へいねつ

メダリスト/夜鷹×司

夜鷹純への違和感は、その日誰もが抱いていた。

笑顔が得意ではないと自他共に認識されているが、今日の彼は幼少時のクラスを覗く時から薄っすらと口角を上げている。

「さようなら！」

怖いもの知らずの5歳が夜鷹を見上げても「…さようなら」彼は小さく頷き返し、“面倒は見ない”公言している筈の理凰にも

「…もう少しアウトサイドで踏み切って。それから着氷の時は顔を前に向けるのを意識してみて」

なんてジャンプに苦戦する彼を呼び寄せる。
勿論、反発する理凰ではあったものの、父（慎一郎）にも促され、言われたように身体を動かすことを意識すると、回転力が増して着氷もスムーズになり、ジャンプの成功率が上がった。

勿論、それは愛弟子でもある光にも注がれ、普段は「やって」その一言で終わる彼が助言をするのだ。

「今のステップは良かった。その感覚を忘れないで」
「スピンの最後の体重の移動が甘い。そのまま身体を乗せて」
「……疲れたなら休もう」

用意したスポーツドリンクを差し出す夜鷹に、流石の光も訝しむ。
刹那、

「お世話になります！」

大方の練習生が帰ったスケートリンクに、爽やかな声が響く。
声の主は明浦路司で、鴗鳥に誘われていのりを連れて特別練習に来たのだ。

「いのりちゃん！」

氷上で顔を輝かせた光に、「光ちゃん！」いのりも破顔する。

指導を無視してリンクサイドに滑る教え子を夜鷹は見送ると、現れた司に冷ややかな視線を浴びせた。

「………」
「な、なんなんですか…」

司も眉を寄せるものの、即座に彼の違和感に気が付く。

「ちょっと、失礼します」

そう言って、親が子供にするように額と額を合わせると「わ！」慌てて鴗鳥を呼びに走った。

「ね、熱がありますよ！！！」

＊

曰く。

「彼と同じくらいの体温だったから普通だと思った」

すっと隣の司を指差した夜鷹に、

「お、俺の平熱は36.9度なんです！」

無罪だとばかりに司は首を振る。確かに平熱が35度の人間が37度になるのは“熱”だよな、子供も熱が高くても平気で走り回るし、なんて鴗鳥は納得するものの、

――どうして、純くんが明浦路先生の平熱を知っているんだ…？

純粋な彼は頭に疑問符を浮かべるのだった。

＊おしまい＊