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Serena*Mのあたまのなかみ。
バットマン/ジェイディク

社交ダンスするジェイディクちゃんが男性ポジションしか取れなくて
ダンスすると下手すぎてジェイぴにゲラゲラ笑われる話ないですか

――って呟きを素直に具現化しただけの話。
ディックに対して強気なジェイソンが好きです。








“世の中面倒なことばかりだ”
なんて厭世観を持つジェイソンではあったが、何故か芸能人のゴシップ情報やバラエティーショーなどの番組が好きで、寝る前のひとときや空いた時間にそう云ったものを見ることが多かった。
今だってキッチンを片付けるディックを尻目に、お気に入りのバラエティチャンネルを難しい顔をして眺めている。毎日お昼時に放送されるそれはゲストがホストに己の趣味の世界を披露する番組で、毒舌なホストの鋭いツッコミや、お気に入りのゲストの時の見え透いたおべっかが軽妙で短時間放送ながらも人気のある番組だった。

『今日のゲストは――“社交界”に魅入られた女です。どうぞ』

大きめの音量からはそんなホストの声が流れてくる。

「ジェイ、コーヒー飲む?」

キッチンから声を掛けたディックに、「飲む」ジェイソンは振り返る。

「今日はどんな話?」

コーヒーメーカーをセットしながらディックが続けると、ジェイソンが

「社交界だってさ」

画面を指差す。
指差した先には煌びやかなシャンデリアと大広間が映し出されており、色とりどりのドレスを着た女性と燕尾服の男性がダンスを披露しているところだった。

「わ~綺麗だね。何処の宮殿だろ?」

コーヒーメーカーのスイッチをONにしてディックはジェイソンの隣に座る。

街の名士であるウェイン家の息子として育った2人はティーンエイジャーの頃に“社交界”デビューは果たしていたし、しっかりと社交のマナーやダンスも叩き込まれていた。ウェインの家を離れた今だって、名士の息子としてこう云った正式なパーティーへ出席することも多い。つい先日だって家族で財界のパーティーに出席してきたばかりだ。それこそジェイソンの好きそうな噂話から、重要な会談についての密談まで煌びやかな夜に隠された闇は多い。
そんな噂レベルの話であっても街の警護には必要な情報でもあったから、いつでも新鮮な情報を仕入れられるよう、彼らは注意深く式典に参加するのだった。

『そう、ここからが所謂“社交界”の始まり。ダンスの時間です』

コバルトブルーのドレスを揺すりながらゲストは嬉しそうに映像の説明を始める。

冒頭に見た映像と同じ、宮殿の大広間に広がる美しいドレスの花にゲストの声に熱が帯びる。
――ディックやジェイソンだってこうして踊ることだってあった。
ブルースに頼まれてマダムに『ダンスを教えてくれませんか』なんて誘ったこともあるし、年若いレディに『こんな場所、慣れないでしょう?少し気分転換しませんか』と手を取ったこともある。
赤、青、緑に紫……煌びやかなドレスはそれだけで美しく、見てるだけでも悪くないなぁとディックは思うのだが、ジェイソンはいつも壁の花で、食事する人々の話に耳を傾けているのだった。

「Shall we dance?」

ジェイソンがおどけてディックの手を取る。
ディックの顔が驚いたように固まるが、すぐにぱぁっとした笑顔が広がった。

「I would love to.」

頷いて立ち上がって、少しだけスペースのあるソファの裏でダンスの姿勢を取る。

「……えっと?
 僕が女性役?」

お互いエスコートに慣れていたしダンスもお手のものだったけれど、2人とも“男性”だったので腰に手を回して手を取る状態となってしまった。

「男2人じゃ踊れないだろ」

ジェイソンは言ってディックの手を自分の肩に乗せる。

「う~ん、変な感じ」

ディックは腑に落ちないような顔をしていたが、至近距離に見上げた恋人の横顔が思いの他洗練されていて思わず視線を逸らせてしまった。
――滅多に彼をこうして見上げる女性は居ないと思うけれど、誰にも見せたくないと、珍しく独占欲が湧き上がる。

