クリスマスの優しいお話。
ついついジェイソンとディックを一緒に行動させてしまうのは癖なので仕方ないです(真顔)





やさしいクリスマスのお話。

寒い寒いと子供たちが震えていたある日、とうとうゴッサムの町に真っ白な雪が降りました。

「通りで寒いワケだよ」

真っ白な庭を見ながら口を尖らせたティムに、

「雪合戦できるか?!」

腕を回したのはダミアン、それを

「危ないから中に氷とか石を仕込んだらダメだよ」

穏やかに注意したのはディックでしたが、なんて物騒な雪合戦なのでしょう…と思ったのは心に仕舞っておきます。
ジェイソンはと云うと(砂糖だったら甘いのにな…)寝ぼけた頭でそんなことを考えておりました。

兄弟たちが窓に張り付いていた所に、暖かな目覚めの一杯を運んできたアルフレッドに気付いて兄弟は次々に挨拶をします。

「おはよう、アルフレッド!」

「…おはよう」

「アルフレッド、おはよう」

「おはよう、アルフレッド」

湯気の立つ紅茶を運びながら、執事はいつもの穏やかな笑顔を作ります。

「今日から大通りでクリスマスマーケットが始まるそうですよ」

今朝のニュースで流れていた話をすると、行きたい!ダミアンが跳びはねました。

「わざわざ寒い場所にィ~…?」

室内で難しい話を読んでいるのが好きなティムが顔を顰めます。

「あっ、みんなでプレゼント交換するのどうかな」

ディックが手を叩きました。

「なかなか家族で交換することって無いでしょう?」

ホリデーシーズン、慈善事業のひとつとして孤児院や子供たちの施設に出かけるウェイン一家でしたから、そうしたパーティに沢山の贈り物を持って出かけます。
けれど家族だけで贈り物の交換をすることはありませんでしたから、彼はそう提案したのでした。

「…勿論、アルフレッドも」

小さく付け加えたジェイソンに、ダミアンが「当たり前だ!」大きく頷きました。

「え~…それって僕も出かけなきゃならないって事じゃん…」

肩を落としたティムにディックが優しく背中を撫でました。

「もしかしたらジャンク品にレトロなバットマンのグッズが出てるかもしれないよ?」

「行く!!!!!」

頭の良い兄は気分屋の弟の扱いを心得ているようで、表情を一変させたティムに面倒そうにジェイソンが溜め息を吐き、

「おれ、父さんも誘ってくる!」

そう、ダミアンが駆け出したのでした。





公式な外出ではありませんでしたから、いつもの豪奢なシンボルマークの入った自動車ではなく、小さなクラシックカーにぎゅうぎゅうになって家族はクリスマスマーケットまで出かけてきました。
マーケットの会場である公園には大きな時計台があり、其れを囲むようにマーケットが続いています。

暖かなホットワインを出す店、自慢のシュトーレンを並べる店、可愛らしい小間物が並ぶ店…
公園の近くで下ろされたあと、ブルースと子供たちはのんびりと広場までの道を歩きます。
初日ならではの人の多さに少しだけうんざりしながらも、けれど人々の暖かい笑顔に皆がにっこりとするのでした。

