Serena*Mのあたまのなかみ。
いつもの?カラトド。
友達の誕生日に贈った話なので誕生日がテーマです。
友達の誕生日に贈った話なので誕生日がテーマです。
“誕生日”なんて全く良い日だなんて思えなくて。
1年365日のうち特別な日らしいけれど6つ子のトド松にとってはその特別な日ですら1/6の価値しかなかった。
ホールケーキは1カット貰えるだけだったし誕生日に用意される母のご馳走だって兄たちとの争奪戦だ。
寧ろ、ご馳走であるが故に争奪戦になると言っても過言ではない。
だから誕生日は特別な日だなんて思ってなかったし、寧ろ喧嘩の多い面倒な日とすら思っていた。
そんな、今年の誕生日。
「ただいまぁ」
もうすっかり暗くなった夕方、建て付けの悪い玄関の引き戸をトド松は開ける。
いつもならば明りの灯っている居間が暗く、部屋には寒さすら覚える。
玄関脇の靴箱に手を掛けて靴を脱ぎながら「あぁ」彼は思い出した。
先日の町内会の福引で温泉旅行を当てた両親は昨日から留守で、戻るのは明日だったこと。
三番目の兄は推しアイドルのライブで今夜は遅いこと、すぐ上の兄は草野球チームの飲み会で出かけたこと。
「ん~…すっかり忘れてた」
ぱちんと居間の電気をつけて、真ん中に置かれたちゃぶ台にトド松は買ってきたケーキの箱を置く。
インスタグラムで人気のお店で買った其れは1時間並んで購入した代物だったが、純和風な作りの我が家にふわふわのリボンで飾られた其れが妙に浮いて見えて、別に無理して買わなくても良かったんじゃ…そんな風に思ってしまう。
けれど、
――まぁ、いいか。
そのうち他の兄も帰ってくるだろう。トド松は着込んだコートをラックに掛ける。
別に自分で食べたっても構わないし、寧ろ早く食べたがる兄たちを気にせずゆっくりと写真撮影が出来るだろう。彼は算段する。
と、コートのポケットのスマートフォンが鳴ったので画面に指を滑らせる。差出人は近くの河川敷でおでん屋を営むチビ太からだった。
『誕生日おめでとう。
忙しくて一松を借りてる』
今日は金曜日。帰り道に一杯引っ掛ける人も多いのだろう。トド松はチビ太の温かいおでんも頭に浮かべる。
四番目の兄の帰りはきっと遅い。
最後の客が帰るまで無理に店じまいをしないのはチビ太の良いところだ(勿論、おでんが無くなった時は問答無用で店を閉めるのだが)。月が頭の天辺に輝いていても営業しているのを分かっていたから、「頑張れ、兄さん」小さくエールを送りつつ、返信しようと画面を開く。と、今度は兄弟のグループラインに長兄からの連絡が入った。
『誕生日ラックやべぇ!!
玉止まんねぇから今日は打ちつくす!!!!!!!!!!!』
呆れた事にこの兄は朝からパチンコに興じていたらしい。
「はぁ?」大きめの溜め息を吐いて、返事なんていいや、不機嫌に頬を膨らませたところに
「ただいま」
家族の少し低い声が響いた。
一番目の兄はパチンコ、
三番目の兄は推しのライブ、
四番目の兄はチビ太の手伝い、
五番目の兄は飲み会、
と、すると――
「おかえり、カラ松兄さん」
ひょっこり居間から顔を覗かせた末弟にカラ松は
「ただいま、マイブラザー」
もう一度挨拶をすると、その手に持った箱を掲げる。
シンプルなクラフト紙の包装は駅前ににある小さな洋菓子店のもので、トド松も小さい頃から慣れ親しんだ味のものだった。
――きっと兄も同じ思いで兄弟のケーキを買ったのだろうか?