そんな恋人の想いをつゆ知らず、ジェイソンは音楽の無い部屋で低くカウントを取る。

「1,2,3――」

踏み出した一歩と体勢がぴったりと逆転して思い切り2人は肩をぶつけてしまった。

「「!?」」

重なる2人の驚いた顔に、抗議したのはジェイソンが先だった。

「エスコートするのは俺!こっちだろ」

「あっ、えっ!
 分かってるけど普段男性側の動きしかしてないもん。勝手に動いちゃうよ!」

恋人の言葉に負けじとディックも返す。

「えぇっと…男性側のステップがこっちだから…」

ゆっくりとステップを合わせるディックを手伝いながら、ぎこちない動きにジェイソンは笑い声を漏らす。

「もう、笑わないでよ!
 こっちだって必死なんだから」

頬を膨らませて見上げる恋人に、悪かった、素直にジェイソンは謝ってステップを続ける。

――何事もソツなくこないしそうに見える恋人だったが、時々こうして驚くほど不器用なことがあって、それがまた人間らしくて好感が持てた。

……けれど、身体に染み付いた男性側の動きは、それだけ多くの女性をこうしてエスコートしてきた証しでもあり、見知らぬ数多の女性たちに嫉妬すら覚えてしまう。

急に難しい顔になった恋人に「ジェイ?」滑らかなステップを踏みながらディックが尋ねる。

「……ん、何でもない」

ジェイソンは続けて、少しずつステップの速さを早める。

ボロアパートでの狭い一角で踊る2人はリラックスウェアではあったけれど、その立ち振る舞いは社交界でダンスする男女と寸分の違いは無く、美しい佇まいだった。最後は華麗にターンを決めてお辞儀をすると、ディックは切り出す。

「ねぇ、ジェイソン」

キッチンのコーヒーメーカーはとっくにコーヒーの抽出を終えていて、ジェイソンはサーバーから茶褐色の液体を愛用のカップに注ぐ。

「なんだ?」

ついでにディックの分もコーヒーを注ぐと揃いのマグを恋人に手渡した。

「あのね、僕のワガママだし笑っちゃうかもしれないけど……」

ディックは俯いて続ける。

「――ダンスしてるジェイがあんまりにも格好良いから…出来ればあんまりパーティで踊って欲しくない……」

あまりに子供じみた願望に、ジェイソンは口に含んだコーヒーを噴出しそうになって、そしてなんとか飲み込んだ。
激しく咳き込んだ彼に、慌ててディックは背中を擦る。

「ご、ごめん…
 びっくりしたよね……」

縮こまる兄に、ジェイソンも提案する。

「いいぜ。
 お前が他の誰とも踊らない、って言うなら」

したり顔で告げたジェイソンに、今度驚いたのはディックの方で

「無理だよぉ」

にべもなく返されてしまった。

「…だと思った」

――まだ年の若いダミアンやティムに社交界で情報を掴ませるのは難しい。
表の顔、プレイボーイのブルースの家族だからこそディックもジェイソンも諜報として活動が可能なのだ。其れを無下にする理由はない。

「格好良かったからさ、ジェイソン。
 ちょっとワガママ言っちゃった」

悪戯が見つかった子供のようにチラリと舌を覗かせてコーヒーを啜ったディックに、ジェイソンも告げる。

「俺も、お前がエスコートした女たちが羨ましいって思ったよ」

キッチンのシンクに寄りかかると、嬉しそうにディックが笑う。

「じゃぁ、僕たち両想いってこと?」

ジェイソンはコーヒーを飲み干してニヤリとした、お得意の笑顔を向けた。

「――そんなの、付き合う前から分かってたろ?」

*FIN*

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