「じゃぁ」

「1時間後に」

「この場所で」

車を回したアルフレッドには既に約束の場所は伝えてありましたから、ブルースと子供たちは其々に背中を向けます。

歩き出そうとしたダミアンの首根っこを掴んでブルースは引き止めました。

「……はぐれたら困る」

「迷子になんてならないよ!」

思わぬ子ども扱いにダミアンは怒鳴りましたが、優しく差し出された父の手を素直に握ったので兄たちはほっと胸を撫で下ろしたのでした。

「いいなぁ、父さんと買い物」

呟いたティムの言葉に、

「ん?じゃぁ僕と一緒に買い物する?」

するりとディックが腕を絡めます。

「!!!!」

覗き込まれた端正な兄の顔にティムは顔を赤らめて逸らしました。

「ま、迷子になる年じゃないし!大丈夫!!」

ディックの腕を振りほどくと、彼はマーケットの人混みにまぎれてしまいました。

「……つまーんないの」

ぷっと頬を膨らませると、その様子を見ていたジェイソンが溜め息を吐きました。

「――それなら」

「?」

ディックが首を傾げます。

「俺とデートでもするか?」

少し気まずそうに視線を外したジェイソンでしたが、左腕をくいっと差し出したのでディックは破顔してその誘いに乗りました。

「ジェイソン、大好き!!」





一足早くクリスマスマーケットで買い物を終えたティムは、マーケットから少し離れた裏通りのレトロアートショップへの道を急いでいました。

彼が選んだ家族へのクリスマスプレゼントは鮮やかなクリスマスカラーの靴下で、ふわふわの毛糸の手作りの一品でした。
マーケットの雑貨屋の一角に置かれた其れは店主の母が編んだもののようで「派手でダサいだろ?昔っから要らないって言ってるのにこの時期に編むんだ」そう豪快に笑う店主と母の良い関係が垣間見えたようで、面白そうだしクリスマスらしくて良いか、と購入したのでした。

裏路地の角を曲がって、

「おっと!」

ティムは歩みを止めます。

冷たい石畳の上、壁際にひっそりとその人は蹲っていました。

「…大丈夫?
 ドコか怪我はしてない??」

ゴッサムシティの顔、ウェイン家の息子として困った人は放っておけません。
年末が近いこの季節、仕事にあぶれた人たちがこうして路地で寝泊りするのも悪い意味でのクリスマスの名物となっていました。

「…………」

目深にフードを被った人の頭が揺れます。
アルコールの臭いはしませんでしたから、酔っ払いが寝ていたわけではないようでした。

「具合が悪い?
 もっと暖かい場所に移動しようか?」

ティムは膝を折ります。
狭い面積ではありましたが、刺さるような地面の冷たさに彼は驚き、そして座り込んでいるその人の体調を心配しました。
ボロボロのコートの先から冷たい足先が覗いていて、靴もないその姿にティムは思わず買ったばかりの派手な靴下を差し出します。

「風邪引いちゃうよ」

彼の言葉にフードから鋭い視線が投げられました。
夜のヴィランの狂った視線とも違う、氷のような冷たさです。

「……」

要らないとでも言うように突き返された靴下でしたが、ティムも諦めませんでした。

「金持ちの道楽だって笑っても構わない。
 ただ僕は目の前の人を放っておけないだけだ」

ティムは続けるとその人の足元に靴下を押し込みます。
氷点下のこの寒さを変えることは出来ませんが、裸足よりかはずっと温かく過ごせる筈です。

「…ダサい、って笑いたい?」

クリスマスカラーの派手な靴下にティムは苦笑します。

「雑貨屋のお母さんの手作りだからきっと凄くあったかいと思うよ」

「……」

その人の視線が少し綻んだようで、ティムも緊張が解れました。

「ハッピーホリデー。
 貴方にも穏やかなホリデーになりますように」

立ち上がろうとしたティムの、ウールのコートの裾をその人は掴みました。

「?」

振り向いた彼の耳に届いたのは、スペインの言葉でした。

「…僕の言葉(英語)、分かる?」

その人と同じ言葉でティムが答えると彼の頭が動きます。

「…聴くだけなら、少し」

そして、その人はコートのポケットから小さな木彫りの馬を取り出しました。

「これ」

言って、掌に収まる其れをティムの手に押し付けます。

「…貴方が作ったの?」

頷いたフードに、ティムは嬉しそうな笑顔を浮かべました。

「……貰ってばかりなのは、性に合わないから」

掌に押し付けられた小さな馬は立派な鬣と蔵を乗せた芸の細やかなものでした。
きっと落ちていた木の枝に細工したものなのでしょう。
簡単なものだけれど、丁寧な仕事の其れはティムにも分かるものでした。

