あこがれ

メダリスト/夜鷹×司

司の持ち物は、いつも目に鮮やかだ。
明るい緑のジャージに白いパーカー。背負ったリュックには蛍光色の反射材が目立ち、空色のダウンも似合っていたし、いつだったかは「安くなってて」なんて赤と黒のウインドブレーカーを羽織っていたこともある。
それに、時折教え子のいのりから「先生、ちょっと持っててください！」なんて可愛らしいクマ耳の帽子も被せられたりして、違和感なく被り、似合っているのも不思議だった。

――フィギュアスケーター出身故の姿勢の良さと、本人の体躯の良さも相まって司の姿は遠くからでも目についた。

なのに、

「いのりさん、ちょっと見てて」

羽織ったジャンバーを置き、氷上に立つ司のインナーはいつも黒で他の色は見たことが無い。
ぴっちりと張り付く素材のスポーツインナーに程よい肉付きの胸の膨らみは隠しきれず、真ん中の谷間に影を落とすのは目のやり場に少しだけ困った。

名港リンクでの合同練習の折、練習生が自由滑走している中、リンクサイドに佇む司に夜鷹は尋ねたことがある。

「…どうして、その色なの」

いのりに手本を見せたばかりの司は相変わらず黒のインナーの姿で、嵌めた手袋も同じ黒。
普段、カラフルな装いの男の落ち着いた色合いの新鮮さに夜鷹は目を細める。
遠慮なしに隣に座った男に、司は肌が触れない距離に座り直すと

「……憧れのスケーターが、黒い練習着を着ていて」

なんて照れたように笑って頭を掻いた。

彼の言葉に、夜鷹の思考が停止する。

――以前、夜鷹に憧れてこの世界に入ったと司は教えてくれた。
彼の言う憧れの人物、それは……

練習着くらいなら真似出来るかなって。はにかんで続けた言葉は夜鷹の耳に届くはずもなく、
後日、自身の愛用するブランドと商品のURLを大量に送り付けられた司は

「0の桁が違う！」

意味の分からない夜鷹の行動にドン引くのだった。

＊おしまい＊