Enjoy ★ BBQ

バットマン/ジェイディク

2018.11.17-TU12で配布したペーパーより

小さなBBQグリルを購入した。

勿論、ゴッサムの実家に行けば大きくて最新式のBBQグリルがあるし、何よりアルフレッドの美味い飯が出てくる。けれどディックと籍を入れた今、BBQの為だけに実家に帰るのもなんだか恥ずかしくなって（勿論、父・ブルースもアルフレッドも「いつでも遊びにおいで」とは言ってくれるのだが）小さなグリルを購入したのだった。

アパートのベランダでBBQをしてる住人が居たから、此処でBBQをしても文句を言われる可能性は少ない。
たった二人ではあったが、「週末はバーベキュー♪」ディックは指折り数えてその日を待っているのだった。
待ちに待った土曜日の午後、ジェイソンは買ったばかりのピカピカのBBQグリルに火を入れる。
ゴッサムで使っているものより随分と性能が悪い其れだったが、小さなサイズのものだし、必要最低限の機能があればいいとジェイソンが選んだものだった。

「わぁ！」

全開にした窓の後ろで折り畳み椅子やテーブルを引っ張るディックが、炭火のおこる音に惹かれて窓から上半身を覗かせる。

「どう、ちゃんと出来そう？上手く焼けそう？？」

ベランダのサンダルを突っ掛けて覗き込んだ彼に、ジェイソンは少しだけ得意げな顔を作った。

「ふん、俺がいつからバーベキュー焼いてると思ってんだ。
　甘く見るなよ？」

――繊細そうに見えるディックは何事も丁寧でソツなくこなす男だったが、この〝料理〟に関しては少しだけ相性が悪く、いつもグリルしすぎた野菜やまだちょっと赤味の残る肉なんかを提供するのだった。
いつからかBBQをする時はウェイン家の主人であるブルースと息子のジェイソン、それにアルフレッドが担当（※）となり、ディックやティム、それにダミアンは美味しく焼かれた肉を食べたり、庭にテーブルの準備をするのが役目になっていた。

「……知ってた。
　早くジェイの焼いたお肉が食べたいな」

上目遣いにペロリと舌を出したディックに、ジェイソンは視線を外して、鉄板に手を翳す。掌に伝わる熱はまだ温(ぬる)かったから、火を掻き起こした。
ディックはそんなジェイソンを見て目を細める。その顔は、実に幸せそうだった。

「だってさ、僕らが“夫婦“になって初めてのBBQでしょ？
　ジェイがこの家の大黒柱♪」

嬉しそうに呟いて、旦那であるジェイソンの首筋に口付ける。

「……肉と野菜の用意は出来てるのかよ」

返したジェイソンの頬が少しだけ赤いのは、グリルの炭火の所為だけではなさそうだった。

「うん、昨日アルフレッドに聞いてちゃんと用意しておいたんだ！」

ディックはそんなジェイソンには気付いていないのか、隣に置いた小さなテーブルから彩りよく刺さった肉と野菜の串を差し出す。
ジェイソンがあまり好きではないと言ったズッキーニを抜いて、代わりに紫の綺麗な茄子が刺してある。それから好物の玉ねぎは二つ繋ぎで刺さっていた。

「……新しい、トッド家(ぼくら)の定番」

珍しくはにかんだディックに、ちょっとだけジェイソンは面食らったように瞳を見開くと、直ぐに歯を見せて笑った。

「嫌いじゃないぜ、その串」

「ほんと？」

見上げたディックの額に、ジェイソンは唇を押し付ける。

「さ、我が家のBBQを始めるか」

★おしまい★

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※アメリカのＢＢＱではホスト家の主人がグリルする
（感謝祭のターキーと同じ）