「わぁ、ありがとう!
 プレゼント交換だね」

もう一度ティムが微笑むと、その人は居心地が悪いのか俯いたまま動かなくなってしまいました。
「さようなら」ティムは告げて時計を見ます。
針はもうすぐ長針が1周するところで、彼は慌てて路地を抜けたのでした。





ブルースとダミアンは仲の良い親子のようにクリスマスマーケットの雑踏を歩いていました。

気になるお店を覗いては良いプレゼントは無いかと見て回ります。
何件目かの雑貨の店でやっと気に入った商品を見つけると其々に購入したのでした。

お店の中では別々にプレゼントを選んでいましたから、お互いに何を贈り物を買ったのかは分かりません。

店を出て「少し温かいものでも飲んで休もうか」そうブルースが告げようとした時、繋いだ手を振りほどいてダミアンが走り出します。

「ダミアン!?」

マーケットの人ごみを縫って慌ててブルースが追いかけると、広場の休憩所の一角で泣いているらしい1人の少女にダミアンが寄り添っていました。

「……迷子らしい」

泣きじゃくる女の子の背中を撫でながらダミアンが言います。

「おかぁさん、お母さんが居ないの…!」

また泣き出した少女に、ブルースはハンカチを差し出しました。

「大丈夫だよ、お嬢さん。
 私たちが君のお母さんを探してあげるから、ね?」

ずっと泣いていたのでしょうか、寒風に晒されて冷たくなった小さな身体を温めるようにブルースは彼女の背中を撫でました。

「おかぁさん、おかぁさん……」

茶色の髪の毛をお下げにした少女は泣きじゃくります。
涙を拭う細い指が真っ赤で、随分と此処で母を捜していたようでした。

「ほら、そんな冷たい手をしてたらお母さんが驚いちまう」

ダミアンはそう言うと彼女の手を自分の両手で包み込みます。
そして、気付いたように鞄からラッピングされたばかりのクリスマスの包みを出すと躊躇せずに破りました。
中から出てきたのは空色のミトンで少女の手には大きすぎたようでしたがシンプルなデザインで違和感のないものでした。ダミアンはそれを少女の小さな手へと被せます。

「良いものを見繕ったな」

ブルースが小さく褒めると「だろう?」自慢げにダミアンが片眉を上げます。

「ほら、お母さんは見つかるかな?」

優しくブルースは声を掛けると少女を抱き上げて広場を見回しました。
鼻を啜りながら一緒に見回した少女でしたが、母の姿は見つけられなかったのでしょう。またしくしくとブルースの首にしがみ付いて涙を流しました。

「きっとお母さんも探しているよ」

少女の頭を撫でてブルースは頷きました。
と、そこへ眼鏡を掛けた男性が駆け込んできます。

「ジャネット!
 ジャネット此処に居たんだね…探したよ!」

“父”と云うにはまだ若い年齢の男性にブルースが訝しがりますが、ジャネットと呼ばれた少女は男性見て顔を背けました。

「あんた、お父さんじゃないよな…?」

ダミアンが男性を見上げます。
トレーニングを惜しまない自身の兄らよりも随分と線の細い男性は、ジャケットの似合う青年でした。

「あぁ、私はこの子の父ではありません。
 兄です」

真っ青な顔をして駆け込んできた兄と云う人は随分と妹を探していたのでしょう、小さな赤いコートを手に持って肩で息をしていました。

「ほら、ジャネット。お家へ帰ろう」

兄は抱かれた妹を覗き込みます。
けれど彼女は逆方向に顔を背けてしまいました。

「いや!
 お母さん、此処に居たら帰ってくるもん!だから此処にいるんだもん!!」

ジャネットは言います。

「ジャネット、お兄さんもお母さんを探してくれるから…な?」

ダミアンも宥めますが、「やだ!」ジャネットは一点張りでした。

「……何か、ご事情が…?」

控え目にブルースが尋ねると、青年は声を落として耳打ちしました。

「お恥ずかしい話なんですが…去年のこの時期に母を亡くしまして……
 けれど妹は母が旅に出ていて帰ってくるんだ、と言い張りまして。
 父も僕たちが幼い頃に亡くしてまして、なかなか妹には不自由ばかりさせていたかとは思うのですが――」

