あめ

メダリスト/夜鷹×司

その日は朝から雨が降っていた。

珍しく「帰っていいよ」言わない夜鷹は司にべったりで、2人掛けのソファに座った司に寝そべりながらルームサービスのワッフルをつまんでいる。
時々ワッフルを司の口元に運んで食べさせてみたり、汚れた指先を拭うように司の胸を揉んだりと傍若無人な振舞いに、流石の司も堪忍袋の緒が切れた。

「もう、何なんですか貴方は！」

曇天に司の機嫌も少し悪かったのかもしれない。
珍しく見せる怒った顔に夜鷹は長い睫毛の目を瞬かせると「ごめん」小さく謝った。

「君があったかくて気持ち良くて」
「貴方の体温が低すぎるんです。
　それより、チェックアウトの時間でしょう。いい加減退いて下さい」
「ん、午後まで延長して貰った。
　雨だし、ずっと居ていいよ」

さらりと監禁宣言をした夜鷹に、司は溜め息を吐く。
この雨の中、司だって出掛ける気は微塵もない。けれどここはホテルの一室で、寛ぐ自室ではないのだ。

「時間の問題じゃなくて。
　……俺の膀胱が限界なんです。降りて下さい」

司の告白に夜鷹は目を見開くと

「…おしっこ？」

載せた頭を押し付ける。

「バカなことしてないで早く退いて下さい」

諭すように肩を叩き、大人な対応を続ける司だったが、当の夜鷹は知らぬ存ぜぬ。

「我慢できるの？　限界？？」

普段は口が重いのに、こんな時ばかり饒舌になって質問を繰り返し、司は更に頭を痛めた。

「勝手に行きますからね」

怪我しても知りませんよ。
力で勝る司は夜鷹をくっ付けたまま立ち上がると

「あ～…」

氷上の帝王をソファに転がして洗面所に逃げ込む。
扉を閉めて鍵を回し、便器に座って人としての尊厳を保つと、やっと大きな溜め息を吐いた。

――一体、あの人は何を考えてるんだ。

本人にその気は無いとは言え、あんな執拗に胸を弄って。
そもそも何も感じない筈の場所なのに、どうして、こう――

そうして、少しだけ反応した愚息に肩を落とす。
一方、部屋に残された夜鷹も曇り空を眺めながらぼんやりと考えていた。

――どうしたら、1日彼とくっついていられるかな。
いっそのこと、家に誘って世界選手権の映像でも見ようか。温かいココアが彼には似合いそうだ。マシュマロも浮かべて。うん、悪くない。

胸筋の感触を思い出しながら頷く夜鷹は、それが、同居する理凰との争いの火種になるとは微塵も思わず、2人の思いはすれ違うのだった。

＊おしまい＊