駒鳥たちの臨時休暇

平和な蝙蝠一家妄想。
現実世界の雪をそのまま二次元に放り込む。

ゴッサムの街に、雪が降りました。

2日前から出張っていた寒気がもたらしたのは毎年雪が降るゴッサムにしてでも珍しいくらいの大雪で、一晩で膝のあたりまで積もりました。
TVのニュースでは不要不急の用事以外では出かけないように呼びかけたり、ハイウェイでの大規模な渋滞や転んで怪我をした人の報道がされています。

いつも以上にしっかりと焚かれた暖炉の大広間で経済新聞を捲っていたブルースは銀縁眼鏡の奥からひょいっと子供たちを見つめました。

「…学校は」

年代物の大時計の針はもうすぐ9時を指そうとしています。
普段なら子供たちがバタバタと出掛けて静かな時間なのに、今日は皆それぞれ寛いでいましたからブルースは尋ねたのでした。

「今日は休みだよ。
　朝一に連絡が回ってきた。な？アルフレッド！」

一番に答えたのはプライマリースクールに通うダミアンで、朝早くに学校からの連絡メールで今日1日の休みを受け取ったアルフレッドから伝えられていたのでした。休みだと言っても本来は学校の日ではあるのでホームワークも課されていましたが…

「僕は教授から休講の連絡があったよ。
　昨日のハイウェイの渋滞で懲りたって」

次に答えたのは大学に通うディックで、卒業を控えた彼は大学へな勉強へ行くと言うよりも調べ物をしたり論文の相談を教授とするために学校に通っているようなものでした。

「いいなぁ、休み組は。
　僕は3時間目から授業だって」

友人とのメールをひっきりなしにやり取りしているティムが顔を上げます。
電子工学の専門高校へと通っている彼の学校はこの大雪でも閉校せず授業を決めたようです。学校前に専用の地下鉄駅があるのも強行できる由縁でしょうか。

「父さん、車出して貰っても良い？
　今日のバスはすし詰めで死にそうだって」

遠い町から通ってきている友人からの連絡を見て、ティムは顔を顰めます。
普段はあまり子供たちを甘やかさないようにしているブルースですが、今日ばかりは可哀相になったのか頷いてくれました。

「俺で良かったら車出すけど」

コーヒーを飲んでいたジェイソンが顔を上げます。
彼はハイスクールを卒業した後、世の中の勉強をしたいと敢えて進学はせず父の仕事を手伝ったり、教会のボランティア活動に尽力したり、はたまた夜中の工事現場でアルバイトしてみたりと自由な生活を送っていました。

「いいの？」

「この辺の友達も居たら一緒に乗っけてってやるよ」

普段はぶっきらぼうであまり兄弟と馴れ合おうとしないジェイソンでしたが、困った顔の弟は兄として心配なのか優しい言葉を掛けてくれます。

「ありがとう、ジェイ」

ティムは言うと、早速友人たちへと学校行きの車の手配が完了したことを知らせます。

「父さんの会社は？」

ニュースサイトに目を通していたディックが尋ねます。
ブルースは経済新聞を畳んで少しだけ冷えた紅茶を啜りました。

「今日は休業の通達をしてある。
　会議の日程も全て変えるように昨日から知らせてあるから、今日は殆ど誰も来てないんじゃないかな…」

彼が手元もパソコンを叩くと、ゴッサム本社のとある営業フロアが映し出されます。
普段は仕事に没頭する社員が映し出されている映像でしたが、今日はブルースの言葉通りに閑散としていて、管理職であろう中年のでっぷりした男性がPCとにらめっこしていました。

「わ、本当だ。
　彼も早く帰れると良いね」

モニターを見てディックが言います。
彼の言葉にブルースは頷くと、モニターを落としました。

窓の外は相変わらずしんしんと雪が降っています。

「さて」

立ち上がりながらブルースが呟くと、子供たちが一斉に父に注目します。

「この広大な庭の雪で何かしようと思うんだが…？」

「雪合戦？するする！」

やっぱり一番に飛びついたのは末っ子のダミアンで、

「いいね」

とディックも肩を回します。

「たかだか遊びだって行っても戦略は欠かせないよ？」

不敵に笑ったティムに、ジェイソンが

「…ったく、子供みたいにはしゃぐなよ」

言いますが、彼もウキウキと嬉しそうです。

そんな様子を見ていたアルフレッドが、にっこりと笑いました。

「では私はスキーウェアを用意しましょうか」

ゴッサムの雪は、どうも人を笑顔にするようでした。


＊FIN＊



きっとクラークはその話を聞いて「なんで呼んでくれなかったの！」って言いそうw
（デイリープラネット社はお仕事でした★）