口を噤んだ青年に、ブルースは少女を抱え直すと、細い兄の肩をゆっくりと撫でました。

「大丈夫、君の頑張りは妹さんが一番良く知っているよ。
 ただきっと……今日はこうして母を捜したい日だったんだろう」

ブルースが少女を地面に下ろすと、言葉とは裏腹にジャネットは素直に兄と手を繋ぎ、大人しくコートに袖を通しました。

「お、そうだ。忘れるところだった」

ブルースは言って、プレゼントの包みを解きます。
そこには銀の刺繍の入った白いマフラーが入っていて、兄の首にぐるりと彼は巻きつけました。

「…これは…?」

突然のプレゼントに兄は眼を白黒させます。

「メリークリスマス、優しい兄妹に」

ブルースが微笑むと、機嫌が直ったのでしょう、ジャネットも空色のミトンを兄に見せました。

「これ、お兄ちゃんに貰ったの」

ダミアンを指差して彼女は言います。

「…そんな、初対面の僕たちに…!」

慌てて返そうとする兄をブルースは制止しました。

「あぁ、二つともこの先のマーケットで買ったものだから変な薬とかは入ってないよ。
 安心して使ってくれていい」

微笑んだ彼に、兄は何かを思い出し方のように鞄の中から小さな包みをダミアンに渡しました。

「妹とはぐれる前に買ったんです。
 今年のオーナメントに飾ろうと思って。
 良かったら貴方たちのお家のツリーにも飾ってください」

ダミアンが小さな包みを開けるとそこにはブリキのサンタとトナカイのオーナメントでした。
お世辞にも美しいとは言えませんでしたが、妙に味のあるデザインです。

「ありがとう、大切に飾らせてもらうよ」

ブルースの言葉と笑顔を向けたダミアンに、兄もやっと少しだけ安堵の笑みを浮かべると何度も頭を下げながら雑踏へと消えていきました。

「…な、父さんのさ」

「ん?」

「父さんの選んだマフラーも格好良かったと思う」

呟いたダミアンに「ありがとう」照れ笑いすると、ぐりぐりとブルースは息子の頭を撫でたのでした。





「ん~プレゼントってなかなか決まらないねぇ」

混雑するマーケットをもう何度往復した分からないディックとジェイソンが、焼き菓子のお店を見つけて立ち止まります。

「お菓子なら誰が貰っても嬉しいかなぁ?」

可愛らしくラッピングされたお菓子を見てから、ジェイソンに振り返ります。

「ジェイだったら嬉しい?」

「……それなりに?」

素直じゃない返しのジェイソンでしたが、そんな返答には慣れっこのディックでしたので目の前の店主に彼は注文しました。

「ふたつ、ください」

「俺のもかよ」

「えっ別のが良かった?」

「別にいいけど…」

そんな彼らのやり取りを聞いていた店主が口を挟みます。

「交換用かい?
 なら1つはクッキーじゃなくてシュトーレンにしようか」

気の良い店主は薄切りされたシュトーレンを指差します。

「わぁ、お願いしても良いんです?」

「あぁ、良いよ。
 今日からクリスマスマーケットだ、ウチの見せのシュトーレンが美味しいって沢山宣伝しておくれ」

茶目っ気たっぷりに笑った店主に

「商売上手だな」

ジェイソンが呟きました。

そうして可愛らしくラッピングされたお菓子を持ったディックとジェイソンの2人は、随分悩んでプレゼントを選んでいたので早めに待ち合わせの広場に向かいます。
広場の端にホットワインのお店を見つけたので暖を取ろうと1つを注文して分け合って飲んでいたところでディックは声を掛けられました。