思うとやっぱり兄弟なんだなぁ、心がほっこりと温まる。
彼は兄に続ける。
「他の兄さんたちはみんな出払ってるよ。
僕たちふたりきり」
口を尖らせたトド松に、靴を脱ぎながらカラ松は続ける。
「なんてこった。
それなら今夜はオレの夢が1つ叶っちまう」
相変わらずニヒルに笑ったキメ顔に辟易しながらトド松は尋ねる。
「夢?」
「ホールケーキを一人で食うこと」
ドヤ顔でケーキをちゃぶ台に置いた兄を、トド松は笑う。
「え、それって僕にはくれないってこと?」
「あ、ぇ、それは――」
――キザな台詞はすらすらと吐くのに、トド松への返しが浮かばなかったのか慌てカラ松に、トド松は自分が買ってきたケーキを指差す。
「僕もね、みんなで食べようと思ってケーキ買ってきたんだ。
ほら、僕たちってずっとカットされたケーキしか食べたこと無かったじゃない?」
悪戯っぽくウインクすると、安堵したようにカラ松は頷く。
彼だっていつもケーキは1カットされたものだったし、ご馳走の争奪戦に参加していた身だ。
美味しいものを独り占めしたい欲はよく分かる。
「……そうだな、今夜はケーキパーティだな」
キメ顔で笑った兄に、「お茶の準備するね」トド松にっこりと返した。
*
トド松の買ってきたいちごやキウイのたっぷり乗ったフルーツのタルトと、
カラ松の買ってきた王道のショートケーキを並べて、彼らは長年の夢であった“ホールケーキを一人で食べる”ことを実践する。
「ハッピーバースデー、トド松」
「お誕生日おめでとう、カラ松兄さん」
色違いのマグカップに用意されたコーヒーをかち合わせて彼ら互いの誕生日を祝福する。
カラ松はケーキとオレ、を何十枚も自撮りをし、
トド松はSNS用に美味しそうな角度でケーキの撮影を心行くまでしたあとに、其々のケーキにフォークをつき立てる。
けれど、順調に食べ進められたのはほんの最初だけで、糖分と脂肪分たっぷりの其れは成人男子である彼らの胃には少々重く、半分も食べたところで二人してフォークを投げ出してしまった。
「……うっ…」
「もう、ムリ…」
食べかけのケーキを放置したまま行き倒れる二人は恨めしそうに無残にも食い散らかされたケーキを見遣る。
勿論、どちらのケーキも物凄く美味しい。けれど、これ以上食指が動かなかった。
いつもは騒がしい誕生日に、ケーキの残骸に寂しさを覚る。
――いつもなら。
いつもなら綺麗に家族の胃へと納まってしまうケーキ。
兄弟6人と両親、瞬く間に無くなってしまうケーキだ。なのに、今日は……
と、そこへ――
「たっだいまーーーー」
「だたいま~」
「…ただいま」
「ただいまただいまー!!!!!!」
勢いよく開いた引き戸の音に、居間で伸びていたカラ松とトド松が慌てて起き上がる。
「あーーーーっ!
お前ら二人だけでケーキ食っててずりーぞ!?」
スニーカーを脱ぎ捨てた、赤いパーカーの長兄がいの一番にショートケーキの苺を口に放り込む。
「チビ太がお祝いにっておでん持たせてくれた」
ちゃぶ台に小鍋を置いた一松がフルーツタルトをつまむ。
「思ったより早い電車で解散したからさ、帰ってきたんだ。
誕生日だしさ」
兄弟の脱ぎ散らかした靴を丁寧に揃えながら言ったチョロ松に、
十四松が2つのケーキを口に詰め込んでいた。
「あはは、すっげーーーうまい!
なにこれ天国!?」
「んだよ~誕生会するならするって言えよぉ」
今度はチビ太のおでんをつつきだしたおそ松に、トド松はほんの少しだけ嬉しそうに口の端を上げた。
「みんな、コーヒーでいい?」
立ち上がった末弟に、
「僕も手伝うよ」
世話焼きの兄がトド松に振り向く。けれど、それをカラ松が制止した。
「いいよ、お前だって疲れてるだろう?
残り物で悪いが好きに食ってくれよ」
言って、台所に消えたトド松を追いかける。
背後の居間からは、騒がしい兄弟の声が響く。
――ほんの5分前は、満腹の二人の溜め息しかなかったのに。
やかんに火をかけたトド松を手伝って、インスタントコーヒーをカップに入れたカラ松が満足そうに呟く。
「やっぱり、オレたちの誕生日はコレが似合ってるな」
「…うん」
少しだけ身長のある兄に甘えて頭を預けると、幸せそうにトド松も頷いた。
「でも、兄さんと二人っきりで過ごす誕生日も、僕は好きだよ」
お得意の顔で見上げると、不意打ちに弱い兄は表情を固まらせたままで、それが面白くてトド松は背伸びをして唇を触れ合わせる。
ちゅっ
薄暗い台所に響く音に、居間の家族は気付いただろうか。
「…今年も仲良くしてね、にいさん」
――背後に広がる喧騒と、恋人のドキドキする心臓と。
相変わらず兄たちが騒がしくて、ご馳走もない誕生日は好きじゃなったけれど、こうして優しい恋人と“特別な時間”を迎えられるのなら悪くないなぁ、吹き上がる湯気を見ながらトド松は思っていた。
*おしまい*
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