「お兄さん、お兄さん」

男性のような、女性のような。
不思議な容貌をした人はディックの持つシュトーレンを指差します。

「それは何処のお店で買ったもの?」

「これ?
 これは向こうの通りの真ん中くらいにあるお菓子屋さんで買ったものだよ」

ディックの返答にジェソンも続けます。

「焼き菓子はそのまま売ってたが、シュトーレンは店主と話して作って貰った。
 だからアンタも俺たちに話を聞いたって買いに行けば売ってくれると思う」

「ありがとう、優しいお兄さんたち。行ってみるわね」

派手な毛皮のコートを翻して去ったその人の背中が雑踏に消えるのをぼんやりと見ていると、今度はジェイソンが話し掛けられました。

「よォ、兄ちゃん。
 可愛い袋だから彼女へのプレゼントかと思ったんだが何を買ったんだい?」

ジェイソンの身長の半分ほどしかないお爺さんでしたが、威勢のある声でした。

「残念だな、オヤジ。
 これは家族へのプレゼントだ。中身はクッキーの詰め合わせだよ」

ジェイソンが答えたところでディックも口を挟みます。

「あっちの通りのお店だよ。
 店主がとっても良い人でオマケも沢山くれからおすすめ!」

「そりゃどうも、行ってみるよ」

片手を上げた爺さんが颯爽と雑踏に消えると、見ていたホットワインの店の店員が声を掛けました。

「大人気だね」

彼女はホットワインの入ったピッチャーを掲げます。
もう一杯、ジェイソンはコインを渡すと温かなワインをまた注ぎいれて貰いました。

「きっとコイツが目立つんだろうよ」

ジェイソンは顎を遣ります。
すらりと等身の取れたモデル体形の端正な顔立ちの兄はどこでもこうして目立つ存在でした。

「そんな事ないよ、ジェイソンが格好良いからだよ」

ディックは訂正します。
自分よりも身長も高く、がっしりと男らしい体つきのジェイソンは遠目にも良い男だと目立ちます。

「ふふっ、仲良し」

意味深に店員はウィンクするとやっぱりラッピングされた焼き菓子について尋ねました。

「ね、それは何処のお店?
 凄く可愛い」

「向こうの通りの真ん中くらいのお店だよ」

「ありがとう。
帰りに行っても無くなってないと嬉しいんだけど」

ホットワインのお店は店主と店員の彼女の2人だけのようで、抜け出して買うことは難しそうに見えました。

「良かったら上げるよ。
 きっとシュトーレンとホットワインの組み合わせって合うと思うよ」

ディックが差し出すと店員は首を振ります。

「悪いわ!
 貴方たちが買ったものなんだし」

「だって今日からマーケットが始まってお姉さんは忙しくなるだろうから。
 僕たちはまた買いに来るからさ。今度来たら感想教えて欲しいな」

ウインクしたディックを断れる女子なんてこの世に存在しないでしょう!
彼女は素直に頷くと、「これ、サービス!」ホットワインをまた注ぎ足してくれました。

なみなみと注がれたホットワインを片手に広場を散策していると、石畳の上で物乞いをするホームレスと目が合いました。
その人は足を悪くしているのか杖が彼の横に置かれています。
ディックはポケットをまさぐって小銭を探しましたが生憎持ち合わせがなく、後から来たジェイソンからホットワインを受け取るとその人へ渡しました。
ジェイソンの了解なんて必要ありません。困った人へ手を差し伸べるのはこの家の家族にとっては当たり前の事なのです。

「今貰ったばっかりだからあったかいよ」

ディックはかじかんだその人の手にしっかりとカップを握らせます。

「良いホリデーを」

微笑んだディックに、ジェイソンも足元の缶の隣にクッキーを置きました。

「持ち合わせがなくて」

少しだけ申し訳無さそうな声のトーンに、彼の優しさを知って更にディックは心が温まります。

「ありがとう、ありがとう…」

その人は何度もお礼を、それこそ2人が雑踏に消えるまで何度も唱えていました。

「プレゼント、無くなっちゃったね」

「…まぁ、買えなかったって言えばいいだろ」

「うん」

マーケットの人混みに紛れるように、そっと2人は手を繋いだのでした。





きっかり1時間後。

時計台の元に集まったブルース、ティム、ジェイソンとディックでしたが誰一人としてプレゼントの包みを持ってはいませんでした。

「…?」

「あれ??」

「買い物は…?」

皆が首を傾げていた所にアルフレッドが遅れてやってきます。

「お待たせ致しました」

小さなモミの木を抱えた執事に皆が驚きました。

「アルフレッド!?」

「それは一体…?」

家族が口々に尋ねると、アルフレッドは静かに話します。
内容を要約すると、車を停め、広場まで来る間に目の不自由なご婦人の道案内をしていたところ、一緒にツリー用の樹を買ってもらいお礼として渡されたとのことでした。

「アルフレッドもクリスマスの妖精に微笑まれたんだね」

ティムが笑って握った掌から木彫りの馬を差し出します。

「僕も人助けをしたらコレを貰ったよ」

「奇遇だな」

ブルースが続けます。

「おれたちも迷子の子を助けたらコレを貰ったんだ」

ダミアンが見せたのはブリキのオーナメントです。

「おや、まぁ!」

アルフレッドが驚くと、そのまま話題はディックとジェイソンに移りました。

「僕たちは――」

ディックが口を開くと

「見つけたわーーーお兄さんっ!」

遠くから彼らに向かって駆け寄って来る人物が見えます。
その人はシュトーレンのお店の場所を聞いた不思議な様相の人でした。

「あぁ、貴方は…!」

「無事にシュトーレンが買えたわ、とても感謝してる」

その人は続けます。
見た事のある可愛らしいラッピングはあのお店のものでした。

「それから広場の物乞いの人にクッキーとワインをくれたのね。
 さっき話を聞いたの。
 誰にも相手にされない私たちに優しくしてくれてありがとう」

その人は早口で続けると隣のジェイソンに何かを渡します。

「貴方たちにも良いホリデーでありますように」

足早に去ったその人をまるで嵐のようだとぽかんと見送ると、ティムがはっとしたようにジェイソンを突きました。

「ね、何?
 何を貰ったの?」

「お、おう…」

ジェイソンが紙袋を覗きます。
其処には天使の形をしたオーナメントが2つ入っていました。針金に布切れを巻いた簡単な作りのものでしたが優しく微笑む天使の姿が容易に想像できます。

「…きっと天使に見えたんだろうな」

呟いてディックを見上げたダミアンに、ちょっとだけ照れたようにディックははにかみましたが、本当に天使のような笑顔だったとティムは思います。

「では、皆さんのオーナメントはこちらのツリーに飾りましょう。
 きっとお屋敷で1番美しいツリーになりますよ」

アルフレッドが提案すると、ブルース、ダミアン、ティム、それにジェイソンとディックは大きく頷きました。

「ウェイン家の新しいツリーだな」

「玄関の1番日当たりの良い所に飾ろうか」

「勿論夜はライトでピカピカさせるよね」

「きっとこの下にプレゼントを置いたらとっても素敵だと思うな」

笑顔で話す子供たちに、家長のブルースも嬉しくなってそっと微笑みます。
其れを見ていたアルフレッドも優しく笑みを浮かべるのでした。

クリスマスの少し前の、ウェイン家のお話です。

*おしまい*

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